羽田京急バスとアルピコ交通東京、「羽田空港―白馬線」共同運行

式典で記念撮影
式典で記念撮影

訪日外国人ターゲットに新路線

 京急バスグループの羽田京急バス(岩田信夫社長)とアルピコ交通の連結子会社であるアルピコ交通東京(関謙一社長)は、昨年12月17日から「羽田空港―白馬線」の共同運行を開始した。

 羽田空港―白馬線は京急バスグループの空港バス路線の中でも訪日外国人をターゲットにした路線で、通常のリムジンバス使用車両ではなく、長距離の夜間高速バスで採用している「独立3列シート車両」で運行を行うほか、羽田空港のバス停を国際線ターミナルのみにするなど特徴をもった新路線となる。

 運行期間は3月5日まで(年末年始を除く)の冬季期間限定。1日2往復で、運賃は大人(12歳以上)9千円、子供(小学生)7千円。停留所は羽田空港国際線ターミナル(6番のりば)、白馬五竜、白馬駅、白馬八方バスターミナル。

 長野県の白馬村は、もともとウィンタースポーツを目的とした観光客の多いエリアで、近年は訪日外国人にも非常に人気の高いスポット。

 今回新設された白馬線は、羽田空港国際線ターミナルから白馬地区までの直行便で大きな手荷物を持った客でも乗り換えなしで目的地まで利用できるのでたいへん便利。

 独立3列シートのほか、トイレ装備、Wi―Fiサービスおよびブランケットのレンタルなどの基本的なサービスに加え、外国人利用客へスムーズな案内を行うため、通訳用のタブレットを導入。また車内モニターでは英語案内を行うなど、羽田空港から訪日する観光客にゆっくりと寛いでもらえるよう対応した。

* * *

 共同運行開始を記念して開業日の昨年12月17日に、羽田空港国際線ターミナルで開業記念式典が開かれた。テープカットなどセレモニーには長野県の吉澤猛観光部長、白馬村の下川正剛村長をはじめ、京浜急行バスの平位武社長、羽田京急バスの岩田社長、アルピコ交通の古田龍治社長、アルピコ交通東京の関社長が参列した。

 式典では主催者を代表して平位社長が「羽田空港からの高速バスとしては49路線目の運行となりました。今回開業した羽田空港―白馬線を契機に、より多くのお客様を長野県・白馬村に安全第一でお届けし、地域活性化の一助となるよう、引き続き利便性の向上に努めていきたい」とあいさつ。アルピコ交通の古田社長は「これまで訪日外国人のお客様に向け、成田―白馬線、東京駅―白馬線を運行してきましたが、念願だった羽田空港からの直接アクセスが実現しました。安全安心には細心の注意を払い、大都市から信州への路線をさらに拡充し、地域振興に努めたい」と抱負を語った。

強羅花扇 強羅花扇早雲閣 円かの杜 箱根の3館、新たな挑戦でブランディング

円かの杜のエントランス
円かの杜のエントランス

「円かの杜(まどかのもり)」開業から3年目迎える

 岐阜県高山市で「飛騨亭花扇」(全48室)と「花扇別邸いいやま」(全15室)を展開する花扇グループ(飯山和男社長)は、2009年に神奈川県・箱根温泉に進出。強羅花扇(全20室)、強羅花扇早雲閣(全24室)、最上級グレードの「円かの杜」(全20室)の3館がそれぞれのコンセプトでブランディングを進めている。“木の美学”や飛騨牛に代表される食材を追求する一方で、新たな仕掛けや挑戦、そして、日本文化を継承する要である人材教育と育成を地道に取り組んでいる。

円かの杜308号室「春蘭」
円かの杜308号室「春蘭」
強羅花扇の玄関口
強羅花扇の玄関口

人材教育や育成を地道に

 新宿区の保養施設を取得して09年に強羅花扇を開業。翌年には強羅駅前の老舗旅館を「強羅花扇早雲閣」としてオープンした。早雲閣の自家源泉は箱根の中で最も高い場所に湧き出ている。その独特の濁り湯を掛け流す早雲閣の湯は、隣接する花扇と共有している。

