No.429 ベッセルホテル、内製化で柔軟な対応が可能に

ベッセルホテル
“内製化で柔軟な対応が可能に

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」の第2回は、ビジネスホテルを全国展開するベッセルホテル開発専務取締役事業本部長の瀬尾吉郎氏が登場。全体のプロセスをシームレスにつなげる「内製化」によって、柔軟な対応を可能にし、サービスの品質を上げた現場の取り組みなどを語った。

【増田 剛】

 
 

〈「いい旅館にしよう!」プロジェクト2シリーズ(2)〉
ベッセルホテル

 ■瀬尾:当社は福山通運の創業者でもある澁谷昇が1924(大正13)年に土建業として創業しました。その後、運送業や印刷、ビルメンテナンスなど幅広く事業を展開し、ホテル業としては1974年に福山キャッスルホテルを福山駅前に開業しました。

 ■内藤:なぜ創業者はホテル業をやろうとされたのでしょうか。

 ■瀬尾:運送業で成功したあと、「地元・福山に還元したい」と地域貢献の想いから婚礼や宴会ができる受け皿として迎賓館のようなものを作ろうとしたそうです。

 ■内藤:旅館業はしばしば伝統産業だと言われますが、昭和30―40年代に鉄道網の整備で出張や観光が増え、多くの観光民宿や駅前旅館などができ、意外に新興産業なのです。  
 そのようななか、御社がビジネスホテルの展開を始めたのはいつからですか。

 ■瀬尾:2000年からです。その前に、2代目の社長である父が米国にホテルを視察する機会があり、そこで感銘を受けた米国の郊外型のビジネスホテルチェーンと提携を結んで多店舗展開していきました。国内では岡山以西の開発権を得て、倉敷、熊本、都城、北九州空港が開港した苅田などに郊外型ビジネスホテルとして展開していきました。
 郊外型だったので半導体工場などの出張利用が主な顧客ターゲットだったのですが、08年のリーマン・ショック以降、一気に厳しくなりました。開発地域の制約が枷となっている部分もあり、10年1月末にその契約を解消し、現在のベッセルに名前を変えました。

 ■内藤:「郊外型で、客室が広め」というコンセプトですね。…

 

※ 詳細は本紙1626号または4月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

熊本地震 ― 観光産業として被災地を訪れる支援

 4月14日から熊本県を中心に大きな地震が相次ぎ、40人以上が亡くなった。安否不明者や負傷者、そして避難者の数も日に日に増えている。

 被災された多くの方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 捜索・救出活動も全力で続けられているが、余震は今も続き、天候が悪化すれば大規模な土砂災害なども予想される。不安と恐怖から緊張状態が続き、心身の疲労も心配である。たび重なる大きな揺れへの恐怖から、避難所の体育館や自宅にも入ることができずに、屋外にテントを張って一晩を過ごされたり、車の中で夜を過ごされる家族も多いという。

 震災後すぐに全国から胸が熱くなるお見舞いのメッセージや、具体的な支援活動が始まった。とくに、東日本大震災や、新潟中越地震、阪神・淡路大震災などを経験した地域の方々は、「震災後被災者が一番困ること」や、「現時点では何が必要なのか」といったことを、身を持って経験していることもあり、例えば、支援物資には飲料水や食料だけでなく、赤ちゃんのオムツや粉ミルク、離乳食、生理用品などが不足しがちなことをアドバイスしたり、物資を送ったり、行動を起こされている。

 今はとにかく飲料水の不足が叫ばれている。全国から救援物資が送られてきているが、どうしても行き届かないエリアが生じたり、情報格差により、配布される時間や場所を知らない人もいる。

 観光庁は宿泊業界などに災害弱者を優先して避難者の受入れを要請。1泊3食5千円程度で受入れる準備を進めている。15日には、民泊サービス「Airbnb」も、無料で泊まれる緊急宿泊場所の提供を始めた。この災害緊急支援は、12年10月に発生したハリケーン・サンディの被災者に、ニューヨークのホストが家を開放したことから始まったという。世界的にこれらの動きは広まり、今後日本国内でも同様の支援活動が定着していくだろう。

