法案改正後に初会合、案内士の基本方針議論(通訳案内士検討会)

検討会のようす

 観光庁は6月2日、同日交付された改正通訳案内士法について、試験や研修のあり方などについて検討する「新たな通訳案内士制度に関する検討会」の初会合を行った。改正法は、交付から9カ月以内の2018年3月1日までに施行しなくてはならず、検討会では、通訳案内士の基本方針の検討のほか、研修機関の要件や有資格者の認知度向上方策などについても議論を重ねていく。

 冒頭のあいさつで観光庁の加藤庸之観光地域振興部長は、約60年ぶりの大改正について「いろいろと検討する課題は多い。今後4千万人、6千万人というインバウンドを目指していくなかで、通訳案内士制度もその都度インバウンドの状況に合せて引き続き検討をしていかなければならない」と語った。

 改正法では、訪日外国人の地方訪問の増大や、現行の通訳案内士が大都市部に偏在し、言語も英語に偏っていることなどへの対策として、業務独占規制の廃止や、地域ガイド特例を一本化し「地域通訳案内士」として全国展開することなどが盛り込まれた。

 これらを踏まえ、事務局は今後の検討課題として、「政・省令」や「告示・通達・ガイドライン」を定めるため、改正法の施行期日や、通訳案内士に関する基本方針などの検討が必要であることを明示。月1―2回程度検討会を実施し、(1)既有資格者の研修内容(2)全国通訳案内士の定期研修の内容(3)試験の実施方法・内容――の3項目に関しては別途作業部会を設立し、検討を進めていく旨を説明した。

 これらの検討事項について委員からは「有資格者の意義について、JNTOなどを通じ、もっと海外に発信していかなければならない」との意見が多数出され、今後訪日外国人に向けたPR方法についても検討を進めていく。

「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」運営ジーリーメディアグループ 吉田 皓一代表に聞く

吉田 皓一代表
「新事業に舵を切る」

メディアの枠 超える、台湾、香港特化の新事業

 訪日台湾、香港人に特化したサービスが耳目を集めている――。ジーリーメディアグループ(吉田皓一代表)は、台湾、香港人向け訪日観光情報サイト「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営している。月間PV数は500万を超える。今年に入り体験型ツアー予約システムなどを導入し、メディアの枠を超えて新事業に舵を切った。改めて吉田代表に事業内容や今後の方向性、自治体が持つ課題などを聞いた。

【平綿 裕一、謝 谷楓】

 ――ラーチーゴーの特徴や日本での企業体制を教えてください。

 我われが掲載している記事はすべて台湾人記者が、企画・取材・記事化しています。徹底しているのは読者側の視座に立ったコンテンツマーケティングということ。「これが地域のおススメです!」など、発信側の押し売りをただ記事にしているわけではありません。

 自治体からの取材依頼時には、地域のアピールポイントを10個ほど提示してもらいます。これらを取捨選択して2―3個に絞り、台湾、香港人が見て面白いと感じるものだけを記事にします。先方の意向も汲み取りつつ、台湾、香港人市場を考慮し、台湾、香港人が望む有益な情報に変換していきます。

 編集部は契約の台湾人記者も含めて、北海道から九州まで日本各地に全部で30人います。編集部が企画するだけでなく、地方にいる記者が各地域の新鮮な情報も更新しています。

 一方でアナリティクスも重視しています。「どこからの流入か」「滞在時間が何分何秒なのか」など、四半期ごとのレポートを出してトライアル&エラーで課題を解決しています。これらの結果、月間PV数は500万を超えています。

 営業部は日本人が3人いて、私自身も営業に出ています。地域が持つニーズや素材はそれぞれ違います。やはりオーダーメイドの面が大きいので、営業もヒヤリングして、予算を聞きながら、持ち帰ってすり合わせる。この編集部と営業部の日台共同チームで動ける体制が、我われの強みです。デジタルメディアですが、アナログな関係の構築も必要だと考えています。

 ――ラーチーゴーではさまざまなサービスの拡充が進んでいます。

 今年に入りラーチーゴーの機能を強化しました。3月にはホテル検索システム、4月に体験型ツアー予約システム、5月には航空券予約システムを導入しました。これら機能がラーチーゴーにすべて備わったことで、台北にあるアンテナショップを「旅カフェ」にリニューアルしました。店内にパソコンを設置しているので、日本の情報検索や、ホテル・ツアー・航空券の予約など、「旅カフェ」で寛ぎながら一元的にできます。一方イベントなども開き、ユーザーとリアルでの交流を深める場でもあります。