 14年12月には花扇グループの最上級グレード「円かの杜」が開業し、現在3年目を迎える。

 「旅館は日本の文化」などといわれるが、客室係やフロントなどスタッフが、しっかりと日本文化を身につけ、継承していくベースづくりが最も難しい。

 花扇グループ箱根3館の人材教育や育成を一手に担っているのが、女将の松坂美智子さんだ。

 「一度だけでなく、継続してお越しいただけるには、客室係やフロントスタッフの力がとても大きいと感じています」と松坂女将は話す。チェックアウトしたあとの時間などに、お客様と直接対面する客室担当者一人ひとりと「次につなげるために、何ができるか」など日々コミュニケーションを取っているという。楽天トラベルやじゃらんなどの口コミは毎日チェックしている。「すぐにでも改善できるもの、また時間はかかるが、取り組まなくてはならないものなどを判断し、決断するのが経営側の最も大切な仕事」と話す。

 飯山社長をはじめ、花扇グループは一体となって、東京オリンピックが開催される2020年後も見据え、人材を確保するために戦略を練って奔走している。飯山雅樹専務も「時代は変わっている」ことを感じている。「休暇制度やシフトなどを含め、労働環境の大変革をしていかなければ、今の若い世代に魅力的には映らない」と強調する。

 昨年7月26日には、箱根ロープウェイが再開し、8―11月まで通常の状態に戻った。しかしスタッフ不足の問題にも直面した。毎日満館になるほどの勢いを感じるなか、スタッフの出勤シフトに応じて部屋数を決めて予約を出している状態が続いている。これは箱根に限らず、全国の旅館に共通する問題だ。

再開した大涌谷へのロープウェイもにぎわう
再開した大涌谷へのロープウェイもにぎわう

 強羅花扇、早雲閣、円かの杜の各旅館10人ずつ計30人の客室係が最低限必要だが、数人ずつ不足している状況にある。

 松坂雄一取締役総支配人は「さまざまな人的ネットワークを駆使しながら、粘り強く取り組んでいます」と語る。その結果は徐々に表れている。テレビや雑誌などを見た若者から「ぜひ就職したい」という問い合わせもでてきている。メディアなども戦略的に活用しながら、毎年10人程度の新卒を見込む。

強羅花扇「千本格子の和風シャンデリア」
強羅花扇「千本格子の和風シャンデリア」
強羅花扇「早雲閣」の外観
強羅花扇「早雲閣」の外観
早雲閣の大浴場「結の湯」露天風呂
早雲閣の大浴場「結の湯」露天風呂

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 花扇グループが箱根に進出してから約8年、各旅館のそれぞれの個性を最大限活かすブランディングに取り組んできた。この3館の棲み分けは明確だ。

 「強羅花扇」の部屋タイプは同一。一方、円かの杜は部屋タイプが20室すべて異なるため、「自分の好きな部屋にゆっくりしたい」と予約の段階で部屋を指定してくる宿泊客が多い。一番くつろげる客室を選べるように意図して設計しており、そのようにプロモーションもしている。「ハードリピーターが多いのも特徴です」(飯山専務)。

 円かの杜では、雑誌とのタイアップ企画で「ディスカバー・ジャパンルーム」なども取り組んでいる。今年はさらなる仕掛けにも着手している。

 「ブックディレクターの幅充孝氏と一緒に、館内を本で彩るライブラリー(図書館)を計画しています。館内の至る所に『本がある風景』をつくり出し、くつろげるように椅子も置きます」(松坂取締役総支配人)。「宿泊客が滞在するなかで、『当館にはこのようなことを提供できる引き出しがありますよ』というスタンスです。いかに今の時代に宿を合わせていくかを常に考えています」と語る。1人の単価が5万円以上の高級宿には「特別感」が必要だ。押しつけのサービスやおもてなしではなく、あらゆる過ごし方のバリエーションを用意しておくことが大事という。円かの杜開業から3年目を迎える17年に、花扇グループは新たな挑戦を始めた。

