知的財産権の保護を、WG設置、会員に啓発(JATA)

 日本旅行業協会(JATA)は昨年9月、2020年前後に国内で複数の大型イベントが開かれることから、「大規模イベント開催に伴う対応ワーキンググループ」(座長=池田浩・JTB首都圏社長)を設置。成功に向けた課題や対応を検討している。とくに、知的財産権の保護は最重要課題として、会員会社への啓蒙に努める考え。

 WGは国内旅行推進委員会と訪日旅行推進委員会、海外旅行推進委員会、JATA海外旅行推進部、法務・コンプライアンス室のメンバーで構成。事務局はJATA国内・訪日旅行推進部が務める。8月3日の定例会見で、興津泰則国内・訪日旅行推進部長は「コンプライアンスを守る意思の表れ」と強調した。

 具体的に協議しているのは(1)オリンピック、パラリンピックに関する知的財産の保護・利用法の指導(2)正規ルートによる入場券の入手などの徹底(3)文化プログラムの情報提供(4)バリアフリーツアーの一層の推進(5)大会ボランティア、都市ボランティアの情報提供――。

 このなかで、最も重要な知的財産保護については先般、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の事務局から「オリンピック・パラリンピックの知的財産とアンブッシュマーケティング」の説明を受けたという。一方、内容は一般や他業界へも広く周知が必要だと考え、8月中にも同委員会に啓蒙を求める要望書を提出することを明かした。求めるのは知的財産保護を目的とした啓蒙・指導の強化と、アンブッシュマーケティングなどへの疑問に答える相談窓口の設置、ホームページでのQ&Aの開示。

 アンブッシュマーケティングとは、権利を保有しない企業や個人が権利者の許可を得ずにその権利を利用する便乗広告のこと。例えば、公式スポンサーではない企業が「オリンピック記念」などと謳うことも問題となるが、現状、こういった広告は街に溢れている。興津部長は「アンブッシュマーケティングという言葉自体馴染みがないが認知をはかり、注意喚起を行っていく。日本開催にあたり、業界をあげて対応したい」と述べた。

 また、旅行会社にとってはチケットの扱いも大きな課題。オフィシャルエージェントはJTBとKNT―CTホールディングス、東武トップツアーズの3社だが、それ以外の旅行会社が販売するには、制度上何が問題か検討を進める。

サントリードリームマッチ

 8月7日に東京ドームで開かれたプロ野球ファン必見の「サントリードリームマッチ2017」を観戦してきた。

 今年で22回目を迎える「サントリードリームマッチ」は、1995年から開催しているイベントで、数々の伝説のプレーヤーが集結し一夜限りの真剣勝負が繰り広げられる。

 山本浩二監督率いる「ザ・プレミアム・モルツ球団」と田尾安志監督率いる「ドリーム・ヒーローズ」が激突。注目の出場選手は名物マサカリ投法がうなる、速球へのあくなき挑戦を続ける村田兆治。伝説の三冠王ランディ・バースと桑田真澄の真剣勝負など往年の名プレーヤーたちが躍動する。今年初参戦となった川上憲伸、谷繁元信、高橋尚成、鈴木尚広などもファンの期待を裏切らなかった。まさに一夜限りの〝夢の球宴〟だった。

【古沢 克昌】

出国税を検討か、財源確保に動き(観光庁)

 政府は観光立国の実現のため、新たな財源確保を狙い、水面下で動き出している。欧州主要国や米国、豪州ではすでに出国税などを観光関連の財源などに回す例もある。好調な訪客に水を差しかねないとの声もあるが、先進例を参考に幅広く検討を進める構えだ。

 明日を支える観光ビジョンに「財源確保の検討を行う」との記載がある。出国税について、観光庁の田村明比古長官は7月の定例会見で「(諸外国の事例など)現在は勉強している段階」と発言。検討中の具体的な事例については明言しなかった。