 ――体験型ツアー予約サービスで日本からの供給側のメリットなど教えてください。

 自治体などは企画・造成・情報発信・予約・効果測定を個々に発注することが多いと思います。我われなら初めから台湾、香港人目線で企画・造成できるうえ、ラーチーゴーでそのまま記事にして情報発信や広告を打つことも可能です。さらにその後の予約数など、効果測定まで一貫して行えます。これは台湾、香港人へ特化したラーチーゴーにしかできません。

 今後は地方部のオリジナルツアー造成に力を入れます。酒蔵ツーリズムなどの新たなオリジナルツアーも展開予定です。ただツアーを作っていくなかで安全・安心も徹底します。ランドオペレーターや貸切バスに関して、問題が起きているなか、法令遵守で安全・安心の担保をはかります。

 ――自治体が訪日外国人を誘客する際の課題などはありますか。

 とにかくチラシやパンフレットを配っているだけでは絶対に人はやってこない。東京などでイベントを開いても効果測定しなければ課題解決には至りません。日本の自治体に、ここは非常に課題感を持っています。

 ――「四国飲食店応援キャンペーン」を実施していますが。

 これは四国の飲食店がラーチーゴー内で、1年間無料で情報・クーポンを掲載できるものです。フォームから応募してもらうだけです。台湾、香港人需要の一番は「食」。さらにクーポン券が非常に人気です。クーポンが多く載っていればトラフィックは確実に上がります。我われがコンテンツを作りクーポンを出してもらうことで、訪日外国人の誘客につなげたいと考えています。

 ――今後の展望をお聞かせ下さい。

 まず1つ目はより地方部へ展開し、サービスを拡充していきます。とくに東北は観光復興も視野に入れています。東北6県に宿泊した訪日外国人は昨年、全体の1%に満たない。東北に関心を持ってもらうためコンテンツを充実させ、台湾、香港人の送客に注力していきます。

 2つ目は客単価を上げることです。訪日外国人数ばかりに気にしていますが、客単価を上げることは非常に重要だと思います。地方部にもっとお金を落としてもらう。今後は40歳以上の台湾、香港人の富裕層向けに、高価格帯商品サービスを展開していく予定です。

 ――ありがとうございました。

英・オートキャンプ団体、日光や京都めぐる訪日ツアー(日本オートキャンプ協会)

(左から)堺廣明氏とバーバラとネルソン・レーシ夫妻、
小島有三氏(JAC観光部会)、鈴木孝幸氏

 英国でオートキャンプの普及に尽力するNPO団体「The Camping and Caravanning Club」のネルソン・レーシ氏とバーバラ・レーシ氏夫妻が来日した。同団体傘下の旅行会社Worldwide Motorhoming Holidays社が主催する19日間の訪日キャンピングツアーの案内役を務める両氏。6月1日、芝パークホテル(東京都港区)で日本オートキャンプ協会(JAC)の堺廣明事務局次長や鈴木孝幸氏、キャンプコーディネーターの佐久間亮介氏と対面。日本での旅程や、キャンプの現状をめぐって意見交換を行った。

 キャンプ文化が根付く英国。日常の延長として楽しむ人が多く、日本のキャンプ場設備の充実を希望した両氏。堺次長は「電気の供給など先進的なサービスが知られていないことも多い。訪日キャンパーの取り込みが進めば、周知は進むはず。さらなる設備の充実も果たしたい」と応じる。旅は6月20日まで。一行17人は車で京都を目指し、日光や白川郷(岐阜県)などを経由。厳島神社(広島県)も訪れ、奈良を経て帰京する。

仏誌「ZOOM JAPON」と提携、日仏の“橋渡し役”に、毎月21日号に翻訳記事掲載(次号から)

クロード・ルブラン編集長

 本紙は6月21日号から、フランスの日本専門情報誌「ZOOM JAPON(ズーム・ジャポン)」最新号の特集記事の翻訳に加え、「現地編集部」発の最新動向や、トピックスを発信する。フランスでは現在、日本のどのような事象やモノ、人物に注目が集まっているのか。また、フランスの政治、経済、文化、ファッション、観光などの情報も本紙で紹介する。同誌創刊者で編集長のクロード・ルブラン氏の巻頭言も掲載する。

