ホームステイ型は“届け出”検討、議論は新たなステップへ、「民泊」中間整理

第8回検討会のようす
第8回検討会のようす

 一定の要件を満たすホームステイ型の民泊などは許可制ではなく、たとえば届け出制にするのはどうか――。民泊問題への検討は新たなステップに進んでいる。厚生労働省と観光庁は3月15日に東京都内で8回目の「民泊サービス」のあり方に関する検討会を開き、これまで開催してきた検討会の中間整理と今後議論を深める課題についての検討を行った。中間整理ではこれまで議論を重ねてきた検討の方向性についての大きな変更はなかった。
【丁田 徹也】

 これまで検討会は「旅館・ホテルとの競争条件」「地域ごとの宿泊需給状況」「規制内容や方法に対応した自治体の体制」などに留意し、民泊サービスの必要性や位置付け、法令との関係、民泊仲介業者のあり方を主な論点に据えてきた。

 検討を進めるなかで、現行法で対応できる事項については「早急に取り組むべき課題と対応策」に、現行法の枠組みを超えるため、検討を重ねる必要のある事項は「中期的な検討課題」に、それぞれカテゴリー分けした。

 「早急に取り組むべき課題と対応策」で現在進んでいる検討内容は「簡易宿所の枠組みを活用した民泊サービスの提供」で、旅館業法の許可取得を促進すべきとしている。簡易宿所の枠組みを利用するにあたり、旅館業法の現行の客室面積基準「33平方メートル以上」では民泊規模の客室が対応できないことが想定されるため、「1人当たり面積を3・3平方メートル」と変更する方針も定めた。旅館業法の関係法令だけでなく、賃貸借契約や共同住宅の管理規約に反していないことの確認も求める必要があるとした。

 「中期的検討課題」については、旅館業法上で求められてきた許可取得をはじめとする義務の内容を一律にすべきか、仲介業者や管理事業者などに義務を課すべきかなど、現行制度の枠組みでは扱えない事項について検討を進めている。

 今回の検討では、家主在住で自宅の一部を貸し出すホームステイ型などの「一定の要件を満たす」民泊サービスにおいて、規制を課すことを前提に現行の許可制よりも緩やかな規制に変えていく必要があるとの見解を示した。緩和例として届け出制を挙げた。「一定の要件」については検討委員の指摘や海外の民泊サービス事例を参考に、今後議論を深める予定。このほか、検討委員からは「地域ごとに定めている民泊に関するさまざまな条例に今後どのように対応していくのか」「民泊には旅館やホテルなどのフルサービスの宿泊施設ではないことを明示させる必要があるのではないか」など、今後の検討課題についての意見もあった。

ス・文・観3庁が連携、2020年取組みへの第一歩

旧岩崎邸庭園で協定を結んだ
旧岩崎邸庭園で協定を結んだ

 スポーツ庁・文化庁・観光庁の3庁長官が3月7日、国指定重要文化財の旧岩崎邸庭園(東京都)で包括的連携協定を結んだ。2020年に向けた3庁連携の第一歩となった。文化庁とスポーツ庁の間では、初めての連携協定となる。

 締結式に先立ち、昨年10月に設立されたスポーツ庁の鈴木大地長官は「かつてスポーツを経済活動にすることを善しとしない風潮があったが、これからはスポーツが日本の経済、そして地域を元気にできることを発信していきたい」と意気込みを語った。

 3庁ではじめに取りかかるのは「スポーツ文化ツーリズム百選(仮称)」。各地のスポーツ大会や現地でしか楽しめないスポーツイベントなどをピックアップし、100選を定める。そのほか、「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」の開催や各スポーツ大会・文化プログラムの開催推進、文化とスポーツ資源を融合した観光地の魅力向上、訪日旅行者の地域受入環境整備やプロモーション、各庁の情報共有などに取り組む。

 締結式には義家弘介文部科学副大臣も出席し、「日本の津々浦々まで連携した新たなる政策が未来に向かって羽ばたいていくと確信している」と3長官を激励した。

 田村明比古観光庁長官は旧岩崎邸庭園を会場に選んだことについて「文化的な舞台を活用してイベントを開催しようという“ユニークベニュー”の使い方の一例だ。我が国はユニークベニューとして活用できる施設がたくさんあるので、こういった分野を拡大しても良いのではないか」と提言した。

