Wi-Fiマーク導入、訪日外客へ情報発信強化(観光庁)

無料公衆無線LAN環境の共通シンボルマーク
無料公衆無線LAN環境の共通シンボルマーク

 観光庁はこのほど、訪日外国人旅行者が無料で公衆無線LAN環境を利用できるスポットの外国人旅行者への「見える化」をはかるため、共通シンボルマーク「Japan Free Wi-Fi」を導入することを発表した。また、利用場所のマップ表示や検索機能のあるウェブサイトの作成など海外への情報発信に力を入れる。

 総務省と観光庁は昨年8月に、訪日外国人旅行者向けの無料公衆無線LAN環境の整備促進と、利用場所の周知、利用円滑化に向けた各種取り組みを推進するため、「無料公衆無線LAN整備促進協議会」を設置。このなかで、海外への情報発信強化や、外国人旅行者にわかりやすい共通シンボルマークの導入による「見える化」の推進を決めた。

 共通シンボルマーク掲出基準は、利用手続きを含めて無料であることと、初期画面や同意画面などで多言語案内があり、訪日外国人旅行者が容易に利用できること。なお、接続時は無料で、一定期間過ぎると有料の契約を促すものも認める。4月1日から開始する。

 また、無料公衆無線LAN環境などの情報を幅広く周知・広報するため、利用場所のマップ表示や検索機能を備えたウェブサイトを4月に開設予定。官民連携によるホームページなどの広報媒体への掲出も行っていく。

人材の宝庫・郡山

 福島県郡山市には、40年も続くタウン誌「街こおりやま」がある。歴史や文化を地元の人たちが熱心に語る誌面を見るたび、「この街は人材の宝庫」と感じていた。

 2月末に参加した視察旅行で一端を垣間見た。鯉の養殖に情熱を注ぐ廣瀬剛さん。見学後の試食で鯉料理を前に、「1匹から5グラムしかとれません」。どの部位かと質問されると、(まだ開発中なので)「分からないんです」。こんなやんちゃなやり取りも「人柄」と許せるから不思議。

 深く残った声もいくつか。デコ屋敷の橋本広司さんはひょっとこ踊りの名人。「からっぽにして」踊ったら「清らかになるね」。ブランド野菜の生産に力を入れる藤田浩志さんの言葉は「代わりのきかないいいもの」を作りたい。市の魅力紹介は近号で。

【鈴木 克範】

訪日客とスマホ戦略、ITセミナー開く(日本旅館協会)

会員81人が聴講
会員81人が聴講

 2月17―20日に東京ビッグサイトで開かれた宿泊・レジャー・外食(中食)・給食産業向け合同専門展示会「HCJ2015」のなかで、日本旅館協会(針谷了会長)は18日、ITセミナー「インバウンド集客の要点とスマホ戦略」を開き、会員81人が集まった。

 日本旅館協会IT戦略委員会の小野誠委員長(長野県・よろづや旅館)は、14年11月に協会会員に取ったインバウンドとITに関するアンケートについて紹介。外国人客を受け入れているのは会員施設の95%に上るが、英語ホームページを開設しているのは39%、中国語や韓国語になると10%に満たない。小野委員長は「ITへの取り組みが我われの業界はまだまだ遅れている」と指摘した。また、スマートフォン(スマホ)については「予約全体の2割がスマホからといわれる時代になり、スマホ用のホームページの充実が欠かせなくなっている」と話し、同セミナーの意義を強調した。

 講演では、インバウンドにっぽん/実践!インバウンドの小野秀一郎代表が「急成長のネットFIT市場とインバウンド集客の要点」について話し、アビリティコンサルタントの水野真寿常務が「予約率アップ!! スマートフォン専用ページのポイント」と題して会員へレクチャーした。

