業界初の直販支援、国内の市場拡大はかる(HIS)

 エイチ・アイ・エス(HIS)は9月から、業界初となる宿泊施設向けの直販支援サービスを始める。宿泊施設の直販を支援するエス・ワイ・エス(SYS)と資本業務提携を行う。SYSは外資系も含めたOTA(オンライン旅行会社)を介さず、客が自社サイトにシフトするシステムを展開。直販による宿泊施設の利益を向上させ、国内市場の拡大を目指す。

 SYSは独自のダイレクト・リザベーション・システム(DRS)で、初回はトラベルコなどのメタサーチから施設の自社サイトに接続させる。OTAへの在庫出し費用と比べ、廉価な手数料で自社サイトまで誘導できる。客が2回目以降に施設を検索するとき、すでに施設の自社サイトを認知した分、直販に至る可能性が高まるという考え方。

 今後はHISが展開してきた国内宿泊施設向けOTA 事業を、SYSの直販支援事業に転換。互いに独立・中立的な経営体制を維持しつつも、国内宿泊施設の活性化を推進していく。

 外資系OTAの参入も激化し、宿泊業界では日本特有の商習慣を変える動きが出ている。旅行会社が顧客の予約前に、部屋を複数確保する「ブロック」などは変える必要があるとの声も多い。観光庁はブロック時に、前受金を一部支払わせるデポジット機能導入を検討し始めている。

 HISは昨今の変化を新たな事業機会と捉えている。サービスを普及させていくためには、宿泊業界に残る問題を払拭できるかが課題となる。

No.468 「女将のこえ」200回記念、瀬戸川さんに聞く「女将とは…」

「女将のこえ」200回記念
瀬戸川さんに聞く「女将とは…」

 2000年の6月21日号から本紙にて連載を開始した、ジャーナリストの瀬戸川礼子さんによるコラム「女将のこえ」が、前号(7月21日号)で連載回数200回を達成。これを記念して、6月30日に瀬戸川さんへのインタビューを行った。200人の女将への取材のなかで感じた、旅館業界の変化や女将のおもてなしに対する心づかいなど、日々多くの女将と接する瀬戸川さんだからこそ語れる〝女将″について伺った。

【聞き手=増田 剛編集長、構成=松本 彩】

 
 
 
 

 ――200回の取材のなかで、強く印象に残ることや感じたこともあると思います。

 取材を通じて女将さんと仲が深まると個人的に泊まりに行ったり、文通や家に招待してくださったり、フェイスブックで親交が続いている方もたくさんいます。女将さんの悩みに一緒に泣いたこともあれば、私が落ち込んでいたときに慰めてもらい、救っていただいたこともあります。仕事を超えた信頼・親愛関係を築けることは、何より幸せな出来事です。

 女将さんの取材をライフワークにしていくなかで、感じたことがあります。それは〝歳を重ねることは素敵なことだ〟ということです。歳を重ねることによって、20代のときでは語り合えなかった深い話を女将さんとすることができます。「女将のこえ」の主旨は、女将さんの哲学や出来事を共有し、みんなで学び思い合えたらいいなということなので、そういう瞬間が増えてきたことは、うれしいことです。

 ――若いころは取材で緊張してしまうことなどもありましたか。

 幸い私は緊張しないタイプで、お会いする人にも恵まれるので、取材後はいつも「あぁ、楽しかった」という気持ちです。取材中に困ったこともありません。忘れているだけかもしれませんが……。

 取材で出会った女将さんは、話し上手な方から人見知りの方まで、一人ひとりが個性的で輝いています。「女将のこえ」を読まれている人は感じられていると思いますが、毎回「そうなんだ。すごいな」と感心させられる話があります。性格や考え方は誰1人として同じではないけれど、そこがまた面白いです。

 ――連載開始(1回目は2000年6月21日号)から18年目となりました。この間で感じた業界の変化とは。

 まず前職で7年間、女将さんにエッセイを書いていただく仕事をしていました。それを含めた25年のなかで感じる具体的な1つの変化として、休日を取る旅館が増えてきたように思います。