 ルブラン氏は、フランス屈指の日本のエキスパート。世界と日本を熟知する社会派ジャーナリストとして広く知られている。

 ズーム・ジャポンは、2010年6月に創刊。毎月1日に発行している。A4判24―40㌻で、フランス国内のレストランや公共施設などで配布されているフリーペーパー。フランスでは紙媒体の信頼性が高く、著名なジャーナリストも記事を寄稿する。現在はフランスだけでなく、英国、イタリア、スペインでもそれぞれの言語で日本専門の情報誌を発行している。

樫尾岳氏

 本紙は今後、ズーム・ジャポン誌と連携しながら、日本とフランスの“橋渡し役”を目指していきます。記事や同誌への広告出稿などへの問い合わせ等がありましたら、旅行新聞編集部 電話:03(3834)2718までご連絡ください。
 
 
 
 
 
 

クーポンアプリを企画、観光食事、土産物100選を訪日客に

台湾の展示会でもアプリをPR

 旅行新聞新社はワールドビズネット(石川恭子社長)と業務提携し、同社が開発・運営する外国人旅行者向けスマホアプリ「iTrippy(アイトリッピー)」に、観光・食事、土産物施設100選入選施設のクーポンを掲載する企画を始めました。

 旅館100選に続く、100選事業の海外PR第2弾として、現在7施設9軒のプレゼントや割引クーポンを掲載。4月19―23日に台北市内で開かれた「台湾文博会」でアプリを紹介し、期間中のダウンロード数は6千件に達しました。

 アイトリッピーは海外からの旅行者向けにデジタルクーポンを配布するアプリで、6言語(日本語、英語、中文繁体字、中文簡体字、マレー語、タイ語)に対応。ダウンロード後は、Wi―Fiや携帯通信環境がなくても利用でき、店舗までの誘導など、必要なものだけを提供するシンプルな仕組みが特徴です。クーポンを選ぶ「行き先」の1つとして「観光・食事土産物施設100選」カテゴリを新設し、選ばれた施設であることの訴求力を高めています。現在、新規掲載のキャンペーンを実施中。

 問い合わせ=電話:03(3834)2718。

新たな旅のカタチ誕生、温泉+地域の魅力で活性化(ONSEN・ガストロノミーツーリズム)

山本大臣や行政関係者、会員自治体の首長らをシュバリエに任命
涌井史郎会長

 その土地ならではの食を歩きながら楽しみ、歴史や文化を知る旅を、ガストロノミーツーリズムという。昨年、このツーリズムに温泉を組み合わせた新たな試みが日本で誕生し、4月から活動を本格化させた。「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」(涌井史郎会長)が進めるこの取り組みは、温泉地の魅力を国内外に発信し、活性化させるのが目的。涌井会長や佐藤恵企画部長に聞いた同推進機構の事業内容を中心に、このツーリズムを紹介する。
【後藤 文昭】

 ONSEN・ガストロノミーツーリズムは、日本が世界に誇る温泉を巡りながら、周辺の土地の風土性豊かな食材と地酒を、景観や自然とともに楽しむもの。温泉地の価値を滞在・体験型の観光拠点へ展開し、地域交流をはかることが目的だ。地域振興とも密接にかかわり、日本にこの新たな運動が根付けば、温泉地の活性化にもつなげられるという。

 推進するのは、「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」。ANA総合研究所(ANA総研)とぐるなびが設立時に会員となり、日本観光振興協会の特別協力のもと昨年立ち上げた社団法人だ。5月現在、サントリー酒類や、プリンスホテル、大和リースも会員となり、機構の活動を支援している。5月15日には東京都内で初の総会を開き、会員間で意見交換を行うなど、取り組みを加速させている。同機構は、コース認定や情報発信、自治体の支援などの役割を担い、5年以内に100自治体の会員化を目指す。また、個人会員からなるONSEN騎士団(シュバリエ)の結成などを通して、人材の育成にも取り組んでいく。自治体からは、5月現在で温泉地を有する9カ所が会員として同機構に参加している。

 会員自治体は、年1回地域と連携してイベントを主催し、機構とともに全国から参加者を募る。運営には地域住民も協力し、参加者との交流を通してイベントを盛り上げている。参加者がSNS(交流サイト)にウォーキング中の体験や感動を投稿することで、温泉地や地域の魅力が世界中に広がることも期待されている。