自社の外国語HP重要、無料Wi―Fiの表示強調を、小野秀一郎氏

小野秀一郎氏
小野秀一郎氏

 全国の旅館・ホテルのインバウンドコンサルティングを行うインバウンドにっぽん/実践!インバウンドの小野秀一郎代表は2月18日、日本旅館協会主催のITセミナーのなかで、「急成長のネットFIT市場とインバウンド集客の要点」と題する講演を行った。参加した会員宿泊施設に対し、自社の外国語サイトの重要性を説き、トリップアドバイザーやSNSなどの活用についてもアドバイスした。

 小野氏はインバウンド集客のツールとして(1)自社の外国語サイト(2)スマートフォン(3)海外OTA(オンライン・トラベル・エージェント)(4)トリップアドバイザー(5)フェイスブックなどのSNS――をあげ、「バランスが重要」と話す。海外OTAでの評価やトリップアドバイザーでのランキングには着目するが、自社の外国語サイトの更新頻度や情報量などが不十分になりがちなことを指摘。海外の旅行者や旅行会社、メディアなどは海外OTAを見てから、自社サイトを検索するケースが多いため、「自社の外国語サイトの充実が重要」という。

 トリップアドバイザーの露出度を上げて予約率向上を狙うビジネスリスティングについては、特典掲載でアクセスは増えるが購入してランクが上がることはなく、「15位以内に上がってから使うのが理想。逆に1、2位なら購入する必要もない。まずは無料ツールを使いこなすことが大事」と助言した。無料で口コミ数を増やす方法として(1)フェイスブックページの開設(2)顧客とSNSでつながること(3)トリップアドバイザーのレビューエクスプレスの利用(4)外国人客への写メール送信――などをアドバイス。フェイスブックは英語や中国語など外国語併記でも構わない。レビューエクスプレスは、直近で利用した顧客に対し、トリップアドバイザーでの口コミ投稿を簡単に勧められる無料のマーケティングツールだ。

 自社の外国語サイトでの集客に関しては、(1)Wⅰ―Fⅰのわかりやすい表示(2)地元の観光協会や組合サイトへのリンク依頼(3)ハラルやベジタリアン対応可否の明記(4)土産物売り場の免税店申請とそのPR――などをあげる。「リンク数は少しでも増やした方がよく、ハラルやベジタリアン対応はオペレーションの効率化にもつながるので、できること・できないことをはっきりと明記することが大切」。また、外国人向けの消費税免税制度の改正により、消耗品も免税対象になったことを受け、土産物売り場を免税店として申請することを勧め、「免税店として安く買い物できることをアピールするのは効率的」とアドバイスした。

広域観光周遊ルート形成へ、地域連携の可否が最大の課題 (観光庁)

出席の検討委員
出席の検討委員

 観光庁は、複数の都道府県に跨るテーマ性・ストーリー性を持った魅力ある観光地による「広域観光周遊ルート」の形成を促進し、海外へ積極的に発信していく。2月19日には、広域観光周遊ルートに関する方針や計画を検討する「世界に誇れる広域観光周遊ルート検討委員会」の第1回を開催。地域連携の重要性とその難しさなどについて、多数の委員から課題提起された。
【伊集院 悟】

観光庁や関係省庁から要人が出席
観光庁や関係省庁から要人が出席

 広域観光周遊ルート形成に関する事業には14年度補正予算で2・5億円、15年度予算案では3億円強を計上。希望する広域地域はまず、都道府県や市町村、観光関係団体、経済団体、旅行会社、交通事業者などから成る協議会を設置し、管轄の地方運輸局からの助言を踏まえ、(1)計画策定とマーケティング(2)受入環境の整備と滞在コンテンツの充実(3)対象市場への情報発信とプロモーション――などの広域観光周遊ルート形成計画を策定する。検討委員会を踏まえた国による認定後、国が事業費用の一部を負担し、関係省庁や関係機関を交え、観光庁がパッケージ支援していく。

 検討委員会冒頭で、西村明宏国土交通副大臣は「国をあげて地方を元気にすることを掲げており、日本を訪れた観光客がゴールデンルート以外の地域にも訪れるようにしたい。点から線、面として捉え、各地の良さをつなぎ合わせて発信できるよう、委員の皆様の知恵を借りたい」と述べた。