 私が女将さんに原稿依頼をしていたのは1993年―2000年で、前半はまだ多少、バブルの勢いが残っていました。電話で原稿依頼をすると、10人中1人は休みなく働いたことによる過労から体調を崩されていました。お客様ではない人に対する応対は冷たく、「女将は忙しいから」という理由で断られたことも多々あります。

 しかし、今では経営上、必要だとして休館日を取り入れる旅館が増え、電話応対も以前に比べ、柔らかく丁寧になりました。時代とともに旅館も少しずつ変化してきているように感じます。

 ――200人の女将さんを取材してきたなかで、女将さんのおもてなしに対するきめ細やかさなど、改めて感心させられたことを教えてください。

 取材で初めて涙を流したのは、この「女将のこえ」なので、一番記憶に残っています。人生で最も体調が悪かった日でした。その日は朝暗いうちから家を出る日帰り出張で、伊豆方面の女将さんへの取材を4件立て続けに入れていました。車の運転も不安でしたが、4人の女将さんが待っていてくれるのですから、絶対に行かねばと、気力を振り絞って出かけました。

 朝から何も食べられない、何も飲めない状態で迎えたその日最後の取材が、伊豆長岡温泉「招福の宿 ゑびすや」さんでした。取材が無事に終わり、帰り支度をしていたときです。女将さんが「これなら車で食べやすいから」と棒寿司を持たせてくれました。女将さんは「どこを回られたんですか」など、私へのさりげない質問を通じて、「朝からこのスケジュールだったら、この人は何も食べていないはずだ」と感じとり、密かに出前をお願いしてくれていたのです。

 女将さんの優しさと、さりげない心づかいに感激し、帰りに立ち寄ったドライブインで棒寿司のふたを開けました。匂いを嗅いだ途端に空腹を覚え、お寿司を口に入れると、大粒の涙がボロボロとこぼれてきたのを、今でも覚えています。

 会話の中から相手の状態を感じとり、さりげない心づかいができる女将さんの心に触れた出来事でした。

 また、たびたび訪ねている雲仙宮崎旅館では、女将さんの清く正しく美しい思いに感銘を受け、ご迷惑なことにロビーで泣き続けた思い出もあります。

 有り難いことに、年を経るごとに親しくさせていただける方が増え、ここで紹介しきれず申し訳なく思うくらいです。

 ――多くの女将さんと接するなかでアドバイスしたいことは。

 (1)休む(2)学ぶ(3)見せる――の3点です。

 まず1番目に「休む」を挙げました。とくに女将さんが労働力の1つの場合は、休めないという意見があるのはごもっともです。ただ、心と体が資本なのでどうか大切にしてほしい。それに、休みを取って外の世界で感性を磨くことは、1つの仕事だとも思います。

 「私自身はなかなか外に出られないけれど、お客様が各地からいろいろな情報を持ってきてくださる」と言われる方がよくいらっしゃいます。確かに、お客様から話を聞けるのは素晴らしいことだと思います。

 しかし、景色を写真で見るのと、その場所を訪れて風を感じるのは異なるように、誰かの話で情報を得るのと、自ら体験することは価値がまったく違います。旅館は感性を売る仕事です。その感性を磨き続けるためにも女将さんが休みを取れるといいなと思います。これには何といっても周りの理解が必要ですね。

 また近年、旅館の働き手がますます減っています。原因の1つは「休めない」からです。旅館で働くことが、休みが少なく苦しいことにならないよう、業界の存続のためにも、一般企業に劣らない休日を取れる体制づくりが待たれます。

 2つ目は「学ぶ」です。…

 

※ 詳細は本紙1679号または8月4日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

旅も、家具選びも ― “夢を売る店”で客は現実と格闘する

 先日、大規模な家具店に出掛けた。広々とした店内の空間に、見本として並べられているソファにも座ってみた。背もたれの高い高級ソファに座ると、包み込まれるように心地よく、昭和チックな卓袱台暮らしの身には少々贅沢な気分がした。

 最近、子供たちが相次いで家を出て行った。だから、少し部屋が広く感じる。自分の時間も少しだけ見つけられるようになった。だから、中古のオートバイを買った。休みの日には気ままに、オートバイに乗って好きな場所に行き、よく冷えた炭酸飲料を飲んで帰る。これが一番楽しい。