 観光業界としては、九州方面のツアーなどに多くのキャンセルが出ているようだ。

 熊本県だけではなく、大分県にも被害は広がっており、九州全域が被災し旅行どころではないという印象が強くなっていくことを危惧している。

 九州各地の震源に近い自動車部品や液晶、半導体などの工場は生産を中止し、再開の目途が立っていないところもある。今後さまざまな経済的な悪影響も予想される。

 スーパーなどでは熊本産の野菜コーナーなどを設けており、購入することが支援につながる。被災地を訪れることを自粛したり、それほど被害の大きくなかった地域への観光を避けることは、さらなる「災害」となる。イベントの中止や、宿泊旅行の取りやめがいかに観光産業を苦しめるかは、観光産業にいる我われが一番理解している。

 災害の1日も早い終息を祈りながら、復旧・復興への動きへと変えていくことが大事である。交通インフラも少しずつ回復している。

 被災者が必要とする支援は時間とともに変化していく。本紙は被災地支援に向けて、自粛ムードによって観光旅行やイベントを中止するのではなく、被災地やその周辺を訪れることこそが支援につながるという、ムーブメントを作り出していきたい。

(編集長・増田 剛)

急がれるFIT対策、バス業界向けメニュー開発(高速バスマーケティング研究所)

参加企業の集合写真(中央が成定氏)
参加企業の集合写真(中央が成定氏)

 高速バスマーケティング研究所(成定竜一代表、神奈川県横浜市)は4月5日、東京都内で会見を開き、バス事業者に特化した訪日市場のFIT対策メニューを開発したと発表した。

 冒頭、成定代表は増加する訪日外国人の個人旅行者数と、旅先の拡大に対し、「専門用語」、「外国人観光客から多い質問」などを専門業者とやり取りする手間とコストの問題からバス業界のFIT対策が遅れている現状を示した。一方今後は、FIT市場の取り込みが業界の成長に不可欠であることから「大きな転換が求められている」と語った。

 そこで、現場オペレーションやバス業者のニーズを把握する同社が新サービスにおいてバス業界ならではの用語や使用場面に関わる監修を担当。外国人向けウェブサイトの構築や企業向け英会話研修、通訳サービスなどの分野で実績のある6つの企業がサービスを提供する。これにより各業者のコスト軽減や、業界全体の情報共有、サービスレベル向上の仕組み作りを実現。

 例えば、オーエイチが提供する「訪日外国人向け公式WEBサイトパッケージ」は、日本語版ホームページの必要な情報のみ翻訳。利用頻度の高い高速バスの情報は厚く、利用頻度の少ない地域バスの情報は絞るなど、情報過多にならないよう配慮。情報を取り出す頻度の高いスマートフォンにも対応させた。また質問サイトを別に用意し、外国語を話せる職員不在の企業にも配慮。初期費用は1からサイトを立ち上げる費用の5分の1程度の21万6千円で導入可能(使用料別)。

 またブリックスが提供する「予約センター電話通訳サービス」は、予約担当者と顧客、ブリックスの通訳担当による3者間通話を行うことで、会社窓口に専門スタッフを雇う必要を回避。3者間通話ができるのは専用回線プランだけ。また、数社共用回線を利用すれば2万円という低価格で回線開通が行え、使用料も12時間2万円と通訳スタッフを雇う人件費よりも安く設定している。同社は、万が一のときの保険として利用してほしいと売り込んだ。

 このほかにも、スマートフォンで簡単に設定、管理が行える「多言語運行情報告知システム(WillSmart提供)や、実践重視の「接客英語トレーニング」(ENGLISHOK提供)、スマホ・タブレットをテレビ電話として利用する「窓口・案内所向け通訳サービス」(国際興業提供)、GPSを活用した「自動ガイドシステム」(アドホック提供)が今回のバス業界向け「FIT対策メニュー」を構成。利用者が個々に必要なものを選択できるようにした。 