 昨年11月に初めて行った大分県別府市のイベントには、約300人が参加。長野恭紘別府市長は「リピーターを増やす、満足度を上げるなどの面でこの取り組みは有効」と語り、「地元の人が食べているものを食べたい、同じ温泉に浸かりたいなど、生活と密接した部分まで入ってくるのが最近の観光の傾向。次回はまち中を歩き、本当の別府の良さを実感していただけるコースを用意する」と意気込んだ。

その後も、熊本県阿蘇市・内牧温泉や天草市・下田温泉、秋田県・大館温泉郷など続々とイベントが行われ、7月1日には新潟県新潟市・岩室温泉、15日には山口県長門市・俵山温泉での開催も決定。今後の予定などは、機構のホームページ(onsen-gastronomy.com/)で紹介される。

 温泉行政を所管する環境省の山本公一大臣は、機構の総会で「(機構の取り組みは)温泉地のにぎわいの創出を目指す環境省の方向性に合致しており、同省としても引き続き協力していく」とし、「温泉の魅力を外国人観光客にもわかってもらいたい」と意見を述べた。

 観光庁の田村明比古長官は5月の会見で、「旅館の食事が宿泊客に選択肢を与えられていない」と現状の課題を指摘。この取り組みに対し、「温泉地やその周辺地域がその土地の美味しい食材を使った料理を提供することで、国内外の旅行者の宿泊需要を喚起できると期待している」と語った。

 時代は「集」から 「個」の時代に

 涌井会長は、旅行形態などが「集」から「個」に移るなか、観光産業は一部を除いて「集」を対象にするビジネスモデルのままであることを指摘。食事などの場面で多くの選択肢を用意する「個」を対象にしたビジネスモデルに転換しなければ、多くの温泉地がますます苦しい立場に置かれることになると、改めて警鐘を鳴らした。

 同氏は、「個」を対象にするビジネスモデルに転換し、成功している場所として「兵庫県・城崎温泉」を挙げる。同地は、駅を玄関、街並みを廊下、個々の旅館を寝室と位置付け、街ぐるみで1つの旅館を形成。そのため、外食や外湯が当たり前になっており、国内外から多くの観光客を集客することができているという。

訪日、23日早い1千万人、ビザ緩和“東北の伸び”期待(田村観光庁長官)

 田村明比古観光庁長官は5月19日に行った会見で、5月13日時点で訪日外客数が1千万人を突破したことを報告。昨年の1千万人突破は6月5日だったが、昨年より23日早い1千万人突破となった。4月の訪日外客数は単月として過去最高となり、13市場で単月として過去最高を記録。また、全市場で4月として過去最高値となった。

 田村長官は単月で250万人を突破した要因について、「昨年3月末だったイースター休暇が、今年は4月に移動したことが大きいと感じている。加えて、大型クルーズ船の寄港回数の増加なども寄与している」とコメント。そのうえで、引き続きこの勢いを継続できるように、〝できることはすべてやる〟という姿勢で、さまざまな策を講じていく旨を報告した。

 ■日帰り消費額増加、 要因は“休日減”

 2017年度1―3月期の日本人国内旅行消費額は、前年同期比0・1%増の4兆4154億円とほぼ前年並みだったが、日帰り旅行消費額は、同5・7%増の1兆758億円と大きく増加。1人1回当たりの旅行単価で見ても、同8・3%増の1万5828円と昨年よりも1208円増加となった。

 日帰り旅行の消費額が増加したことについて、田村長官は「昨年はうるう年だったということもあり、休日が多かった。今年は1―2月の休日が少なかったため、宿泊よりも日帰りを選択しやすかった」とし、休日減の波が旅行消費額に大きな影響を与えていることを言及した。

■中国人向けビザ緩和、「東北への訪日に期待」 

 5月8日に中国人に対するビザの発給要件が緩和。東北3県(岩手県、宮城県、福島県)の数次ビザの対象訪問地が、東北6県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)まで拡大され、これまで一定の経済力を有する人に課されていた「過去3年以内の日本への渡航歴要件」も廃止となった。

 中国は近年、団体旅行から個人旅行へと旅行スタイルが変化する傾向が強まっており、中国からのリピーター数も増加している。今回、東北3県から6県へと適用範囲が拡大されたことを受け、「震災以降、訪日の伸びが鈍化している東北に、これを機に多くの中国人観光客が訪れてほしい」と、ビザ緩和の効果を期待した。