 委員会では、多くの委員が地域間連携の重要性を強調する一方、その主体である自治体間の連携の難しさを指摘。日本旅行業協会会長の田川博己氏は、これまでの広域観光への取り組みから「点から線にはなるが、そこから面にするのが難しい。これまでは隣接県同士で議論する場もなかったので、地域連携がポイントになる」と地域連携の重要性を強調した。ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長の嶋津昭氏も「自治体間の壁」を指摘し、「観光は自分の所を売ろうとするもので、自治体間の壁を超えるのは非常に難しい。消費者目線を大切にして、いかに自治体間で連携できるかが鍵になる」と述べた。

 これに対し、旅行ガイド出版社社長の石井至氏は「自治体間の壁を超えるには、横断的な上位組織の存在が必要になる」と、地方運輸局の活用をポイントに挙げた。観光庁の久保成人長官も、「これまでは隣接する自治体や知事同士が連携に前向きではなかった」とし、委員や自治体の協力を促す。

 では、どのような周遊ルートが望ましいのか――。日本観光振興協会会長の山口範雄氏は(1)日本を表象するテーマ性とそのターゲット(2)連携したアクセスの設定(3)市町村間の横断的な連携(4)観光人材の育成(5)事前情報の発信と訪日後の情報伝達の仕組み――などを具備する要件として挙げた。

 田川氏はさらに、海外旅行商品において周遊ルート造成を50年間続けてきた旅行会社などの海外旅行商品造成の知見の取り込みも提案。トリップアドバイザー代表の原田劉静織氏は日本人と外国人、アジア人と欧米人の視点の違いを意識したうえでの広域ルートづくりを説いた。

 そのほか、インバウンド先進国との比較のなかでの国際競争力を持つことの難しさも指摘され、母国語で発信できる親日的な留学生や外国人英語教師、外国人就労者の活用なども提案された。

 久保長官によると、補正予算分で地域の実情や訪日外国人のニーズなどの基礎調査を行い、15年度事業へつなげていくという。今後は3月末の委員会で基本方針を固め、4月からの公募開始を目指す。

 世界に誇れる広域観光周遊ルート検討委員会の委員は次の各氏。

【座長】小林栄三・日本貿易会会長
【副座長】石田東生・筑波大学システム情報系社会工学域教授
【委員】石井至・石井兄弟社(旅行ガイド出版社)社長▽岩沙弘道・東日本高速道路会長▽太下義之・三菱UFJリサーチ&コンサルティング芸術・文化政策センター長▽大塚陸毅・日本経済団体連合会副会長観光委員長▽篠原文也・政治解説者/ジャーナリスト▽篠辺修・定期航空協会会長▽嶋津昭・ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長▽田川博己・日本旅行業協会会長▽豊田三佳・立教大学観光学部交流文化学科准教授▽原田劉静織・トリップアドバイザー代表▽矢ケ崎紀子・東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授▽山口範雄・日本観光振興協会会長

旅行をより安全に、対策、対応の見直しを(旅行安全マネジメント)

多くの旅行会社が参加した
多くの旅行会社が参加した

 観光庁は2月24日、東京都内で「旅行安全マネジメント普及セミナー」を開き、旅行業関係者を対象に旅行先での事故防止策や事故対応の見直しを促した。

 「旅行安全マネジメント」は旅行者の安全を確保するために、2013年12月に日本旅行業協会(JATA)が運輸安全マネジメント制度を参考に策定したもので、事件・事故を起こさせない仕組みや起きた場合の被害を最小限に抑えるための対応を提言している。セミナー当日は、「旅行安全マネジメント」に同庁が補足を足した冊子「旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ」を配布。冊子には安全管理責任者の設置や連絡体制の構築などが記載されている。