鉄っちゃんでなくとも

 ゴールデンウイーク目前ということで、おでかけ情報を。GW初日となる4月29日、JR京都駅から西に徒歩約20分の場所にある梅小路公園に「京都鉄道博物館」がオープンする。かつての「梅小路蒸気機関車館」の施設に、同じく大阪市にあった「交通科学博物館」の展示物や資料などを加えた、まさに“鉄道”をあらゆる角度から捉えた博物館となる。

 蒸気機関車C62型や、日本の高度経済成長を象徴する0系新幹線など、延べ53両の車両を展示するほか、関西の私鉄も走る巨大な「鉄道ジオラマ」や運転シュミレータなども備わる。以前から人気の扇型車庫も健在だ。鉄道にそれほど興味はないよ、という人も食わず嫌いせずに、まずは一口。普段の通勤電車が違って見えてくるかも。

【塩野 俊誉】

翻訳版「100選」冊子を発行、台湾400旅行社に配布(旅行新聞新社)

中国語(繁体字)に翻訳
中国語(繁体字)に翻訳

 旅行新聞新社は、昨年12月に発表した第41回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選(以下、旅館100選)」の入選施設の情報やランキング一覧を中国語(繁体字)に翻訳した冊子を発行しました。台湾の訪日旅行を取り扱う旅行会社に無償配布します。

 翻訳版旅館100選冊子の発行は今回で5回目となります。誌面は昨年に引き続き、本紙と提携する台湾の旅行業界専門誌「旅奇」で作成。4月中旬に台湾内の訪日旅行の取扱資格を持った旅行会社本社、営業所など400カ所に無償配布します。

 4月21―24日には「旅館100選台湾プロモーション」も実施します。事業には16旅館19人が参加し、台湾の旅行会社42社67人を招いての説明・商談会(22日)やギフト・文具の見本市「ギフショナリー台北」でのPR(23日)を行います。

 本紙購読の皆様には、翻訳版冊子を見本としてお届けしましたのでご覧ください。 

DMOと人材育成強化、日観振が新組織設立

 日本観光振興協会は4月1日から、観光地域づくり・人材育成部門に新たに「DMO推進室」と「日本観光振興アカデミー」を設立した。関心が高まる日本版DMOの形成支援と、体系的な人材育成プログラムの整備が目的。日本版DMOの推進に必要な専門人材育成については、両者で取り組みを強化する。

 DMO推進室は、DMOの形成や導入に向けて地域の自治体や観光協会、観光業界からの各種照会、要望などにワンストップで対応する。具体的な事業は日本版DMO普及啓発活動として、シンポジウムやセミナーなどを開催するほか、研修メニューの提示などを行う。人材育成については、必要な研修カリキュラムを策定し、集合教育を実施していく。

 日本観光振興アカデミーは、地域の多様なニーズと課題に対応する人材育成メニューを「観光地域づくり研修なび」を通じて提示し、公募で選定した地域で実施する。また、各分野の中核人材育成に向けて、テーマごとに必要な研修カリキュラムを策定し、集合教育を行う。このほか、観光ボランティアガイドの人材育成研修や産学連携事業として大学での寄附講座、ツーリズムセミナーの開催などを展開する。

開業の不安を解消、農家民宿の手引き作成(農協観光)

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 農協観光はこのほど、農林水産省の2015年度「都市農村共生・対流総合対策交付金」を活用し、「グリーン・ツーリズム農林漁家民宿の開業・運営の手引き」を作成した=写真。農家民宿の開業に興味がある人たちに向け、具体的な手続きやもてなし、安全管理、訪日外国人対応まで幅広く掲載することで不安を解消し、開業に挑戦してもらうのが狙い。

 手引きは(1)農家民宿開業に向けた準備について(2)農家民宿の開業手続きについて(3)宿泊者との関わり方について(4)安全管理について(5)関係者との連携について(6)外国人旅行者の受け入れについて――の6章で構成。開業者の声やイラストなどを交え、分かりやすく解説している。