 中国からの訪日者数は、ここ2カ月ほど1ケタの伸びが続いており、かつて「爆買い」が流行語となった15年などと比較すると、伸び率は徐々に落ち着いてきている状態だ。

 このことに関し「転換点に差し掛かっている」と述べ、市場ニーズに的確に対応していくことが今後のカギとなるとした。

■地方の免税店数、「目標達成さらに努力」 

 観光庁は、今年3月28日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」のなかで、18年に地方の免税店数を2万店規模へと増加させることを目標に掲げている。しかし、現状の伸びではこの1年でかなりの積み上げをしなければ、目標達成は難しい。

 田村長官は「目標達成にはさらなる努力が必要」と捉えたうえで、今年10月から施行される酒税に関する免税制度が、全国の酒蔵に適用されることで、免税店数の増加に一定の効果が得られると語った。

 観光庁では引き続き、コンビニエンスストアなど、免税店数の増加に意欲を持っている商店などに対し、積極的に働きかけを行っていく。

No.462 風望天流太子の湯 山水荘、“働き方”を変えて単価アップへ

風望天流太子の湯 山水荘
“働き方”を変えて単価アップへ

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」の第13回は、福島県・土湯温泉「風望天流太子の湯 山水荘」の渡邉和裕社長が登場。いづみ専務(女将)、利生常務も出席して、働き方を変えるだけで単価を上げ、残業を減らしていく取り組みついて、内藤氏と語り合った。

【増田 剛】

 
 

〈「いい旅館にしよう!」プロジェクトⅡシリーズ(13)〉
風望天流太子の湯 山水荘

渡邉(社長):もともと渡邉家は土湯温泉の真ん中で「いますや旅館」を営業していました。1953年10月に、新たな宿「山水荘」を造りました。祖父には2人の息子がおり、長男(父)が山の方にある山水荘を経営し、温泉街のいますや旅館を身体が弱かった弟が継いだのです。しかし、翌54年2月の大火で土湯温泉全体が焼けてしまいました。幸い、山水荘は温泉街から少し離れていたため、焼けずに残されたのです。私は渡邉家の20代目で、山水荘は祖父、父を継いで3代目になります。

内藤:いますや旅館の規模はどのくらいでしたか。

渡邉(社長):20室ほどだと思います。山水荘を53年に建てたときは木造の9部屋でした。

内藤:その後、どのように部屋を増やしていかれたのですか。

渡邉(社長):大火の後、父は大火への反省から、60年に木造の建物をすべて壊し、鉄筋コンクリートに切り替えました。5年も経たないうちに部屋をどんどん増築し、これまで7回ほど設備投資しました。その間にプールを造ったり、護岸工事や橋を架けたりもしています。最後に増築したのは97年で、現在は71室です。

 面積は1万平方メートル以上ありますが、客室数は中規模旅館です。地形的に三方を崖に囲まれており、先代は庭に池を造ったり、ニワトリやハクビシン、クジャクを飼ったりしていました。私自身も建物と、池のある庭が自然なかたちで溶け合う、そのような空間がある旅館を理想としています。

内藤:3代目を引き継いだのはいつですか。

渡邉(社長):48歳のときです。

 23歳で土湯温泉に戻ったとき、若い人たちの集まりがありませんでした。そこで、飲食店や他の業種と連携して青年団のようなものを組織し、“まちづくり”を主体に動いてきました。旅館の経営も大事ですが、地域をどうするかということを第一に考えてきました。

 土湯の今の若い世代は、「若旦那カフェ」などに取り組んでいますが、私たちのころは、荒川の清掃活動や、ジャズフェスティバルを企画したり、毎晩お酒を飲みながら熱く語り合っていました。

内藤:土湯温泉のように、他業種を含めてまとまりがあるのは珍しいと思います。

渡邉(社長):当時、多くの温泉地では、旅館の経営者がワンマン化する傾向がみられ、なかなか地域ぐるみの取り組みができていませんでした。土湯は大型旅館もなく、小さい温泉地なので、あらゆる業種がまとまって一緒に取り組まないと生きていけないのですが、親の世代も同様の傾向がみられました。そういうのが嫌だったので、40代になったとき、観光協会や旅館組合のトップを若い世代が奪い取りました。いわゆる「下剋上」によって、自分たちの世代が中心となって土湯温泉を動かしていきました。…

 