 一方、各国では取り組みが進んでいる。例えば、米国では短期の観光・商用目的のビザを持たない外国人から、電子渡航認証システム(ESTA)の申請手数料14米ドルを徴収している。2010年に徴収を始め、このうち10米㌦(約1100円)を観光促進の財源に充てている。

 仮に日本で同様の仕組みを取り入れれば、昨年度のインバウンド総数約2400万人に対して、1人1100円を徴収すると、264億円ほどの財源になる。観光庁の17年度当初予算(255億9900万円)とほぼ同額の大きな数字になる。

 7月28日の会見で国土交通省石井啓一大臣は「幅広い選択肢を検討している」と述べている。インバウンドが好調な分、旅行者に負担になる制度は、慎重にならざるを得ない。今後は各国の事例を参考に財源確保策を練っていく考えだ。

エクスペディアホールディングス代表 マイケル・ダイクス氏に聞く

マイケル・ダイクス代表

アジアをもう一度見直す、3本柱で日本事業を推進

 エクスペディアホールディングス(マイケル・ダイクス代表=ロッジングパートナーサービス 日本・ミクロネシア地区統括本部長)は、3つの柱を据えて日本での事業を推進する。日本市場へ外資系OTA(オンライン旅行会社)の参入が激化するなか、ダイクス代表に日本における取り組みを聞いた。
【平綿 裕一】

 ――日本を含めたアジア市場をどのようにみていますか。

 日本は多くの産業が成熟しているなか、旅行業界をみればまだ伸び代があります。一方アジアの旅行市場はすでに約44兆円規模で、米国・カナダの約43兆円を抜いています。欧州は約50兆円ですが、伸び率はアジアが断トツなので、すぐにアジアが世界一の市場になると思います。

 ――狙うべきターゲットは。

 「欧米人を増やしていきたい」と最近よく耳にしますが、〝アジアをもう一度見直す〟ということがあるのではないでしょうか。1億円の資産を有する富裕層が最も多いのはアジアです。欧州や米国よりも多い。日本にはアジアの富裕層を狙える観光地の力も、地理的にも恵まれており、ここにとてもチャンスがあるはずです。

 ――日本における外資系OTAとしての役割は。

 「世界の旅行業界の基準」を日本の関係者間で共有することがあります。ほんの一例ですが、日本以外の国はほぼ1年先の在庫が入っています。しかし、日本は半年ほど。訪日旅行者からすれば、日本は半年以上先の在庫が無い「売り切れ」状態になっています。半年以上前に予約する顧客は、我われのグループ全体で13―20%と大きな数字です。これらのことを解決しなければ機会損失が生じます。

 少し大げさかもしれませんが、インバウンド4千万人の政府目標なども、業界全体で成し遂げていかなければなりません。4千万人の達成は、旅行先としての日本が国際競争に勝つことです。だからこそ、海外での常識を、日本でも当たり前にしていかなければなりません。

 ――日本での事業の方向性は。

 3つあります。1つ目の柱はコンサルティングです。さまざまなデータを活用した提案をしていきます。日本は各地域でインバウンド受入体制の成熟度が異なっています。成熟度が違えば、各地域に合ったコンサルティングが重要になってきます。

 例えば、以前からインバウンドに取り組む沖縄や京都などの地域は、多くの流入があります。インバウンドのボリュームがあれば、どの市場を狙うかピンポイントで選別できます。

 一方地方では、まずボリュームが欲しいので、どちらかといえば認知度向上。次に流入が増えてくれば、徐々に市場を選別していくことも可能になります。この流れが間違いなくあります。

 今後各地域が成熟してくれば、コンサルティングへの要求も高くなります。我われはそれに応えていくため、コンサルティングに力を入れていくのです。

 ――2つ目の柱は。

 「旅行先としての日本の告知」です。16年はグループ全体で約4800億円分の広告を展開しました。本業はOTAのホテル・フライトの予約ですが、オンライン広告の専門部署も持っています。