 外国人旅行者の受け入れも推奨しており、言語ができなくても積極的に受け入れている施設が多いことも紹介している。なお、農水省では外国人旅行者の受け入れに積極的な農家民宿経営者に「Japan. Farm Stay」のシンボルマークを付与しており、チラシや名刺、Webサイトなどに利用できる。

 手引きのダウンロードは(http://ntour.jp/green2015/)から。

ホテル天坊の厨房視察見学会、4、5、7月に追加開催(見える化プロジェクト)

 旅行新聞新社は今年2月17日に開催した、群馬県・伊香保温泉「ホテル天坊」での「第1回見える化プロジェクト」旅館経営研究セミナー・厨房運営の視察見学会が好評に終わり、このほど「参加したかったけど予定が合わなかった」という声に応えるため、同セミナーの追加開催を決定した。会場は前回同様、ホテル天坊での開催となる。

 今回は、より多くの旅館・ホテルが参加できるよう、4、5、7月の計3回実施する。全日程1泊2日の行程で、1日目の午後2時より厨房視察や旅館経営と革新的調理運営の講演・パネルディスカッション、2日目は午前10時から旅館経営と見える化プロジェクトの講演・パネルディスカッションなどを予定している。

 開催日程は、4月25―26日、5月16―17日、7月11―12日の計3回。参加費はセミナー参加費と宿泊代を含め1人2万5千円(税別)。1室3―4人の料金で、2人1室、1人1室希望の場合、別途1人当たり2人1室プラス4千円、1人1室プラス8千円が必要となる。

 なお、宿泊料金には消費税・入湯税150円は含まれていない。

 申込み・問い合わせ=旅行新聞新社 電話:03(3834)2718。

返礼品に旅行商品を、ふるさと納税サイトと連携(JTB)

魅力的な旅行商品の開発を目指す
魅力的な旅行商品の開発を目指す

 JTB(髙橋広行社長)と、日本最大のふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を企画・運営するトラストバンク(須永珠代社長)はこのほど、ふるさと納税に関する業務提携を行うことで合意し、3月25日東京都内で共同記者会見を開いた。両社は今後、納税への返礼品として、地域の魅力を活かした旅行商品などの開発や、納税資金の有効活用方法の提案などを行っていく。

 ふるさと納税の現状では、2015年の寄付金推定総額は1500億円相当になるとみられる。16年度に関しては、昨年度の2―3倍で推移しており、3500億円ほどの金額を見込んでいる。トラストバンクの須永社長は「市場としては伸びているように感じるが、普及率としては6―10%程度にとどまり、いまだ10人に1人しかふるさと納税をしていない状況だ」と報告し、今後成長が期待される市場だけに、今一度納税制度について認知度向上をはかる必要があると述べた。

 JTBでは、ポイントプログラムに特化したふるさと納税ポータルサイト「ふるぽ」を運営し、返礼品の開発や、広報活動の代行などを行っている。同社の久保田穣常務は、返礼品としての旅行商品の割合について、トラストバンクが運営する「ふるさとチョイス」では1%、同社が運営する「ふるぽ」では6%強程度であると伝え、「今後、返礼品としての旅行商品を拡大させていくために、インターネットからの寄付だけではなく、当社の店頭での納税受付も今後検討していく」と述べた。

 JTBはこれまで地域交流事業で推進してきた「地方が元気になる活性化プランの提案」や「観光振興に資する地域の宝の掘り起し」などのノウハウを活かし、トラストバンクと共同で、寄付金有効活用のためのさまざまな提案を行っていく。