 第1部のセミナーは、JATAの越智良典事務局長が旅行安全マネジメントの取り組み例として、PDCAサイクルを基準にした「安全管理責任者の設置」や「自主点検チェックの実施」などを説明したほか、最近問題となっているテロ関連にも触れ、外務省発表の渡航危険情報で、危険度を示す4段階の下から2番目「渡航の是非を検討してください」以上の地域でのツアー催行には、旅行会社の慎重な判断を求めた。「他社が当該地域でツアーを催行しているから自社でもできるという判断は危ない。自社にリスク処理能力がない場合は、事件が起きた場合に間違いなく会社が潰れる」と強調した。

 第2部では海外での重大事故支援やリスクマネジメントなどを取り扱う日本アイラックの国原秀則社長が近年発生した事件・事案の対応事例を紹介し、旅行会社としての事故への適切な対策・対応例を説明。「保険に入っていない渡航者は意外と多く、事故発生後には必ずといっていいほどクレームがくる。対策として事前に保険の加入意思がないことを確認するチェック欄をツアー申込用紙に追加することをすすめる」と語った。事故が発生した際のマスコミ対応についても触れ、「マスコミ対応する場所を用意せずに社内にマスコミを入れ込むと、事故処理に支障が出るほか、社内情報が漏れる可能性もある」と述べ、事故発生時の準備の必要性も訴えた。また、「最近では、ツアーの途中から行方不明になる人が多く、無事発見されるまでに大きな問題になっている」と事故データ上には出ていない事項にも注意を促した。

 セミナーに参加した旅行会社勤務の欧米方面手配責任者は「当社にも対策マニュアルは存在するが、行方不明者にフォーカスした内容はなかった。これからマニュアルの見直しや社内でケーススタディを進めていきたい」と語った。

観光・旅行の視点を、高速バスフォーラムに150人

成定竜一代表
成定竜一代表

 高速バスマーケティング研究所(成定竜一代表)は2月12日、東京都内で「高速バスマネジメントフォーラム」を開き、全国のバス事業者約150人が参加した。成定代表は、高速バス事業の伸び代は観光需要を中心に、大都市居住者や訪日外国人旅行者を地域に送客することだと主張。今後、「観光・旅行」の視点を持つことがより重要になると強調した。

 成定代表は「今後10年で移動に観光をトッピングした個人旅行商品が充実してくるだろう」と予測。一方、「高速バスが取り込んでいくべき観光の個人マーケットは、旅行業が存続をかけて取り組んでいるもの」とし、大手旅行会社やオンライントラベルエージェンシー(OTA)など、流通側とどう連携をするか、それぞれが考えていく必要があると語った。

 今回のフォーラムは、こうした観点から、バス業界と協業が期待できる事業者や先駆的な取り組みをしている事業者を講師陣に迎え、今後の可能性を模索した。

上山康博氏
上山康博氏

 情報通信技術(ICT)を利用し、旅行需要や交流人口の拡大事業を展開している百戦錬磨社長の上山康博氏は、バス業界の課題として他の運輸業界や宿泊業界と比較し、インターネット販売で最も遅れをとっていると指摘。「好き嫌いではなく、使わなくては生きていけない。どううまく使うかが重要な時代」と述べた。技術革新やサービス展開の変化が激しい特徴も示し、「我われの会社は3カ月に満たないうちに事業戦略を変えている。変化を躊躇した時点で負け。今後はますます加速するので、変化を先取りすることが大切だ」と語った。

 一方、インターネットは代理行為、仲介行為をなくすもので、将来的に残るのは「人とハード」と言及。「長期的にみると、バス事業者の皆さんが持っているような人とハードが大きな財産になるだろう」と予測した。

 また、Web上で旅の企画を紹介し、ユーザー同士で旅を作っていく「シェアトリップサービス」を展開するtrippiece(トリッピース)執行役員マーケティングマネージャーの吉田祐輔氏と全国でプレミアム・アウトレットを運営する三菱地所・サイモンの小竹賢氏が登壇。自社の事業紹介や今後のバス事業者との連携への期待を述べた。さらに、個人旅行を取り込んだ事例を関越交通の佐藤俊也社長が紹介した。