ナビタイムが外客誘致の講演会実施、1月17日まで参加者を募集

 ナビタイムジャパンは1月25日、地域誘客をテーマとした「インバウンド観光セミナー」を東京国際フォーラム(東京・丸の内)で開催する。対象は、各自治体でインバウンド対策に従事する実務者ら。観光客の動態分析や、地域の魅力発信をサポートする構えだ。当日は、相談会も実施。課題を共有し、アドバイスを行う。

 松山良一日本政府観光局(JNTO)理事長が、「観光立国ニッポンの実現と地方創生」と題し特別講演を行うほか、早野陽子JTB総合研究所主任研究員と大西啓介同社社長も登壇。ビッグデータの活用方法などについて語る予定。

 問い合わせ=同社インバウンド観光セミナー事務局 電話:03(3402)0827。

第28回「全国女将サミット」新潟開催決定!、「今年は新潟でお待ちしています」

新潟開催決定!
第28回「全国女将サミット」
「今年は新潟でお待ちしています」

 女将サミット新潟開催決定――今年の全国旅館おかみの集い(第28回 全国女将サミット2017新潟)は、新潟県旅館ホテル組合 新潟女将の会(高橋はるみ会長=雪国の宿高半女将)の協力を得て、今年7月上旬に新潟市内で開催する。現在、運営体制や会場などについて意見交換している。開催日などは2月に発表する予定。会の団結力を生かし、米・酒・肴(さかな)に代表される「食の魅力を伝えられる催しにしたい」と意気込んでいる。全国の女将の皆様、今夏はぜひ新潟にお越しください。お待ちしております。…

 

※ 詳細は本紙1656号または1月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

行政処分を厳格化、不適格者排除の枠組みも

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貸切バス事業者へ国交省が通達改正

 国土交通省はこのほど、貸切バス事業者へ監査と行政処分に関する通達改正を行い、16年12月1日に施行した。とくに行政処分を厳格化。違反を繰り返せば、許可取消や運転管理者の資格者証を返納させる。軽井沢スキーバス事故の対策委員会で、6月に総合的な対策を定めた。これを受け、法令違反の早期是正と不適格者排除の枠組みを整えた。

 2015年度は監査で約1800件の違反が見つかり、許可取消が1件、業務停止は0件だった。これまでは監査から処分まで1年程度かかり、取消や停止の対象範囲に課題があった。同省は本格的なスキーシーズンの前に、監査・処分の実効性を向上させる。

 監査は問題のある事業者に早急な対応と、継続的な監視に重点化する。

 街頭監査は、改正によってその場で法令違反を改善できなければ、運行を停止させる。

 一般監査で発見した違反は直ちに是正を指示し、30日以内に監査を実施。改善の有無を調査するため、その後、計1―2回の監査を各30日以内に行う。一方、行政処分は厳しくし、違反の抑止力を向上させる。

 違反を発見したあと、次の監査で是正確認が取れれば、3日間の業務停止処分。その後改めて行う監査で、改善していなければ許可を取り消す。違反を繰り返して、許可を取り消された場合、勤務する全運行管理者に対し、資格者証の返納を命じる。

 処分量定も変更する。処分で使用停止する車両数割合を、全車両の8割に引き上げる。15年度で貸切バスの稼働率は5割ほど。現行の処分車両を絞る方法だと制裁効果は乏しく、全国統一的な方針がない問題があった。

 例えば、中部運輸局は処分が100日車で、配置車両数が5両の場合は「1両×100日」としていた。同様の場合、改正で「4両×25日」となる。使用できるのは、25日間は5台のうち1台のみとなる。