2016年度「第1回見える化プロジェクト」旅館経営研究セミナー&厨房運営の視察見学会

ホテル天坊・伊東實社長
ホテル天坊・伊東實社長

革新的な厨房運営へ―ホテル天坊(伊香保温泉)視察
2月17日、主催:旅行新聞新社・品質管理センター

 旅行新聞新社(石井貞德社長、東京都)と品質管理センター(松本麻佐浩社長、福岡県)は2月17日、群馬県・伊香保温泉のホテル天坊(伊東實社長)で2016年度「第1回見える化プロジェクト」旅館経営研究セミナーと、厨房運営の視察見学会を開いた。当日は全国各地から旅館・ホテル経営に携わる75人が集まり、労働生産性に特化した同ホテルの革新的な厨房運営事例について熱心に耳を傾けていた。

 昨今の旅館業界の現状では、公休未消化・残業時間の発生が当たり前となっており、調理従事者には過酷な労働時間が強いられている。また、このような労働環境下で“調理人不足”は喫緊の経営課題であり、伝統ある日本料理調理人の待遇の改善は、もはや急を要す事態へと発展している。

 参加者は75人。熱心に耳をかたむけた
参加者は75人。熱心に耳をかたむけた

 ホテル天坊では昨年の1―6月まで耐震対応と、1・2階を中心とした改装工事を実施。その際2階にある厨房を、耐震工事にともない全面改装した。同ホテルでも昨今の旅行業界の現状と同様に、調理部門のES改善が問題視されていた。そこで、同ホテルでは厨房の全面改装に合わせ、調理部のなかを、加工や加熱など実際の調理に関わるエリアと、調理以外の盛付などのエリアに分類するいわゆる「レシピー化による調理プロセス」を実践した。

厨房見学のようす
厨房見学のようす

 レシピー化とは各自の仕事において、調理加工のプロセス別に作業時間・作業内容を“見える化”することで、同ホテルでは主に(1)調理加工に関する項目(2)調理作業人に関する項目(3)その他(衛生区分など)に関する項目――の3点をレシピー化した。1つ目の調理加工に関する項目では各作業部門別に1日の作業内容を明示する調理加工作業指示書をパソコン上で確認し、予約数に応じた食材の使用量を予想するシステムを導入した。2つ目の調理加工人に関する項目では、調理社員たちの作業効率をレシピー化するために、作業指示書と同様にパソコンで各作業段階別の作業時間を検証した。これにより、作業段階別の作業時間が明確になり、各調理工程に必要な人数を確認することが可能となった。

 また、さらなる生産性の向上に向けて、システム導入以前より進めてきた「煮方」「焼場」「刺場」などの縦割り運営の見直しを行った。今までの調理工程では、業務数が多く、高度力量の作業と低力量の作業が混在しており、非常に生産効率が悪い調理場であった。しかし、プロセス調理に切り替え、プロセス別に力量の高いモノと低いモノを集めることによって、作業の一極集中化をはかったことにより、作業効率が向上し、力量別の作業運営システムが確立されたという。

 レシピー化による調理プロセスに切り替えた結果、同ホテルでは従来方式の運営時よりも作業時間が30%以上削減され、(1)材料の取り出し・加工後の冷蔵庫収納時間の短縮(2)移動時間の縮小による調理場の時短の向上(3)集中作業により調理作業の効率が向上――などが改善され、労働生産性が向上した。 

 このほどの全面改装による革新的な厨房運営について、同ホテルの伊東社長は「今回の改装は効率重視の調理場にするための思い切った改装だった。我われホテル業はお客様の評価があってこそ営業ができている。生産性の向上には難しい課題が多いが、今後も改善に努めていく」と話す。同ホテルの齋藤俊彦調理長は、「縦割り運営時代は調理棚がその日使うものなどで混在しており、隅々まで掃除が行き届いていなかった」と語り、「今回の見直しによって、調理人の仕事が分業化され、各自が自分の仕事に従事できる調理場になった」と、同プロセスによってたしかに生産性が向上していることを報告した。

■調理が「楽しく」なる厨房レイアウト

 旅館業界の調理設備の現状の問題点として挙げられるのが(1)清掃がしづらい(2)シンク排水管の殺菌ができない③排水溝の殺菌ができない(4)人間工学に基づいていない――などの問題点である。