“1位は日本への評価”、世界都市1位で記念シンポ(京都市)

門川大作市長
門川大作市長

 京都府京都市(門川大作市長)は、米国の旅行雑誌「TRAVEL+LEISURE」の読者投票ランキング「ワールドベストシティ2014」で世界1位になったことを記念し、1月31日、東京都内で記念シンポジウムを開いた。このなかで、門川市長は1位になったことについて「世界の日本への評価だと受け止めている」と語った。

 基調講演を行った門川市長は、日本のインバウンド政策における京都の重要性、責務を認識したうえで、京都のキャッチコピー「そうだ京都へ行こう」を「そうだ日本へ行こう」に変えていきたいと意気込んだ。優れた文化の集積や都市としての多面性、高いおもてなし力などを武器に世界トップクラスの観光都市となる潜在力を有していることを示し、「日本に京都があってよかった」から「世界に京都があってよかった」と思ってもらうことを目指しているとした。そのため、2014年度から20年までの中長期計画「京都観光振興計画2020」を定め、25施策191の取り組みを推進している。

 一方、「おもてなしの最前線に立つ現場の人の非正規率が75%の現状では本物のおもてなしは難しい」と課題に言及。「観光産業が労働生産性の高い産業にならなければ、我が国が抱える人口減少などの問題に歯止めがかからないのではないか」と危惧した。

パネルディスカッションのようす
パネルディスカッションのようす

 門川市長も登壇したパネルディスカッション「訪日外国人旅行者2千万人時代の日本のおもてなし」は、首都大学東京教授で観光庁参与の本保芳明氏がコーディネーターを務め、パネリストに星野リゾート代表の星野佳路氏と婦人画報編集長の出口由美氏を迎えた。

 本保氏は一昨年来、「おもてなし」の言葉が先行するなか、「世界のサービスとどこが違うのか、本当に日本のサービスレベルは高いのか。自己満足ではないかと疑問を持って立ち向かっている」と問題提起した。これを受け、門川市長は「京都は市民ぐるみでおもてなしをする」とし、例として20年までに、小中学生が華道と茶道、着物などの文化を英語で説明できるようにする取り組みなどを説明した。また、「おもてなしは“表裏なし”。お客様も従業員も大切にすること」と語った。

 他方、「伝統を守りながら、現代に合うように見えないところを変えることもある。分からない人には分からなくてもいい」や「ルールに従ってもらうことも必要で『一見さんお断り』もおもてなし」と京都流のもてなしも紹介した。

 星野氏は「おもてなしの定義は分かっていない」と前置きしたうえで、宿泊事業者の立場から持論を展開。自身の経験から、海外で日本のもてなしの優れた点を「親切」「気遣い」と挙げると「それなら外資系ホテルの方が上だ」と世界の論争に負けるため「日本のおもてなしはニーズに応えるマーケティングを捨てること」という結論を出したという。

 千利休が朝顔を眺めながらの茶会に豊臣秀吉を誘い、わざと朝顔を全部刈って一輪のみ茶室に活けて迎えたという逸話「朝顔の茶会」を原点とし、「伝えたいメッセージを持つことがおもてなし。例えば我われの宿にはテレビは置かない。それを嫌がる人もいるが、好きな人に訴えていくしか日本のおもてなしが世界で通用する道はない」と言及。世界のホテルマーケティングは行きつくところまでいき、あらゆるニーズに応えられるシステムを構築したためにどのホテルも特色がなく均質化するなか、「日本の旅館、ホテルは自分たちのこだわりを持ち、勇気を持って伝えていかなければならない。マーケティングを捨てることは外資には真似できない」と述べた。

40年連続総合トップ10、加賀屋を特別表彰(日本のホテル・旅館100選)