 そのほか、指導監督や点呼などの違反を中心に、各処分日車数を増やす。約2倍から4倍まで引き上げた。

 国交省はさらに法整備も進めている。10月に「道路運送法の一部を改正する法律案」が閣議決定された。5年ごとに事業の許可を更新する制度などを盛り込んだ。安全に事業を遂行する能力を有するか否かを判断する。法律が成立すれば、1カ月以内(17年4月)で施行する。

 同省は「貸切バス事業者が原因の事故で、死亡者をゼロに。負傷事故を10年以内に半減を目指す」とした。

2017年の観光業界 ― ターゲットになりづらかった層も…

 2016年も押し詰まって、ドイツ・ベルリンのクリスマス市に大型トラックが突っ込み、12人が死亡するテロ事件が発生した。また、ロシアの駐トルコ大使も警察官の男に銃で撃たれ、死亡した。国際的に広がるテロ事件の連鎖は、この先も続いていくのだろうと思うと、なんだか暗い気持ちになる。

 17年の観光業界はどのような年になるか。やはり、不安定な国際情勢が大きな影響を与えることになるだろう。

 年明け早々1月20日にトランプ氏が米国大統領に就任する。オバマ現大統領は就任して間もなく、ノーベル平和賞を受賞した。オバマ大統領の8年間は大きな戦争はなかった。しかし、その間、IS(イスラム国)の台頭、北朝鮮の頻繁な核実験・ミサイル発射実験、さらには中国の南沙諸島での岩礁埋め立てによる周辺地域の軋轢など、世界各地で危機的な状況が生まれている。トランプ大統領が今後、これら問題にどう対応するかによって、国際的な枠組みがまた大きく変動する。世界各国が綱渡りのような状況で進むなか、日本の外交政策も慎重かつ、大胆な行動が求められる。

 このような緊張感漂う国際情勢のなか、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が領土問題や経済協力について会談した。

 舞台は、山口県の長門湯本温泉の老舗旅館「大谷山荘」。地方の温泉旅館で国の将来を左右する首脳会談が行われたことに、多くの旅館関係者も驚き、誇りを感じたのではないか。

 私たちが旅先を訪れるとき、そこで行われた劇的な事件に想いを馳せる。歴史的な舞台は、首都に集中する。日本であれば、京都が歴史の主な舞台であり、江戸幕府開府ごろから東京も表舞台となり始めた。しかし、東京を離れ、日本の奥深い文化を育む地方の温泉旅館で日ロ首脳会談が行われた意義は大きい。16年にはG7伊勢志摩サミットも開催されており、東京一極集中ではなく、地方の煌めきを世界に発信できる機会が増えていることも感じられる。

 16年の訪日外国人数が2400万人前後になると予想されている。17年は、順調にいけば3千万人近くまで伸びるだろう。一方、海外旅行者数は1―10月までの累計(推計値)は前年同期比4・8%増の1418万人と、伸びてはいるがインバウンドの飛躍的な伸び率と比べると元気なく感じる。最近話題のVR(ヴァーチャルリアリティ=仮想現実)の技術がもっと進めば、いずれ現実に旅行しなくても、それなりのリアリティを感じて旅することができるようになるのだろうか。寂しい感じもするが、仮想現実を体験することも、一つの体験になる時代が訪れると言った方が正しいだろう。旅の定義も変わるのか。

 いずれにせよ、旅に関しては2極化がより一層進むのではないかと思う。旅行をしない人はますますしなくなるし、旅行する人は何度もする。また、温泉旅館についても、一生行かないという人も今後増えるだろう。その意味でも、旅館は従来の顧客層とはまるで異なる層を想定しておいた方がいい。旅行ニーズの変化を敏感に捉え、価値観の転換が必要だ。外国人旅行者やビジネス出張の1人客、旅館のおもてなしを必要ないと感じる若年層など、17年は、ターゲットになりづらかった人たちが“新たな顧客”となる、大きな変化の始まりの年かもしれない。