 ホテル天坊でも全面改装以前は同様の問題を抱えており、床清掃を行う場合は、一度物品の移動を行わなくてはならないため清掃時間が長くなり、清掃意欲も低下していた。

 そこで同ホテルでは、全面改装に合わせ現状の課題を解決すべく、厚生労働省が推奨する食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生する恐れがある微生物汚染などの危害をあらかじめ分析。その結果に基づいて、より安全な製品を得るための重要管理点を定め、これを連続的に監視することによって製品の安全を確保するHACCP(ハサップ)に対応した厨房を導入した。

部門ごとに分けられた冷蔵庫
部門ごとに分けられた冷蔵庫

 冷蔵庫の写真を見てほしい。冷蔵庫は清掃を可能にするために「移動式棚」の収納に変更。仕込み品食材は、規格収納容器で統一し、加工日・賞味期限を明示することによって食品の混在を防ぐ工夫が盛り込まれている。また、作業台は高架台の移動式のものを導入し、清掃しやすい環境に変化させた。そのほか、重たいモノを抱える運営方法をなくすため、物品等の移動にはすべてカート方式などを採用したことにより、衛生面の確保と、生産性の向上が担保されたという。

 HACCP対応の厨房の導入により、同ホテルでは厨房機器購入予算を30%前後削減することに成功。機器点数が少ない分、改装前と同じ床面積でも、スペースを十分に活用することが可能となった。また、加熱ゾーンも隔離されたため、夏場でも厨房が暑くならず、快適な環境下で作業ができるようになった点も、厨房改革の1つの利点である。

 同ホテルはレシピー化による調理プロセスや、HACCP対応厨房の導入など、革新的な厨房運営によって、労働生産性が向上したが、労働生産性の向上と同様に重要になるのが、衛生面の対策(ノロウイルス対策など)である。同ホテルがある群馬県では過去に、食中毒の発生により営業停止になった旅館があり、ノロウイルス・食中毒への対策は、調理場の検便検査だけでは不十分の事態へと発展している。

 同ホテルでは、(1)浴場汚染・館内汚染による感染(2)食事食器による感染――の2系統からの感染を予防するため、電解水装置による殺菌を実施。以下で同ホテルが実践している電解水装置によるノロ・食中毒対策について迫る。

ノロウイルス対策に高い関心
調理場のノロを防ぐ! 電解水装置の役割

 ノロウイルス・食中毒対策は、セミナー出席者のなかでも非常に関心の高い話題であり、ホテル・旅館業界の現状では、調理場のノロウイルス対策が十分に行われておらず、院内感染と同様に、「館内感染」によって調理人も汚染を受けている。現在の状況では調理場も〝被害者〟なのである。そのような汚染環境を回避すべく注目されているのが電解水装置による殺菌だ。今回、厨房視察を行ったホテル天坊でも、厨房の全面改装を機に電解水装置による殺菌を導入した。ここでは同装置利用による最新の感染症(ノロウイルスなど)対策を紹介する。

 現状のノロウイルス対策として、食品調理加工施設はもちろんのこと、日常生活における衛生管理には、消毒用アルコールが信頼性の高い消毒剤として大きな役割を果たしている。

 しかし近年は、社会的な食中毒感染症問題を引き起こしているノロウイルスに対する効果が低いことから、アルコールをベースとする衛生管理の信頼性が揺らいでおり、より効果的なノロウイルス対策の確立が求められている。

 こうした状況のなか、食品添加物(殺菌料)に指定されている次亜塩素酸水(酸性電解水)が、ノロウイルスを含め広範な食中毒病原菌に著効を示し、流水洗浄という従来の殺菌料や消毒剤と異なる使用法で食材・調理器具・手洗いを含めて食品分野の衛生管理に威力を発揮することが明らかになった。