小田真弓女将(左)に表彰状
小田真弓女将(左)に表彰状

 「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」を主催する旅行新聞新社(石井貞德社長)は2月23日、今年1月に発表された第40回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」において、40年連続総合トップ10入選の偉業を成し遂げた加賀屋(小田與之彦社長、石川県和倉温泉)を訪れ、特別表彰を行った。

 加賀屋の社員らが見守るなか、石井社長が小田真弓女将に表彰状を手渡した。小田女将は「今回の受賞は、先代の厳しい教えを守り、それを次世代につなげてきてくれた現場のスタッフたちが受け取ったようなもの。これまで支えてくれた方々に本当に感謝したい。今後も謙虚な気持ちを忘れず、母の教えをもとに、変えるべきものは変え、変えてはいけないものは守り続けながら、皆と一緒にがんばっていきたい」と受賞の喜びと今後の決意を語った。

 1976年の第1回から、40年連続で総合トップ10入選を果たしたのは、加賀屋と日本の宿古窯(山形県かみのやま温泉)の2館のみ。

 石井社長は「社員一人ひとりが、先代から引き継がれてきた“加賀屋イズム”を、しっかりと実践してきた結果が今につながっている。今後はインバウンドもさらに増えると思うが、スタッフ全員が良い意味で自信とプライドを持ち、世界から評価される宿へと発展させていってほしい」と祝辞を述べた。

外国人雇用で売上増、訪日外国人の行動分析を(HRソリューションズ)

会場には多くの経営者が集まった
会場には多くの経営者が集まった

 人材関連サービス開発や面接官のトレーニングなど採用支援事業を展開するHRソリューションズ(武井繋社長)は2月17日、セミナー「多言語対応、元年。訪日外国人で売り上げを2倍にする方法」を開き、訪日外国人の行動分析や外国人を雇用してインバウンドの売上実績を伸ばした事例などを発表した。

HRソリューションズ武井社長
HRソリューションズ武井社長

 講師に多言語対応のウェブ制作を得意とするシトラスジャパンから渡辺紀章執行役員、楽天のショップ・オブ・ザ・イヤー2014(SOY)で海外販売大賞を受賞した総合土産店「スカイショップ小笠原」を経営する山ト小笠原商店の小笠原航社長、HRソリューションズの武井社長が登壇した。

 第1部では渡辺氏が日本人と訪日外国人の考え方と行動について紹介。「日本人は海外旅行で工場見学に行くことはあまりないが外国人は日本のテクノロジーに関心が高く、自動車工場見学などに行く」「桜は海外に意外と多く、外国人が日本の桜を見るのは昼間から大人が酔っぱらっている牧歌的な雰囲気を楽しみ、自分も混ざりたいから」「むしろ花よりも、真っ赤に染まる紅葉が珍しく人気」など事例を挙げ、訪日外国人の本当に求めるものを間違えないように、まずは相手を知ることの必要性を説いた。

 また、国の違いで観光対象や購買商品が違うことも強調した。長い歴史がない国の観光客は歴史や景観に興味を持つ傾向にあるが、長い歴史を持ち、母国との違いを感じない国の観光客にとっては歴史や景観が観光対象にはならないという事例を挙げ、訪日外国人をひとくくりに「外国人ターゲット」とまとめることの危険性を強調した。

 第2部では小笠原氏がインバウンド消費をとらえて成長した成功事例を発表。同氏が事業を展開する北海道では免税店が急増しており「札幌でも旭川でもこぞって外国人観光客に向かっており、免税の許可を取る事業者が増えた」と語った。また、「東京で北海道の商品を販売した際も、有名店の生チョコをまとめ買いする人の大半は日本語が通じない」と述べた。昨年の免税制度の変更以降、訪日客の購入者が一段と増えたという。

 新千歳空港の国際線に構える店舗では和雑貨を中心に販売しており、最も購入されているのは南部鉄器。50万円の鉄瓶が訪日観光客に売れることもあるほどの人気だが、「外国人スタッフが鉄器の歴史や価値を細かく説明できるから購入者も安心して購入していく」と外国人を採用するメリットを語った。「はじめは外国人スタッフ採用で文化による考え方の違いなど不安もあったが、コミュニケーションをとってみると文化が原因の齟齬は感じなかった」と述べた。