(編集長・増田 剛)

にぎわう大阪城

 大阪を代表する観光地の1つ、大阪城がにぎわっている。2015年度の天守閣入館者数は過去最高の233万7813人を記録。今年度も昨年11月末時点で前年度期比11・8%増の173万8千人に上り、記録更新の250万人を見込む。入館者のほぼ半数は外国人観光客だという。

 天守閣だけでなく、周辺のにぎわいづくりも進む。大阪市から大阪城公園の管理を受託する大阪城パークマネジメント共同事業体は今年、2つの新施設を誕生させる。1つが、JR環状線大阪城公園駅前で6月開業予定の「ジョー・テラス・オオサカ」。緑豊かな空間に、飲食店など15店舗が入居する。秋には本丸近くにある歴史的建造物の旧第四師団司令部庁舎を改装し、レストランなどに一新。屋上テラスからは天守閣が望めるという。

【土橋 孝秀】

観光客回復へ協力、フランスで役員会開く(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)は12月3―8日、フランス・ルーアン市とパリ市で「JATA役員会」を開き、同観光開発機構などと「日本人観光客数の回復の重要性」などについて意見交換を行った。同国は2016年7月14日にニースで発生したテロ事件などによって観光客が激減。その後、各国のさまざまな取り組みにより全体数は平年並みに回復した。一方日本からの観光客数は10―12月が前年同期比70%となり、現地では回復が遅れていることを懸念しているという。

 越智良典事務局長は、「日本市場の回復・市場創造のための販促活動の協力や、シニア・ミレニアル世代など目の肥えたリピーターへの観光素材の掘り下げなどを確認した」と報告。日本からはJATA役員、観光庁の瓦林康人審議官らが、フランスからは同機構のマンティ総裁やパリ観光局関係者らが出席した。

学生奨励賞を新設、トラベルライティング賞(立教大学舛谷研究室)

(左から)舛谷教授、中島さん、抜井先生
(左から)舛谷教授、中島さん、抜井先生

 立教大学観光学部舛谷鋭研究室は昨年12月12日、新座キャンパスで「第10回トラベルライティングアワード」の発表会を行った。今回の最優秀作品は、nakaban(ナカバン)氏が書いた「Colours in MELAKA~マラッカ色彩憶え描きの旅~」(翼の王国2015年9月号掲載)が選ばれた。今回新たに新設された学生奨励賞最優秀賞には、中島加奈恵さんの「とりわけマッシュドポテト」が選ばれた。一昨年はサブゼミ長として活動していたため「『リストに残らないと』という使命・プレッシャーがあった。今ホッとしている」と受賞時の心境を語った。

 トラベルライティングとは、主にトラベルライターが執筆する旅エッセイのこと。海外では必ず書店に「トラベルライティング」の売り場があるが、日本の書店ではスペースが狭く、出版業界でのステータスも低いイメージがあるという。この状況に対し舛谷教授は、トラベルライティングを奨励するため、トラベルライティングアワードなどの活動を行っている。

 舛谷ゼミでは、毎年1―12月に発行された日本語の機内誌(JAL・ANAなど)、列車などにある車内誌に掲載されたトラベルライティングをゼミ生が購読。(1)観光学部生が興味深く読める(2)読んでみて新鮮な発見がある(3)読んだあとそこに行ってみたいと思える(4)写真が効果的に利用されている――などを基準に、ゼミ生が投票によって受賞作品を選出する。

 立教大学講師の抜井ゆかり先生は今回から「学生奨励賞」を新設した理由の1つとして、「写真と違って、文章は感情を表せる」ことを挙げた。また今回の候補作品に対しては、「20歳前後の学生らしさと、感情の流れが表現された作品が選ばれたのではないか」と語った。