次亜塩素酸水の効果
次亜塩素酸水の効果

 このことから厚生労働省は2013年に、「大量調理施設衛生管理マニュアル」や「浅漬けの原材料の殺菌」、その翌年には「生食用鮮魚介類や生ガキ等」への使用許可に関する文書を都道府県宛てに通知。また、機能水研究振興財団からは「次亜塩素酸水生成装置に関する指針」や「ノロウイルス対策と電解水」など次亜塩素酸水の品質(物性規格)、有効性や安全性に関する標準化された知識や使用法が提供されている。

 機能水研究振興財団の堀田国元理事長は、次亜塩素酸水(HClO)と次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の違いについて「両者は化学的には同類です。しかし、両者には大きな相違がさまざまあります。まず、殺菌効果については、次亜塩素酸水は酸性であるため殺菌成分(HClO)比率が85―95%と高く、広範な食中毒原因菌に対して高い殺菌活性を示します。有機物の少ない同条件下での試験において40ppmの次亜塩素酸水は1千ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液と同等以上の殺菌活性を示すことが知られています」とし、次亜塩素酸水は次亜塩素酸ナトリウム溶液やエタノールに比べてはるかに高い不活化活性を示すと両者の違いを明確にした。

アマノの小規模向け電解水生成装置「α―Light」は、小さなボディなのに性能が高く、主に食品や包丁などの除菌、洗浄に利用できる
アマノの小規模向け電解水生成装置「α―Light」は、小さなボディなのに性能が高く、主に食品や包丁などの除菌、洗浄に利用できる

 衛生的手洗いの比較試験を行った成績では、電解水手洗い(強アルカリ性電解水で洗浄後に、強酸性電解水=強酸性次亜塩素酸水で洗浄)は、手指の汚れには石鹸と、一般殺菌に関してはアルコールと同様の効果があることが確認されている。東京都健康安全研究センターで行われた、各種の殺菌料を用いた衛生的手洗い試験においても、強酸性電解水(強酸性次亜塩素水)による手洗いはノロウイルスに対して、物理的除去に加えて不活化効果があることが報告されているという。

三浦電子の「ビーコロン水(電解次亜水)」は、食品添加物に認められ、厨房全体の衛生管理に利用可能
三浦電子の「ビーコロン水(電解次亜水)」は、食品添加物に認められ、厨房全体の衛生管理に利用可能

 堀田理事長は使用方法と安全性についての相違点に触れ、「使用方法に関しても、次亜塩素酸水はユーザー自らが装置を作動して生成し、そのまま希釈せずに新鮮なうちに流水使用します。それに比べ、次亜塩素酸ナトリウム溶液は高濃度(4%以上)の市販製品を目的使用濃度に希釈して浸漬使用するという違いがあります。そして安全性に関しては、次亜塩素酸水は『人の健康を害する恐れがない』という理由で食品添加物に指定されました。実際、皮膚や口腔内の粘膜に対してもほとんどダメージを与えないため、生体に使用でき、頻繁に手洗いをしても手荒れが少なく、人体を直接洗っても、誤飲してしまっても健康被害がでないほど安心です。また、臭さ(塩素臭)がほとんどなく、屋外環境に対する影響も少ないという利点があります。従って、次亜塩素酸水は人にも環境にも優しく、水道水感覚で使える殺菌料といえます。一方、次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性のため、皮膚粘膜にダメージを与えるため、手洗いなど体に直接用いることはできません」と述べ、改めて電解水の効率性と安全性を強調した。

 ホテル・旅館業界において電解水を理解し、使いこなしていくことは決して難しいことではない。食品分野における5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)を基本として電解水を使用するうえでの2S(洗浄・消毒)を心がけて使用すれば、人にも環境にも安全性が高く効果的という電解水の特徴を発揮させることができる。

 現在、電解水は日本で生まれ育った革新的衛生管理技術として、海外においても導入が広まりつつあり、今後、食品分野において急速に広まっていくことが期待されている。全国のホテル・旅館が今後、革新的な厨房運営を行っていくうえで、電解水装置による殺菌は必要不可欠なものになるだろう。

 なお、詳しい次亜塩素酸水に関する知識や情報は、機能水研究振興財団のホームページ(http://www.fwf.or.jp)から得ることができる。