 第3部は武井社長が、増加する訪日外国人客の対応に向け、外国人スタッフ活用の可能性を語った。

 外国人の採用については「ホスピタリティやコミュニケーション能力など『絶対に必要なスキル』と後天的に身に着く語学力や実務経験など『あれば良いスキル』を整理することで求める資質がみえてくる」と分析。そのうえで「コミュニケーションがとれるか、人材が定着するかなどの相談が多いが、1億2千万人いる日本人ですら性格は千差万別。何億人と人口を抱える外国に至ってはさらにいろいろなタイプの人がいる」と述べ、日本におけるサービス、おもてなしの適正がわかる性格診断テストの自社開発などの取り組みを紹介した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

事業創造部プロデューサー 井上 隆二氏に聞く

 訪日外国人の集客に注目した経緯やHRソリューションズの取り組み施策について、同社事業創造部プロデューサーの井上隆二氏に聞いた。
【丁田 徹也】

 ――これまで開催してきた人材支援関連のセミナーではなく、訪日外国人旅行客の集客をテーマに据えたのはなぜでしょうか。

 現在、訪日観光客の受け入れを希望する企業や外国人従業員を検討している採用担当者が増えており、また採用方法やコミュニケーションについての相談が増えていることから、訪日外国人観光客に関連するセミナーを開いた。

 ――外国人従業員向けにおもてなし力を測るシステムを開発しているようですが、詳細を教えてください。

 クイズゲーム形式で、出題内容から自分に一番合う選択肢を回答するSPI試験のような適性検査を開発中だ。通常の適性検査と違い、接客・サービスシーンに特化した質問を用意している。

 ――具体的におもてなしをどのように測るのでしょうか。

 おもてなしには「これをやれば間違いない」という判断基準は存在しないので、直接おもてなしを測ることは難しい。そこでおもてなしが試される接客・サービス関連問題で性格を診断する。「柔軟さ」「フレンドリー」など複数の尺度で診断し、適性を段階別に分けることで、おもてなし力が測れると考えている。

「春蘭の宿 さかえや」優勝、経営者・従業員評価高く(第2回旅館甲子園)

長野県・渋温泉の「さかえや」が優勝
長野県・渋温泉の「さかえや」が優勝

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)の加盟施設がエントリーする第2回旅館甲子園(大会会長=山口敦史全旅連青年部長)の決勝戦が2月18日、東京・有明の東京ビッグサイトで開かれた。多くの来場者が見守るなか、北関東甲信越ブロックの「春蘭の宿 さかえや」(長野県・渋温泉)が優勝に輝いた。

 山口敦史会長は開会あいさつで「登壇する素晴らしい旅館経営者や光り輝くスタッフの夢を共有し、業界全体のモチベーションアップにつなげたい。来場した皆さんには仲間の取り組みやおもてなしを持ち帰ってほしい」と述べた。

 決勝戦まで勝ち残り、ファイナリストに選ばれたのは「青根温泉 山景の宿 流辿」(宮城県)、「やすらぎに舞う 夢の館 土佐御苑」(高知県)、「伊香保温泉 ホテル松本楼」(群馬県)、「峡谷の湯宿 大歩危峡まんなか」(徳島県)、「渋温泉 春蘭の宿 さかえや」(長野県)――の5館。

 決勝戦は前回と同様、全国から選び抜かれた5施設の旅館経営者とスタッフがプレゼンテーション形式で経営者のビジョンやスタッフ教育、地域への貢献などを発表。決勝審査員10人による審査と来場者による投票で優勝施設を決めた。

 審査委員長の佐藤信幸全旅連会長は「一人ひとりの力の弱さを皆が協力してひとつになり、お客様のために乗り越えてきた。我われは旅館を発展させるために、お客様のことは当然ながら、従業員についても考えていかなければならない」と総括した。