宿研・小泉氏が講演、「自社サイトでの売上拡大へ」、鳥羽で百五銀行セミナー

講師の小泉敦氏
講師の小泉敦氏

 宿泊施設のデジタルマーケティングを支援する「宿泊予約経営研究所」(末吉秀典社長、神奈川県横浜市)は三重県鳥羽市内で開かれた「伊勢志摩サミット応援事業 百五銀行観光アカデミー」の第5回セミナーで、同社執行役員・事業創造戦略室室長の小泉敦氏が講師として登壇し、「自社サイトでの売上拡大方法と口コミへの対応」について講演した。

 百五銀行は、鳥羽志摩地域の観光事業者に役立つ実践的なセミナーや勉強会を実施しており、5回目の今回は、インターネットを活用した“おもてなし”がテーマ。自社ホームページや、SNS、口コミサイトなど多様なメディアを横断的に活用して集客するデジタルマーケティングの考え方や、実践的なノウハウを身につけることを主眼とし、第1部はネッパン協議会理事、ソウルドアウト代表取締役社長CEOの荻原猛氏が講演した。

 第2部講師の宿泊予約経営研究所の小泉氏は、実際に参加した施設のサイトを見ながら、集客のポイントや口コミ返信のテクニックなど事例を含めて説明。さらに、自社サイトでの予約を増やすための大切な要素として、「探しやすさ」と「選びやすさ」の2点を挙げた。

 とくに「選びやすさ」で重要になってくるポイントとして「口コミ」をあげ、Googleマイビジネスやトリップアドバイザーなど無料で手軽に始めることができる口コミツールを中心に、実践レベルでの対応方法のアドバイスも行った。

 参加者からは、「販路拡大の施策など、やるべきことがわかった。たとえば『100人訪問して1人予約があれば合格ライン』など、その後の展開において評価基準についても詳しく聞きたいと感じた」などの声があった。

益子のビルマ汁

 先日、栃木県益子町へ出張した際、「ビルマ汁」と書かれたポスターを発見した。

 調べてみると、ずいぶん昔からある益子の家庭料理のようで、益子町に住んでいる人ならば誰でも知っている定番メニューだとわかった。

 ビルマ汁の歴史は1945年の終戦の年まで遡る。益子町の「もおかや」の先代飯塚潤一さんが当時、太平洋戦争でビルマ(現ミャンマー)に出征した際、戦地で食べたスープの味が忘れられず、終戦帰国後にビルマで食べた味を再現したのが始まり。それが地域に広まり、夏の家庭料理として定着したという。

 夏野菜を使ったカレー味のスープなので飲食店では野菜が収穫できる夏季限定でしか提供していない。ならば夏以外の時期は保存ができる缶詰にして提供してみるのも面白いのでは。

【古沢 克昌】

「奈良に滞在を」、20年春、外資系ホテル誕生

森章社長(左)と荒井正吾知事
森章社長(左)と荒井正吾知事

 森トラスト(森章社長)は3月3日、東京都内で記者発表会を行い、奈良県「大宮通り新ホテル・交流拠点事業」のホテル事業計画で、マリオット・インターナショナルの日本初進出となる最高級ブランド「JWマリオット」を誘致することを発表した。ホテルの名称は「JWマリオットホテル奈良」で、2020年春の開業を目指す。

 同プロジェクトの目的は、奈良県の観光を“日帰り型から滞在型にする”というもの。同県には、東大寺など歴史的建造物が多く存在していることもあり、国内外から多くの観光客が訪れている。その一方で、ホテルや旅館の数が少なく、インバウンド対策も整っていないため、同県への観光は「日帰り観光」が定着しつつあった。同ホテル開業予定地である大宮通りは、法隆寺などの名所が点在する奈良県北部の中心に位置している。同県は同事業計画地内に同ホテルのほか、2千人規模のコンベンションセンターやバスターミナルなどの整備を予定しており、同事業計画地を新たな観光拠点にすべく、大規模開発に取り組んでいく。

 「JWマリオットホテル」はマリオットグループの最高級ブランドで、現在世界27カ国、77軒を展開している。このほど日本でのブランド誘致先に奈良県を選んだ理由について、同社アジア太平洋地域開発担当のショーン・ヒル上席副社長は「奈良にはかけがえのない最古の文化が残っている。その文化とマリオットが持っている魅力を掛け合わせたら、JWブランドが一番合っていた」と回答した。

 また、森社長と共に記者会見に臨んだ奈良県の荒井正吾知事は、「奈良県はインバウンド対策の部分で出遅れていたが、今回の誘致で、一気に進めていきたい」と意気込みを語った。