新たな“東洋モデル”へ、社会のニーズに応える人材輩出

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 東洋大学は2017年4月に国際観光学部を開設する。観光産業において産官学のミスマッチが指摘されるなか、社会のニーズに応える人材を輩出する。学部は5つのコースに分け、産業界と連携を密にする画期的な「東洋モデル」を創設した。東洋大学国際地域学部国際観光学科の島川崇学科長・教授と、徳江順一郎准教授に開設に至る想いを語ってもらった。
【聞き手=増田 剛編集長、構成=平綿 裕一】

東洋大学国際観光学部 4月開校

島川 崇教授
島川 崇教授

島川:現在、観光業界では産官学連携を謳っていますが、この3者はまるで歩み寄ろうとしていません。お互いが欠点を言い合う状況です。我われが新しい学部を開設する際に意識したのは「何を変えることができるか」です。
 まずこれまでの観光学科ではマネジメント教育ができていませんでした。「難しいことは分からないけれど、お客様の笑顔がみたい」という学生が多かった。けれども、やはりファイナンスなどの知識を、しっかり学習できる教育体制を敷くべきだと考えました。

徳江:我われが一番議論していたのは「根幹にいるお客様は誰か」ということ。これは学生の就職先の企業になるはずです。社会は即戦力や将来の幹部候補を欲していると思います。
 なので、私たちはさまざまな業界の人たちに話を聞いて回りました。「社会は観光を通じて何を期待し、観光の将来をどう描いているか」を考えました。

徳江 順一郎准教授
徳江 順一郎准教授

島川:これまでは教員らは個人事業主のような傾向が強く、自分たちの得たものを外に出していなかった。そこで、お互いの知識やノウハウを出し合い数多くの議論をしました。5つのコースは明確に学習内容や目標を分けて、新たな「東洋モデル」を構築しました。午前はインターン先で働き、午後から授業というかたちを取り入れたコースもあります。これは日本初の試みです。
 さらに観光を総合的に、横断的に学べるように全体のバランスを考えて作り、事前事後の学習も確立しました。開設の前からさまざまな企業や団体から期待を集めています。

島川:国際観光学部は①ツーリズム②エグゼクティブマネジメント③サービスコミュニケーション④観光プロフェッショナル⑤観光政策――の計5つのコースで構成しています。
 5つのコースのうち、旅行会社に特化しているのがツーリズムコースです。ここでは旅行業務取扱管理者資格を取得してもらいます。1年次で国内の試験、2年次で海外を含めた総合の試験に合格してもらいます。
 ここでしか受けられない授業に、募集型企画旅行演習があります。実際のパッケージツアーに参加し、企画者の想いや企画過程など多くを学ぶことができます。
 また、議論のなかで、パッケージツアーにホテルの視点が絶対に必要だと分かりました。以降は実習でも、必ずホテルの視察を取り入れるようにしました。旅行業に関しては学部化以前にも実績がありますが、ホテルの視点も加わり、さらに磨きをかけられました。

徳江:東洋大学は多くの学生がホテル系をはじめとするホスピタリティ系に就職しています。ただ、経営のトップになった学生は多くはありません。総支配人層や、経営者層を育成しなければと強く感じ、エグゼクティブマネジメントコースを創設しました。
 これまで足りていなかったファイナンスや計数管理、不動産知識など、それぞれ専門の教員を採用して強化しました。同時にこれまで連綿と続けてきたサービス教育を合わせ、両方を兼ね備えた人材育成をはかります。30代で総支配人となる人材を輩出することが目標です。
 一方、これまでのサービス教育の強みをより出していくのがサービスコミュニケーションコースです。学部内のコースで1番ボリュームがあります。サービスに特化することで、ホテルやブライダル、キャビンアテンダントなどのほか、小売業全般の接客を行う人材を育てます。