 部屋の雰囲気も変わってきた。これまで子供たちの教科書や、何だかよくわからない部活の道具などが置いてあった場所に、小洒落た箪笥などが陣取り始めた。

 家具店で、私がソファに座っていると、子供連れの夫婦がソファを探しに来た。

 夫婦はどのソファを買うかで意見が対立し、静かに口論を始めた。どうやら予算と、部屋のスペースが主な原因のようだった。夫婦の隣で小さな子供たちがソファの上に寝転がったり、虚しく飛び跳ねたりしていた。高級ソファに座る私の頭上で夫婦が喧嘩を始めたので、なんだか居心地が悪くなり、早々に移動した。

 すると、家具店内の別の場所で、今度は別の夫婦が険悪なムードになっていた。「これじゃ、予算の10万円をオーバーしちゃうよ」と夫が返事のない妻に2度繰り返すと、妻がおもむろに振り返り、ついに始まってしまった。

 家具店は「夢を売る店」というイメージをずっと持っていた。しかし、現実の家具店は、それほど「甘いだけの世界ではなかった」ということだ。店は夢を売るが、客は夢と現実の間で格闘する場であった。

 1人暮らしならば、家具選びで誰かと口論をすることはない。自分がどこかで折り合いをつければ済むが、夫婦や家族で大きなソファや家具を選ぶとなると、それぞれが思い描く「理想の部屋」が一致しないから、行く末はバトルになってしまう。

 私はたまたま家具店に行って、数分の間に2組の夫婦喧嘩を目の当たりにしてしまったが、家具店で毎日働いているスタッフにとっては、日常茶飯事なのかもしれない。家具選びのために笑顔で来店した客が、店内の商品を眺めるうちに険悪な関係になっていくのを日々見ていると、きっと辛いだろうなと思った。そして、ふと、もしかしたら旅行会社のカウンターでもこのような光景があるのではないかと思った。いや、むしろ旅先で起こってしまうのかもしれない。実際、私も家族で旅行をする際、しばしば喧嘩になってしまうことがある。けれど、旅先で喧嘩するのは最悪なので、必死になって修復するタイミングをはかるのだが。

 ソファを買う気満々で家具店を訪れ、夫婦喧嘩になったあの2組の夫婦は、ソファを買ったのだろうか。

 買う前は険悪なムードになっていたが、実際に部屋にソファが届くと、家族は笑顔になり、会話も弾むだろう。旅行も同じだ。たとえ旅先で喧嘩になったとしても、相手を思う気持ちがあれば、いつまでも思い出として胸に残る。夢と現実が交差する旅も、家具選びも、大きな力を持った商品なのだと、改めて思った。

(編集長・増田 剛)

観光を競争力ある産業に、7月から庁内体制強化(田村観光庁長官)

 田村明比古観光庁長官は7月19日の会見で、このほど留任が決定したことを受け「観光産業を今の時代に対応した競争力のある産業にしていく」と抱負を語った。観光庁は7月から、観光産業課内に「宿泊業活性化調整室」、観光地域振興部観光地域振興課内に「観光地経営推進官」を設置するなど体制を強化している。これらを生かし、観光産業の活性化をはかる。

 ■3月以降増加へ〝国内は伸び代がある〟

 2017年上半期の国内旅行市場は、昨年5月から減少傾向にあった日本人の延べ宿泊者数が、今年3月以降、前年同月比で増加に転じており、徐々に上向き傾向に変化してきている。田村長官は以前から「国内旅行は伸び代がある」と主張。今後の取り組みとして「訪日に向けた取り組みの多くが、国内旅行のためにもプラスになる。必ず国内旅行は上向きになると信じている」と述べ、訪日客の受入環境の整備などに迅速に取り組んでいく旨を報告した。

 また、海外旅行は前年同期比6・3%増と上半期も継続して好調な伸びを示している。テロなどの影響により、需要減少が続いていたヨーロッパ方面も復調傾向にある。一方で、韓国への旅行者数は、朝鮮半島問題などの影響で減退している。田村長官は「日韓両国で、韓国の新たな観光資源の魅力などについて、旅行者に情報発信していくことが重要である」と語った。