 同ホテルの敷地面積は4千平方メートル。客室数は、スタンダードルームが144室、エグゼクティブルームが1室、スイートルーム5室の計150室を計画している。建設工事は17―19年にかけて行われ、開業は20年春を予定している。

完成予想
完成予想

知多半島の観光資源調査、東洋大・島川ゼミの学生ら

ものづくりの視点から新日鐵住金工場を見学
ものづくりの視点から新日鐵住金工場を見学

 東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授の島川崇ゼミの学生は3月4、5日の2日間、愛知県東海市や常滑市、半田市、南知多町など知多半島の観光資源調査視察を行った。昨年12月にも第1回調査として同地を訪れ、初めて訪れた学生がほとんどのなか、知多半島には、親子が旅行を通じて交流できる環境がそろっているとの視点から、「親孝行ツアー(親子感謝ツアー)知多半島1泊2日」など新たなテーマを見つけ出した。

 第2回の視察コースでも新日鐵住金工場(東海市)や、盛田味の館・盛田家資料館・味噌蔵、酒造見学(常滑市)、常滑やきものの道(常滑市)での絵付け体験、新美南吉記念館(半田市)、細井平洲(ほそい・へいしゅう)記念館(東海市)などを再度調査した。

新美南吉記念館(半田市)を見学
新美南吉記念館(半田市)を見学

 前回の視察をもとに、中部国際空港など周辺地域にはバリアフリーに配慮した施設などが多いことに気づき、福祉観光という視点から細かく調査した。そのほか、海上から東海市の工場夜景を眺める観光船を出すアイデアや、企業と連携した工場や資料館見学などを組み込んだものづくり観光(ビジネス研修など)、「知多半島はサイクリングに最適な環境」との視点で、民宿を利用したサイクリング観光の開発など、さまざまな可能性を探りながら視察した。

 なかでも、東海市では市民の誇りと慕われる“江戸時代最大の学者の一人”細井平洲に着眼。平洲は37歳のとき、米沢藩主・上杉鷹山公の先生となり、生涯を通じて師弟のつながりをもった。53歳のときには尾張藩主・徳川宗睦公に迎えられ、藩校明倫堂創設にあたって督学(学長)となり、尾張の学術を振興した。東海市には平洲にゆかりの地が散在しており、今も全国から平洲の教えに共感する旅人が多く訪れている。島川ゼミの学生たちも細井平洲を一つの観光資源として、新しい旅の提案につなげることを課題として視察した。

細井平洲先生と上杉鷹山公対面の像(東海市)
細井平洲先生と上杉鷹山公対面の像(東海市)

 第2回の視察を終え、島川准教授は「学生たちはとても難しい課題に向かっているが、東海市や知多半島の新たな観光資源を掘り起こし、新しい提案ができれば日本の観光はもっと深みを増していく」と学生たちに期待を寄せた。

【増田 剛】

【JR九州 唐池恒二会長×水戸岡鋭治氏】手間暇が生み出す魅力、感動の車両デザイン

唐池会長の軽快なトークが笑いを誘う
唐池会長の軽快なトークが笑いを誘う

 九州旅客鉄道(JR九州)は15年11月6日、東京都内で「鉄道が地域の元気をつくる会議」を開いた。同社の唐池恒二会長と鉄道や駅舎などのデザインを手掛けるドーンデザイン研究所の水戸岡鋭治代表が対談し、車両デザインの手間暇が生み出す感動について語った。
【丁田 徹也】

唐池恒二会長
唐池恒二会長

 唐池:私が初めて水戸岡先生にお会いしたときにおっしゃっていたことで、今でも強烈に印象に残っている言葉は「無駄な線、不必要な線やデザインや模様はいらない。デザインは我慢であり、引き算である」ということです。

 水戸岡:当時はそういう時代で、モダンなデザインを追求し、「いかにシンプルにするか」と言っていました。今では手間暇の世界に入ってしまい、デザイン職人になり、「いかに足すか」を考えています。
 
 
 ななつ星について

 唐池:引き算から足し算になったきっかけは「ななつ星」ですか。

 水戸岡 そうですね。ななつ星のプレゼンテーション当時に社長だった唐池会長にモダンなデザインを提案したところ、「みんながよくわかる、豪華で贅沢でクラシックなデザインにしてほしい」と言われ、「ようやく手間暇かけるクラシックなデザインができる」と嬉しくなりました。