 今の旅行者はオンラインで調べ、予約し、すべて終わらせたいのです。認知させる手段も、考え直さなければなりません。日本もすでに約半数のトラフィックはスマートフォン経由。さらに3件に1件の契約がスマートフォンからです。

 オンラインどころか、オンラインのなかのモバイルが拡大している。この状況はしっかりと理解しなければなりません。

 最近の新たなサービスで、地域単位の広告を打てるものを出しました。特定地域のホテル同士が集まり、資金を出し合って、その地域やテーマの単位で海外に情報を発信できるのです。これにより小さな地域単位で海外への露出が可能になりました。

 ――温泉街といった単位でも可能ですか。

 まさにそういったところも可能です。今後は日本各地でこのサービスを進めていきます。

 ――もう一方の柱は。

 新規獲得です。現在日本では1万件弱の掲載があります。大都市はほぼ獲得していますが、まだムラがあります。掲載されていない地域には、新規獲得だけを担当するチームを設けています。

 サイト内の充実もはかり、国内線のフライトもすべて掲載されるようにしました。今後は日本各地への足ができ、地方への流入は一層加速するはずです。LCC(格安航空会社)も地方空港に増便しています。引き続き地方施設への送客に注力します。

 ――日本の業績や目標値は。

 国別に具体的な数値は言えません。ただ、アジアでは日本が1位です。15年後半から17年後半にかけて、アジアでの業績を3倍にする目標を立てていましたが、日本単独でこの目標値を超える実績があります。

 我われのなかで日本は「投資すべき国ナンバーワン」です。

旅行業法抵触なし、ボランティアに特例も、自治体が行うキャンプツアー

 観光庁は7月28日、自治体が行うキャンプツアーなどが、営利性や事業性が無ければ、旅行業法に抵触しない旨の通達を出した。昨今、同法に抵触するとして各自治体でツアー中止が相次いだ問題に手を打った。ボランティアツアーに関する特例も設ける。あいまいだった解釈を、実態に沿うかたちに対応した。

 7月中の会見では、国土交通省の石井啓一大臣が「(同法の)解釈が必ずしも明確でなかった」、観光庁の田村明比古長官は「杓子定規に抵触するということもどうか」と、解釈の明確化や許容の幅についての発言があった。

 同通達で、自治体がツアーを企画・運営して、収益を上げず、日常的に反復継続しないことと、不特定多数に募集しないことが条件となった。

 必要な措置には、安全確保のため責任者設置を挙げた。責任者は法令の知識や安全管理能力が求められている。事故発生時に備えて保険加入も必要になる。

 同庁は認められるツアー例も提示。小学生が対象のキャンプの場合、年1回ほどの頻度で費用は1千円とした。

 神奈川県川崎市の教育委員会ら3団体から成る組織は、25年以上前から「ふれあいサマーキャンプ」を続けて来た。今年度は計81人の参加予定者がいたが、同法に抵触するとして6月30日に中止を発表していた。

 今後は各都道府県が自治体主催の個別ツアーに助言を行う。ただ不安が拭いきれない場合は「観光庁まで確認を」(同庁)としている。

 一方ボランティアツアーも円滑に実施できるようにした。ボランティア団体などが募集して料金を受け取っても、団体内部の行為とみなし、同法に抵触はしない。必要な措置は責任者を置くなど、自治体が主催するツアーと同様にした。

 ボランティアツアーを主催する場合、事前に被災地の自治体などに参加者名簿を提出させる。ただ、すでに把握済みの参加者で、一定期間内で繰り返す場合は改めての提出には不要。

 期間は同庁が被災状況などに応じて定めることとした。

「旅行会社に頼んで」、安全面やチェック不安視(JATA 興津部長)