※ 詳細は本紙1671号または6月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

仏誌「ZOOM JAPON」の情報も発信 ― 海外メディアと提携、世界とつながる

 フランスでは、紙媒体に書かれた記事は、ネット情報に比べて高い信頼性を勝ち得ているという。また、日本ではそれほど根づいてはいないが、フリーペーパーが市民権を得ており、有力なジャーナリストや高名な作家も記事を寄稿する。

 パリを歩くと、日本人が立ち寄りそうなレストランや公共の場所に「Ovni(オブニー)」というフランス在住、あるいは同国を観光する日本人向けの新聞に出会う。私も2年前に同紙を手にして大変興味を持ち、スーツケースに入れて日本に持ち帰った。

 本紙は間もなく、フランスの日本専門情報誌「ZOOM JAPON(ズーム・ジャポン)」の最新情報や翻訳記事を掲載する予定だ。実はズーム・ジャポンはオブニー紙から派生した雑誌なのだ。編集長のクロード・ルブラン氏はフランスでも著名な編集長で、日本好きが高じてフランスをはじめ、英国やイタリア、スペインでも日本専門情報誌を発行している。

 現在、本紙は台湾の旅行専門誌「旅奇(TRAVEL RICH)」と提携し、毎月11日号で翻訳記事を紹介している。今度は、欧州で最も日本への関心が高い・フランス人の視点から、日本に関する情報も翻訳して紹介する。「欧州各国にPRしたい」と考える自治体や、旅館・ホテルなども少なくない。日本とフランスの“橋渡し役”の一端を担えたら、うれしい。

 先日、北陸に在住の観光関係者と話をしていたときのことだ。「東京の地下鉄や電車に乗ると、みんなスマートフォンばかりを見て、新聞や雑誌を読んでいる人がほとんどいないことに驚きました。私は電車で本を読んでいたのですが、なんだか時代遅れのような、少し恥ずかしい感じがしました」と言うのだ。そこにいたのは、私を含め、

旅行ガイドブックなど紙媒体を発行する編集者3人。捉え方の違いに驚いてしまった。

 私など編集者3人の一致した意見は、「電車の中でスマートフォンを眺め続けることは少なからず恥ずかしい感覚を持っている」ということだった。

 逆に、本を読む方が断然知的なのだ、と強調した。

 ありとあらゆる情報や知識が、手のひらに握るスマートフォンからほぼ無料で得られる。わざわざ書店に行って、書籍を購入するよりも、ネットで検索した方が早いし、お金もかからない。数千円もする「ハイエンド」な専門書籍を読むことは、知の分野への貪欲な投資と冒険(旅)に外ならない。

 本社は現在、紙媒体の「旬刊旅行新聞」に加え、フェイスブック、そしてこの1カ月の間に、新たな試みとして、ツイッターやインスタグラム、ブログなどSNS(交流サイト)での情報を積極的に発信し始めた。 国内だけではなく、世界中の読者とつながるには、「新たな発信手段が必要だ」と判断したためだ。現在、ホームページのリニューアルに向けても動き出している。

 私たちは日々、観光業界の方々と接している。伝えなければならないことがたくさんある。より多くの人たちに有益と感じてもらえる情報を発信したいと思う。旅行・観光業界の専門紙ではあるが、より広く情報発信ができる仕組みづくりが急務となった。だが、そのためにはまず、観光業界で一番愛される新聞を目指して、頑張っていきたい。

(編集長・増田 剛)

増加率が伸び悩む、消費税免税店数、18年までに残り4千店

 観光庁がこのほど発表した2017年4月1日時点の都道府県別消費税免税店数によると、前回調査(2016年10月1日)から地方部は774店増えて1万5601店だった。政府は18年までに2万店規模を目標にしている。ただ前回調査時は9・8%増で今回は5・2%増。残り4399店と迫ったが、増加率が伸び悩んできた。

 切り札になるのは酒税免税制度。今年10月に酒蔵で販売する酒類の消費税に加え、酒税を免税とする制度が適用される。昨年4月時点で酒蔵の消費税免税店は45カ所と少ないが「全国で酒蔵は3千件以上あり期待している」(田村明比古長官)。今後は、許可を受ける酒蔵を増やしていきたい考えだ。

 このほか免税店を増やす意欲があるコンビニエンスストアなどに、働きかけを強めて政府目標の達成を目指す。

 なお、全国の免税店数は16年4月1日からの1年間で5330店(前年度比15・1%増)増の4万532店と初めて4万店を突破した。