 ■上半期の訪日消費額が初の2兆円に

 17年4―6月期の訪日外国人旅行消費額は同13・0%増の1兆776億円と四半期で過去最高を記録。1―6月の上半期累計では、同8・6%増の2兆456億円と推計され、初めて上半期で2兆円を突破した。田村長官は、中国からの訪日者数の1人当たりの旅行支出額が同2・5%増と6四半期(15年10―12月期)ぶりに増加に転じたことを報告。さらに費目別の消費額では、長らく低迷していた買物代が5四半期ぶりに増加したことを明らかにした。

 ■〝状況把握へ速やかな施行を〟民泊新法

 7月16日、福岡県福岡市で民泊利用の韓国人女性に対し、貸主の男が性的暴行を加える事件が発生した。6月9日に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が可決され、来年度からの施行が決定して以降も、同様の事件報告が相次いでおり、〝民泊解禁〟に対する不安の声も広がりを増している。

 田村長官は「現在はどこの誰が民泊サービスを行っているのかがすぐには分からない状況。このため、福岡のような事件が発生してしまっている。住民の方々の安心を守るためにも、速やかに新法を施行する」と述べた。そのうえで依然として増え続ける民泊サービスについて「増えているということは、それだけの需要があるということ。これらのニーズに対応する体制を強化しなければ、20年に向けての受入体制ができていないことにつながる」とし、改めて速やかな施行に向け、関係省庁が一体となって取り組んでいく姿勢を示した。

消費額は1兆円超え、政府目標厳しい状況続く(4―6月期)

 観光庁がこのほど発表した2017年4―6月期の訪日外国人消費動向調査によると、旅行消費額は前年同期比13・0%増の1兆776億円だった。1人当たりの旅行支出は同6・7%減の14万9248円。消費額は四半期で過去最高で、上半期累計で初めて2兆円を突破したが、1人当たりの旅行支出は減少。政府目標8兆円の達成は難しい状況が続く。 

 国籍・地域別に旅行消費額をみると、中国が3682億円(同4・3%増)と最も大きい。次いで、台湾1536億円(同7・6%増)、韓国1177億円(同69・2%増)、香港852億円(同33・7%増)、米国767億円(同14・6%増)の順。これら上位5カ国・地域で全体の74・4%を占める。とくに韓国が約7割、香港が約3割の増加で全体を底上げした。

 一方で旅行支出の場合、韓国の滞在日数の低さが全体を下げる一因となった。回答者全体の滞在日数分布で63・4%が6泊以内だが、韓国は3日間以内が40・0%と短い。「国内旅行感覚で短期滞在が多くなり、1人当たりの支出は抑えられる結果になった」と田村明比古長官は分析。韓国の1人当たりの旅行支出も6万9929円(同0・9%減)と、全体より8万円近く低かった。

 政府は20年までに訪日外国人旅行者消費額8兆円を目指すが、伸びが鈍化している。上半期の累計は2兆456億円と推計され、昨年上期(1兆8839億円)と比べ約1620億円プラス(8・6%増)に留まった。

 年間で1兆円以上旅行消費額が伸びなければ、今後3年間での達成は難しい。欧米豪などの富裕層を取り込むなど、中国一辺倒の状況を打破できるかがカギとなる。

びわ湖バレイに新施設

 滋賀県・琵琶湖西岸の標高1100㍍に位置する高原リゾート施設「びわ湖バレイ」(大津市)に8月5日、パノラマ絶景が広がるカフェエリア「CAFE360」がオープンする。昨年7月にオープンした「びわ湖テラス」の新たなエリアとなる。

 カフェには210度に広がる扇状のウッドデッキ(349平方メートル)を設置。最大約230人を収容でき、ゆっくり足を伸ばしたり、寝転がったりできるという。飲食メニューは、東近江栗かぼちゃや近江八幡でっち羊羹など、滋賀の名産品を練り込んだドーナツなどを提供する。

 昨年7月以降、来場者数は好調に推移し、16年度合計では前年度比約3倍増と、40年ぶりに30万人を達成。“リゾート地”としてゆったりとした滞在を求める客層が増えているという。

【土橋 孝秀】

余暇市場2%減の71兆円、鉄道や遊園地、旅館は増 (レジャー白書2017)