 観光庁がこのほど発した、災害時のボランティアツアーやキャンプなど自治体が関与するツアーの旅行業法上の取り扱い通知について、日本旅行業協会(JATA)の興津泰則国内・訪日旅行推進部長は、「我われは『旅行会社に頼むことが安全だ』と訴えていきたい」と言及した。

 8月3日の定例会見のなかで興津部長は、これまでもボランティアツアーなどが旅行業法に抵触するのではないかという声はあったが、「ボランティアという性質上、声を上げづらかった」と吐露。一方で、今回の通知では条件付きでNPOなどによるツアー主催が認められたかたちだが、「旅程管理など不安はある」と懸念する。「営利を目的としないことなど条件があるが、違反のないようにしてほしい」と、消費者保護の観点からチェック体制の構築を求めた。

鹿児島でセミナー、組織で食物アレルギー対策を、130人が参加

中原別荘の食物アレルギー対応メニュー

 旅館・ホテルが宿泊客に提供する料理の食材に含まれる卵や乳製品、小麦、エビなどが原因で、さまざまな症状を引き起こすアレルギーへの対応策を考えるセミナーとアレルギー対応の料理試食会が7月18日、鹿児島市内のホテルで開かれた。セミナーは鹿児島県観光誘致促進協議会(中原国男会長)とJTB九州観光ネットワーク推進協議会鹿児島地区会(中原明男会長)、JTB協定旅館ホテル連盟鹿児島支部(同支部長)が主催。県内の旅館・ホテルの経営者、料理長など約130人が参加し、専門家の講義に熱心に耳を傾けた。

 旅行のなかでも、教育旅行では、食物アレルギーを持つ生徒や親にとって食事が一番の心配。宿泊施設も、安心・安全な料理を提供することが最大の使命といえる。

 JTB旅ホ連保険を扱うJTB旅連事業(大西雅之社長)がまとめた、同社が扱った16年12月から17年6月までの「食物アレルギー事故の報告事例」によると、全国で10件の事故が発生し対応にあたっている。

 事故内容では「杏仁豆腐に脱脂粉乳が含まれていた」「ハムに卵が含まれていたのを見落とした」「乳製品の含まれたウインナーを提供した」「バイキング料理のカレーに乳製品が含まれていた」など、さまざまな要因で宿泊客がアレルギーを発症し、救急車で病院に搬送などされている。

 セミナーでは、鹿児島県教育庁健康教育係の櫁柑奈々恵氏が「アレルギー対応の重要性」について講義。かゆみやむくみといった軽度から、皮膚、消化器、呼吸器と全身に拡大する重度のアナフィラキシーに至る食物アレルギー症状を解説。表示義務がある特定原材料7品目と、特定に準ずる表示推奨の20品目を説明。「安全性を最優先に組織として調理現場まで対応することが大事」と強調。

 主催者の1人・中原支部長は「修学旅行200人のうち1割がアレルギーを持つ生徒」と自館の現状を紹介。「アレルギー対策を調理師任せにするのは限界」と話し、「事故原因である予約、調理師、配膳、伝達のヒューマンエラーをなくすことが重要」と訴えた。

参加者らが熱心に耳を傾けた

大田区でアート民泊、「民泊の良さ取り入れて」、専用アートマンション誕生

黒田史郎社長

 国家戦略特区として、民泊が法律で認められている東京都大田区に今年6月、グローバルレベルのアートが身近で楽しめる民泊専用のアートマンション「THE AOCA(アオカ)― Apartment of Contemporary Art, Tokyo」が誕生した。アートミュージアムさながらの宿泊施設では、全17室のゲストルームや、外壁、エントランスなど、さまざまな部分にアートが施され、宿泊者は、世界各国で活躍するクリエイターたちの作品に触れることができる。

 同施設の建設に携わったのは、顧客の価値観の多様性に特化した事業推進を行う不動産ディベロッパーのベストウェイ(黒田史郎社長、東京都目黒区)。同社は、本プロジェクトを皮切りに、2018年1月には東京都文京区と世田谷区に同様物件の建設を予定する。