島川:観光プロフェッショナルコースはこれまでにない「働きながら学ぶ」枠組みが特徴です。1年次から3年次までの3年間、昼過ぎまでインターン先で働き、そのあとに授業を受けてもらいます。さらに3年間同じ企業に通うことも新たな試みです。通常は3週間ほどですが、長期間でみた方が企業の実情を理解できると考えました。

徳江:今年は間に合いませんでしたが、普段は東京の営業所で働き、休み期間中は地方にある旅館で働くといった取り組みを検討しています。
 最後に観光政策コースです。公務員となり地域それぞれのアイデンティティを発信し、観光を盛り上げたいという学生向けです。公務員試験対策も用意しています。

島川:ただ、全体を通して授業に工夫が必要でした。会計学科が行うようなファイナンスばかりでは、学生が興味を持つのは難しいと考えました。もっと親しみやすく、敷居が低くなるように努力しました。また、実習の授業も充実させる一方で、理論に立ちかえることも重要視しました。

徳江:「女将・総支配人論」という授業があります。一見面白くて受けたいと思うかもしれませんが、担当の先生には理論をしっかりと教えてほしいと念を押しています。
 例えば「女将が果たしてきた社会的役割」「近年なぜ女将が減少し、ホテル的な経営をする旅館が増えたのか」などについてです。きちっと分析してもうことが前提で、語っていただく。
 学生側も事前に調べさせ、そして実習で現場の人とやりとりをする。事後は吸収したことをさらに学ぶ、というプログラムをどんどんやります。

島川:コースは5つに分けましたが、すべての学生に受けてほしい授業があります。リーダーシップ論とサステナブルツーリズム論です。
 観光で人と人をつなぎ、物と物をつなぎ合わせるときに必ずリーダーシップは必要です。リーダーシップの経年変化を通して、リーダーシップの潮流を学んでほしい。
 国連世界観光機構はサステナブル(持続可能性)とレスポンティビリティ(責任)を強調しています。これを踏まえ、産業と一体となって、連携しなければなりません。
 一方で産業はともすれば1―2年の近視眼的な利益に動いてしまいがちです。ここで我われが歯止めとなって、観光における持続可能性や責任を伝えていくことが使命だと思っています。

徳江:私たちは学部開設にあたり、インターンにも力を入れました。これまで産学連携が大事といいながら、学生を丸投げしている状況でした。ただの労働者として働くので、相手先の企業について何も学べない。戻ってくれば、業界を嫌いになる学生もいました。
 そこで、私達はインターン先を可能な限り視察しました。日本国内はもちろん、タイ、スリランカンなど、世界各国です。

島川:インターン先は信頼関係を持てる企業を厳選しました。例えば今回お願いしているはとバスさんは、1年目は東京の営業所で、次はコールセンターなどのバックオフィスを経験させてもらいます。その後、上手く話せてマイクを持てるような学生が出れば、バスガイドを経験できるかもしれません。そこで互いに納得すれば、そのまま就職もあります。このように密に企業と連携をはかっていきたいと思っています。

徳江:業界全体でいえますが、中学生の年代あたりから、もっと業界の啓発が必要だと思います。「観光は人が喜んでお金を払ってくれる仕事だ」という認識はあまり中高生にはない。世間一般のイメージを超えなければなりません。

島川:学部の開設だけでなく、高校と大学の「高大連携」も強めていきたいと思っています。全国には観光科や、第2外国語を取り入れている高校もあります。高校で旅行業務取扱管理者資格を取っていたら入学させるなど、積極的に働きかけたい。第2外国語で仏、中国語など取得していれば、インターンなどで選択肢が生まれます。
 そのほかホテルを持っている大学と連携をはかります。学生はホテル教育をしながら、実践で学べる。いつになるかわかりませんが東洋大学ホテルを造りたい。この想いはずっとあります。連携によってどのような教育をしているか、ノウハウをしっかりと学びたい。国際観光学部は飛ぶ鳥を落とす勢いでやっていきます。