 日本生産性本部(茂木友三郎会長)はこのほど、レジャー白書2017(2016年分)の概要を発表した。余暇市場全体の市場規模は前年比2・0%減の70兆9940億円だった。観光・行楽部門は同0・3%減の10兆5560億円。11年以来の減少となった。同部門は「自動車関連」と「国内観光・行楽」に細分されており、「国内観光・行楽」カテゴリーは同1・1%の増加。とくに、ホテルと遊園地・レジャーランド、鉄道が好調。旅館はそれらに続く同1・2%の増加だった。今後のキーワードとして、参加体験対応と個人別対応、外国人対応が挙げられた。

 インバウンドの増加にもかかわらず観光・行楽部門は減少に転じたが、調査分析を担当した桜美林大学の山口有次教授は、「伸び悩んだ国内航空や貸切バスなど、国内旅行に特化した分野についても今後は、インバウンドの取り込みに注力する傾向が強まるはずだ」と強調した。消費増加のためには、外国人の取り込み方法を工夫する必要があるとの見解だ。参加体験や個人別対応の具体策として、VR(仮想現実)を挙げた山口教授。都市型のエンターテインメントであるため、地域での普及は難しいものの、インバウンドの取り込み対策としては有効との考えを示した。

〝えこひいき〟で儲かる仕組み、熊本の食と観光を販売(くまもとDMC)

村田社長と浦上英樹専務(後段右)、外山由恵常務(同左)

 観光地域づくりの舵取りを担う日本版DMO(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)候補法人として、観光庁が今年1月に登録した「株式会社くまもとDMC」(村田信一社長、熊本県熊本市)に注目が集まっている。同社は地元の肥後銀行と同行、中小機構などが出資する熊本未来創生ファンドや熊本県の出資で昨年12月に設立された。県の出資比率も4%で、ほぼ民間の企業だ。

 DMCのCはCompany(会社)で、観光協会など一般や公益社団法人が多いほかの日本版DMOと比べ、利益重視の民間の強みを活かして、くまもとの「食」や「観光」のブランディングをはかり、ビジネスチャンス拡大で地域活性のリード役を目指す。

 同社の村田社長はOとCの違いを「OよりCの方が良い意味で〝えこひいき〟ができる」と表現。「行政主導の仕組みでは、プロモーションも公平さが求められ、着地型旅行も補助金がなくなれば継続できない。Cではやる気のあるところと儲かる方向で進められる」とメリットを強調する。ただ、「どこで利益を上げるか」は模索中だ。

 事業概要をみると、調査・マーケティングやDMO設立支援、Webメディア「おるとくまもと」運営、着地型旅行商品や特産品の開発・販売、インバウンドの受入環境整備など多岐にわたる。

 そのなかで、柱の1つがビッグデータなどを活用したマーケティング事業。例えば物産販売は、売れ筋商品や付加価値、最適ターゲット地などを調査・分析し、販路拡大につなげていく。今後、具体的な結果を出すなかで、マーケティング手法も売りにしたい考え。

 2つ目が観光。メインは、雄大な阿蘇の自然を活かした体験型観光。バルーンやパラグライダーなど体験メニューの価値を高め、外国人観光客向けの高単価オプショナルツアーとして販売し、消費額アップをはかる。

 同社の調査では、ハワイの牧場1日アドベンチャーは日本円で1万5千円。バルーン体験は2万円だ。例えば上空でシャンパンを飲み、朝日を見ながら写真を撮る。この特別感が価格以上の価値を高めている。また、イタリアの1泊2日農業体験は1人2万円。

 こうした海外の成功事例を手本に、熊本での観光ビジネスに落とし込み、地域の活性化に活かす。これまでも天草のイルカウォッチングや人吉の球磨川ラフティングなどは成功事例の1つであり、さらに地域との連携で消費アップを目指す。

 同社は旅行業も取得。Webメディア「おるとくまもと」を通じて、着地型商品や宿泊、物産の販売を行う。観光と食の結びつきも強化する。香港では肥後銀行が出資のファンドが4月にレストランを開業。熊本県の食材を使った日本料理を提供している。同社の初年度の売上目標は3億円。1つずつ結果を出しながら、黒字化を目指す。