 同施設は最寄駅のJR京浜東北線・大森駅から徒歩約7分の場所に位置している。主要観光地である東京ディズニーリゾートへも30分程度で行けるため、交通アクセスの良さが1つの売りとなっている。

壁一面にアートが施されている

 5階建ての建物でゲストルームの広さは、ワンルーム各戸25平方メートル。17部屋のうち3部屋はコネクティングルームとなっており、大人数での宿泊も可能となっている。写真映えする室内アートは、ロサンゼルスを代表するグラフィティライター・オージースリック氏らによって手掛けられ、全室異なるペイントが施されている。消防機能も旅館・ホテルと同等になっており、賃貸物件としての利用も可能だ。

 ベストウェイ社長の黒田史郎氏に、同施設建設までの過程や民泊に対する考え方などについて聞いた。

【松本 彩】

■  □

 ――同施設を建設するにあたり、近隣住民に対しどのように理解を求めましたか。

 反対意見などは一切ありませんでした。近隣住民の方々は比較的寛容で、アオカの誕生を楽しみにしてくれていました。建設場所によっては、このような民泊専用物件だけではなく、マンションを建てるというだけで反対されることもありますが、この物件に関しては、クレームなどもなく非常にやりやすかったです。

 ――訪日外国人を主なターゲットとして建設されたのですか。

 今、民泊=エアビーアンドビーと考える人が多く、その利用者の多くは訪日外国人です。日本人の旅行者にも積極的に利用してほしいですが、現時点では、訪日外国人がターゲットです。

 ――今後、同施設の情報をどのように発信していきますか。

 現在ホームページのほかに、フェイスブックとインスタグラムを活用した情報発信を行っています。とくにインスタグラムは、スタッフが撮影した昭和情緒の残る、大森のまち並み写真を投稿し、徐々にフォロワー数を確保しています。今後の情報発信のスタンスとしては、宣伝というよりも、大森のまち並みを紹介する写真を投稿し、その投稿から、自然とアオカに興味を持ってもらえるようにできればと思っています。

 ――2020年に向けての民泊サービスのあり方について。

 民泊サービスを行っていると、やはりホテルの方がいい面も沢山あります。私は以前から言い続けているのですが、ホテル業が民泊サービスを行うのが1番いいのではないかと思っています。

 民泊の良いところは、大人数でもファミリーでも1部屋に泊まることができるという点です。ホテルだと例えば5人家族の場合2部屋に分かれてしまうことがほとんどで、子供が小さい場合はそれが苦痛になってしまいがちです。

 民泊では3LDKなどの部屋に、家族そろってゆっくりと滞在することができる。そのような面から民泊の人気は高まったのだと思います。ホテル業の人たちは、民泊を毛嫌いするのではなく、ホテルにはない民泊の良さを上手く取り入れた、新たな宿泊サービスを展開してほしいと思っています。

 やはり「民泊」という言葉ばかりが先行してしまい、根柢にある〝宿泊を楽しむ〟という部分が抜けてしまっているように感じます。民泊サービスは、多くの人を受け入れ、日本の経済を活性化させることのできる重要なコンテンツだと思います。そのためにも、日本の中だけで民泊の良し悪しを議論をするのではなく、世界から見たときに、どのように民泊を活用したら、今以上に日本への誘客をはかれるかを考えることが重要なのではないかと考えています。

業界初の直販支援、国内の市場拡大はかる(HIS)

 エイチ・アイ・エス(HIS)は9月から、業界初となる宿泊施設向けの直販支援サービスを始める。宿泊施設の直販を支援するエス・ワイ・エス(SYS)と資本業務提携を行う。SYSは外資系も含めたOTA(オンライン旅行会社)を介さず、客が自社サイトにシフトするシステムを展開。直販による宿泊施設の利益を向上させ、国内市場の拡大を目指す。