 唐池:ななつ星の予約は運行1年前の12年10月1日から受け付けていました。当時は新聞で少し出たくらいで、車両もできていないのに、倍率7倍というたくさんのご応募をいただきました。
 お客様は何を見て応募したのか――。それは水戸岡先生が書いたななつ星のパースです。車両もできていないので当時はパースしかお見せできるものはありませんでしたし、実際に車両ができあがったのは運行直前の1日前でした。水戸岡先生の仕事としてはちょっと早かったですが(笑)。
 

水戸岡鋭治氏
水戸岡鋭治氏

 水戸岡氏の整理整頓

 唐池:ほかにも水戸岡先生の言葉でよく覚えているのが「デザインの前に整理・整頓・清掃」とおっしゃっていたことです。10年ほど前に鹿児島から熊本の山の中にあるローカル線「肥薩線」の各駅をリニューアルしようと、水戸岡先生と私と、建築の担当者など数人でチームを組んで各駅を見て回りました。
 駅ごとに先生にアドバイスをいただこうとしたのですが、先生はデザインについては語らず、「掃除しましょう」「ゴミ箱を片付けましょう」「整理・整頓・清掃で大丈夫です」とおっしゃるばかりでした。その辺りはいかがでしょうか。

 水戸岡:一番大事なのは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの「5S」、日本で昔から工場や企業の再生をするときのやり方です。そこから始めないといくら手をかけてもだめで、まずは自分の手で掃除し、色を塗り替え、直す。自分でリニューアルする楽しさを理解してもらうのです。いきなり作ってプレゼントしても、結局同じようなことが起きるので、自分たちの手でやってほしかったのです。実際に見事に沿線が生き返りました。

 唐池:30年ほど前に初めて水戸岡先生にJR九州がお願いしたお仕事は「アクアエクスプレス」という博多駅から海ノ中道公園まで走るリゾート列車でした。出てきたデザインは真っ白な車両で、車両の専門家や我われは「真っ白だと汚れが大変なんですよ」と反対しました。そのとき水戸岡先生に「汚れたら掃除すればよい」と怒られました。

 水戸岡:「白い車が真っ白である」というのがお客様に対する最大のプレゼントで、一番心地よいことだと思うのです。

 唐池:水戸岡先生の作品のほとんどが白か黒、ちょっと押さえて濃いグレー。とくに白と黒は良くお使いになられます。

 水戸岡:そうですね。一番美しく、大変な色です。その大変な美しさを追求することに付加価値が生まれるのです。

 唐池:大変といえば、ななつ星の車両に組子(くみこ)と呼ばれる、福岡県大川市の家具職人が丹念に小さな木片を組み合わせた大きな建具があります。釘一本使っていません。この組子は掃除が大変です。お客様が寝静まったあとや車両基地でのメンテナンスのときなどに掃除をするのですが、綿棒を使って掃除をします。この大変な作業も我われの想いとして、お客様に伝わっているようです。

 水戸岡:ついつい手間暇かけたものを、「こんな物作れない」「こんなもの観たことない」というものを作りたくなるのです。
 
 
 ななつ星への想い

 唐池:ななつ星の7両の車両には特注の星形の木ねじが2万3千本使われており、細部ギリギリに至るまで手間をかけています。ですので、何千人という職人の想いや気、エネルギーがななつ星には投入されているのです。このエネルギーがお客様の感動に変換されるということを私はななつ星から学びました。

 水戸岡:3泊4日乗るということは、お客様は「生活する」ということです。そうすると細部まで気になってしまいます。取手から光の入り方まで手が抜けないのです。エネルギーがある限り、時間がある限り、お金のことも忘れるほどに集中します。職人たちもわかってくれて、手間暇関係なく自分のノウハウを全部注ぎ込みます。
 人間の手から何でも作れるということを多くの人が感じてくれて、そこから感動が生まれます。

 唐池:ななつ星が走る沿線では手を振ってくださる方がいらっしゃいます。手を振ってくださる方も見るだけで涙することがあるといわれるほどの魔力をもっている列車で、この想いが伝わっているのだと思います。

地域を変革する人材、高度化する復興人材ニーズ

日本財団の青柳光昌氏
日本財団の青柳光昌氏

 転職支援サービスを展開するビズリーチが3月9日に東京都内で開いたセミナーで、東北復興の人材紹介事業を進める日本財団の青柳光昌氏がこれからの東北に求められる人材について語った。震災復興を機に全国からさまざまな「復興人材」が東北に集まるなか、観光分野の人材ニーズも「地域を変革する人材」と高度化している。