Webメディア「おるとくまもと」

【山と渓谷社 広告部 斉藤克己氏に聞く】「山の日」2年目、山を観光資源に

山と渓谷社 広告部
斉藤克己氏

 「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを趣旨に、国民の祝日「山の日」は制定された。実施2年目となる今年。「山」を観光につなげる取り組みも加速中だ。

 山と渓谷社(川崎深雪社長)では、山を観光資源として捉え、「トレッキングツーリズム」の提案に注力している。来訪者や登山後の宿泊増加を通じ、地域での消費促進を目指す。インタビューで、同社広告部の斉藤克己氏は「宿泊をともなう登山者による山旅の回数は、年間約3・6回。一般旅行者の3倍以上旅をしている。ヘビーな旅行者でもある登山者に対し、観光スポットやお土産などを積極的にアプローチするべきだ」と力を込める。

 「トレッキングツーリズム」の狙いは(1)地域に訪れる登山者を増やす(2)地域を訪れた登山者に旅行者になってもらう(3)インバウンド対策――の3つ。ビギナー層を取り込むためにも、適切なプロモーションが必要だ。消費増加につながる宿泊については、下山後の過ごし方を提案するなど登山者の行動パターンに基づく施策が効果的だという。

 「富士登山者に占める外国人旅行者の割合は約3割。日本の自然に興味を持つ方も多く、地域の山々での登山者増も十分期待できる」と続ける。昨年、飛騨県事務所(岐阜県)のインバウンド事業に協力。台湾人観光客をターゲットにしたモニター企画を実施し、山麓の観光とグルメ情報を発信した。

 自治体と提携し、登山や自然愛好者向けの移住定住イベントも開催する同社。昨年は、長野県大町市と福島県の自治体担当者による相談会も実施。参加者のほとんどは移住相談会に初めて参加した人たちで、自治体担当者も驚くほど熱心な質問が飛び交った。集客には、同社が運営する登山情報サイト「ヤマケイオンライン」を活用した。

 移住定住は、一時的な滞在である旅行の延長線上に位置するもの。山を軸に据えた誘致活動は、ターゲットを限定する分、期待できる成果も大きい。

 今後も、山岳情報誌ならではのブランド力で、地域への貢献を果たす構えだ。

【謝 谷楓】

地域活性化事業など学ぶ、8月18日まで参加者募集

飛騨高山観光大学、8月30、31日開く

 観光政策や地域経済の活性化につながる事業などについて学ぶ「第34回飛騨高山観光大学」が8月30、31日、岐阜県高山市のひだホテルプラザで開かれる。対象者は全国の地方自治体や観光協会職員に加えて、観光関連学部の大学生など。運営事務局は8月18日まで、参加者を募集している。

 30日は午後1時から、高山市経済観光アドバイザーの吉澤保幸氏が「地域創生と観光のあり方~場所、時間、ひとの魅力~」について、基調講演を行う。このほか、観光コンサルティング会社である美ら地球(ちゅらぼし)の山田拓代表取締役が「高山周辺の農村風景で思い出深い経験を―SATOYAMA EXPERIENCEの現場より―」を、岐阜県畜産研究所で飛騨牛研究部長を務める向島幸司氏が「飛騨牛の現状と特徴について」の事例報告を発表する。

 特別講演には、東北福祉大学特任教授・県立広島大学客員教授の福岡政行氏が「ジリ貧大国日本の明日―安倍政権はどうなる!?―」をテーマに語る。さらに、午後6時10分から同ホテルを会場に交流会も行う。

 31日は、JA飛騨ミートや飛騨牛記念館を見学する「飛騨牛の理解を深めるコース」、タカネコーン収穫体験や石仏を見学する「高根町の食と文化満喫コース」の各2ルートで市内を視察する。

 参加費は1人6千円(高山市民は無料、交流会参加者は別途3千円)で、2日目の市内視察は飛騨牛コースが2千円、高根町コースが2500円。定員は各25人まで。

 申し込み・問い合わせ=飛騨高山観光大学実行委員会事務局(高山市商工観光部観光課内) 電話:0577(35)3145。