 旅館・ホテル業は、復興ラッシュで回復してきた建設業や運送業と異なり、売上水準が震災前水準まで回復していないところが多い。訪日面を見ても、全国的に外国人観光客の増加が目立つなかで、東北には年間50万人程度しか訪れていないという現状があり、観光推進は東北の喫緊の課題となっている。

 青柳氏によると「地域をリブランディングできる人材」が必要という。岩手県釜石市は全国的に「鉄鋼のまち」のイメージとして知られているが、2019年のラグビーワールドカップの開催地に決定してから「スポーツのまち」のイメージが板についた。このような地域の変革が今、被災地には求められているのだという。

 変革には「ヨソ者目線」も重要だ。外部の人間は地域の人々が見落としがちな資源を魅力として引き出す力があるので、「ヨソ者」がリブランディングのきっかけをつくる可能性に大きな期待が寄せられている。

 実務面で不足している人材は「販売ルートを確保できる人材」という。ハードが復旧するだけでは観光客は集まらない。誘客の仕組みを考案できるマーケッターの存在が必要になってくる。

 復興地域のなかでもとくに観光施策が進んでいる地域を聞くと「宮城県石巻市の隣にある女川町ですね。観光施策が驚くほど早く進んでいます」と高く評価した。

 女川町には東北電力の原発(現在運転停止中)があるため、財政面での民間の動きが早かった。また、地域の若手が中心になって復興を進めているため、新しいことへのチャレンジが活発で、スピード感のある復興が進んでいる。

 「被災後すぐに釜石の商工会長らが、次世代を担う若手に釜石の将来を預けました。足りない部分があれば年長者の知見でサポートする、という体制です。地方では珍しいことだと思います」と力を込めた。

 女川町の観光振興を全体的にみると、「定住してほしい」「観光に来てほしい」と露骨な要求がないところがポイントという。「女川町のことを少しでも気にしてくれるファンを増やすために、女川町の良さに磨きをかけているのです」。

 昨年再開したJR女川駅の新駅舎は海にかけて一直線にプロムナードを伸ばし、町の美しさを引き立てる。これからの東北復興は、リブランディングやヨソ者視先、新しい考えの導入など、考え方の充実さが肝になる。本格的に「人」が東北をステップアップさせる時代がやってきた。

星野リゾートで研修、「和」を感じるもてなし検討(ANAエアポート)

両社でおもてなしに関して意見交換
両社でおもてなしに関して意見交換

 星野リゾートが運営する温泉旅館「星野リゾート 界 川治」(栃木県・川治温泉)で3月6日、ANAエアポートサービスのおもてなし研修が行われた。同研修は2020年のオリンピックイヤーを見据え、国内外の顧客に「和」を感じてもらうおもてなしを検討する場として、ANAエアポートサービスからの要望により実施された。

 当日はANAエアポートサービスのコンシェルジュ3人と界 川治のスタッフ3人の双方の自己紹介からはじまり、界 川治の森本剛総支配人から施設のコンセプト「栃木の里山体験」がどのようにしてできたかという、これまでの取り組みを発表。続いて、ANAエアポートサービスから企業説明が行われ、ANAエアポートスタッフによる空港内のプレミアムラウンジを想定した接客ロールプレイングを実施。ゲスト役を体験した界 川治のスタッフからは「情報伝達、連携の良さに感動」「お客様との自然な距離感が心地よい」という感想が聞かれた。

 双方の接客の特色がわかったところで「羽田空港に『界 羽田』というラウンジが誕生し、運営を任されたらどのような場にするか」という課題を検討した。最後に両社から発表が行われ、ANAエアポートスタッフからは「スイートホーム」というコンセプトで「日常と非日常が入り交る、自宅で寛ぐような空間を提供するラウンジ」と提案。一方、界 川治は「行ってらっしゃい」というコンセプトで「あえて電波などを遮断し、人と人が日本文化の体験を通じて交流を育める体験型ラウンジ」というユニークな案があがった。

 最初は緊張していた両スタッフも研修を受けるうちに次第に打ち解け、研修後半には活発に意見交換が行われた。館内見学時にはANAエアポートサービスのスタッフらが里山工房で石臼引き体験などを行い「西洋型のサービスと日本旅館のおもてなしとの違いがよくわかった」という意見も出た。「双方の接客や工夫を参考にしたい」という声もあり、「今後のサービスを考える有意義な場となった」(星野リゾート)とコメントしている。

館内の里山工房で石臼引き体験
館内の里山工房で石臼引き体験

【「四万せんか」ファムツアー】タニタが協力、プチ湯治とヘルスケア、滞在型ヘルスツーリズム

タニタ監修のセミナー受講
タニタ監修のセミナー受講

 群馬県・中之条町の四万温泉は、経済産業省「2015年健康寿命延伸産業創出推進事業」委託事業(群馬県次世代ヘルスケア産業協議会)として、体重計など計測機器大手メーカーのタニタの協力を得て、健康への気づきをサポートする滞在型ヘルスツーリズム「プチ湯治とヘルスケア『四万せんか』」を開始した。昨年11月中旬に一般参加者を対象としたモニターツアーを実施し、1月13、14日には旅行会社やマスコミを対象にしたファムツアーを実施した。今回は同ツアーの主なポイントを紹介する。
【古沢 克昌】

四万たむら「湯治懐石」(タニタ監修)
四万たむら「湯治懐石」(タニタ監修)

 ファムツアー1日目は東京都千代田区の「丸の内タニタ食堂」に集合。受付時に活動量計が配られ、食堂内に設置されている体組成計で参加者一人ひとりの身体データを計測した。事業概要説明の後、1回目の食事(タニタ食堂の日替わりランチ)をとった。

 四万温泉へ向かうバス車中では、各自のスマートフォンにアプリ「からだカルテ」「ヘルスプラネットフード」をインストールし、使用方法が説明された。四万温泉到着後は「四万ゆずりは荘」でセミナーを受講。タニタヘルスケアリンクの管理栄養士・健康運動指導士の龍口知子さんによる「ヘルスケア料理について」、四万温泉協会の森博昭事務局長による「温泉入浴法について」の講義を受けた。

 ツアー中の食事に関しては、タニタ食堂からのアドバイスをもとに「四万温泉および群馬県特産食材の活用」「温泉旅館の楽しみの食事でもあるため、季節感を盛り込む」「各旅館の食事の特徴を踏まえたうえで、ヘルスケアの要としてタニタの社員食堂の食事コンセプトを取り入れた内容とする」など、栄養量の基準を設けた。1食当たり500キロカロリー―800キロカロリー前後に抑え、塩分は4・0グラム未満、野菜量は180グラム以上とする。品数の多い旅館などに考慮し、事前の栄養が多い場合は20%以上削減する、など細かな目標数値を設定して、タニタ監修の懐石料理の開発に着手した。

 宿泊は四万温泉の温泉三昧の宿「四万たむら」で、チェックイン後に温泉入浴とタニタ監修のヘルスケア料理(夕食)を実食。タニタも感心した湯治懐石は、見た目は普通の懐石料理とまったく遜色なく、味も薄味ではなく、だしの旨みや酸味、香りなどを活かした満足感のある献立に仕上がっていた。食事の総エネルギー量は812キロカロリーで通常の懐石料理の約半分。食塩相当量3・8グラム、野菜量311グラムとこちらも基準値をクリアしていた。

 翌日はタニタ監修のヘルスケア料理(朝食)実食後に、希望者のみ旅館周辺を約20分間、朝ウォーキング。チェックアウトして再び「四万ゆずりは荘」を訪れ、脂肪燃焼効果を上げる運動の順番や運動不足を解消するウォーキングおすすめの理由など、運動プログラム実践の講義を受けた。

時わすれの宿佳元「上州牛すき焼き風プラン」(タニタ監修)
時わすれの宿佳元「上州牛すき焼き風プラン」(タニタ監修)

 昼食は「時わすれの宿 佳元」で、タニタ監修の新たに開発した名物料理「上州牛すき焼き風」プランを試食したが、こちらもカロリーは基準値の半分以下。生玉子なしのすき焼き風だが、上州牛、下仁田葱、地物白菜、椎茸、春菊、白滝、焼豆腐を使用しており、満腹感は十分。味も通常のすき焼きに負けず劣らずの美味しさだった。黙って出されたらヘルスケア料理とは気がつかないほど完成度は高かった。

 午後からは中之条町内に移動。県指定重要無形文化財「鳥追祭り」と真田氏ゆかりの「林昌寺」を見学して2日間のファムツアーは終了した。

 なお、当初は今春からヘルスツーリズムのレギュラーメニュー化を目指していたが、連泊した場合などクリアしなければならない問題がまだ解決していないため、「今夏ごろまでには具体的な旅行商品のかたちに持っていければ」(中之条町観光協会・原沢香司主任)とコメントしている。

 問い合わせ=中之条町観光協会 電話:0279(75)8814。

鳥追祭り
鳥追祭り