 SYSは独自のダイレクト・リザベーション・システム(DRS)で、初回はトラベルコなどのメタサーチから施設の自社サイトに接続させる。OTAへの在庫出し費用と比べ、廉価な手数料で自社サイトまで誘導できる。客が2回目以降に施設を検索するとき、すでに施設の自社サイトを認知した分、直販に至る可能性が高まるという考え方。

 今後はHISが展開してきた国内宿泊施設向けOTA 事業を、SYSの直販支援事業に転換。互いに独立・中立的な経営体制を維持しつつも、国内宿泊施設の活性化を推進していく。

 外資系OTAの参入も激化し、宿泊業界では日本特有の商習慣を変える動きが出ている。旅行会社が顧客の予約前に、部屋を複数確保する「ブロック」などは変える必要があるとの声も多い。観光庁はブロック時に、前受金を一部支払わせるデポジット機能導入を検討し始めている。

 HISは昨今の変化を新たな事業機会と捉えている。サービスを普及させていくためには、宿泊業界に残る問題を払拭できるかが課題となる。

No.468 「女将のこえ」200回記念、瀬戸川さんに聞く「女将とは…」

「女将のこえ」200回記念
瀬戸川さんに聞く「女将とは…」

 2000年の6月21日号から本紙にて連載を開始した、ジャーナリストの瀬戸川礼子さんによるコラム「女将のこえ」が、前号(7月21日号)で連載回数200回を達成。これを記念して、6月30日に瀬戸川さんへのインタビューを行った。200人の女将への取材のなかで感じた、旅館業界の変化や女将のおもてなしに対する心づかいなど、日々多くの女将と接する瀬戸川さんだからこそ語れる〝女将″について伺った。

【聞き手=増田 剛編集長、構成=松本 彩】

 
 
 
 

 ――200回の取材のなかで、強く印象に残ることや感じたこともあると思います。

 取材を通じて女将さんと仲が深まると個人的に泊まりに行ったり、文通や家に招待してくださったり、フェイスブックで親交が続いている方もたくさんいます。女将さんの悩みに一緒に泣いたこともあれば、私が落ち込んでいたときに慰めてもらい、救っていただいたこともあります。仕事を超えた信頼・親愛関係を築けることは、何より幸せな出来事です。

 女将さんの取材をライフワークにしていくなかで、感じたことがあります。それは〝歳を重ねることは素敵なことだ〟ということです。歳を重ねることによって、20代のときでは語り合えなかった深い話を女将さんとすることができます。「女将のこえ」の主旨は、女将さんの哲学や出来事を共有し、みんなで学び思い合えたらいいなということなので、そういう瞬間が増えてきたことは、うれしいことです。

 ――若いころは取材で緊張してしまうことなどもありましたか。

 幸い私は緊張しないタイプで、お会いする人にも恵まれるので、取材後はいつも「あぁ、楽しかった」という気持ちです。取材中に困ったこともありません。忘れているだけかもしれませんが……。

 取材で出会った女将さんは、話し上手な方から人見知りの方まで、一人ひとりが個性的で輝いています。「女将のこえ」を読まれている人は感じられていると思いますが、毎回「そうなんだ。すごいな」と感心させられる話があります。性格や考え方は誰1人として同じではないけれど、そこがまた面白いです。

 ――連載開始(1回目は2000年6月21日号)から18年目となりました。この間で感じた業界の変化とは。

 まず前職で7年間、女将さんにエッセイを書いていただく仕事をしていました。それを含めた25年のなかで感じる具体的な1つの変化として、休日を取る旅館が増えてきたように思います。

 私が女将さんに原稿依頼をしていたのは1993年―2000年で、前半はまだ多少、バブルの勢いが残っていました。電話で原稿依頼をすると、10人中1人は休みなく働いたことによる過労から体調を崩されていました。お客様ではない人に対する応対は冷たく、「女将は忙しいから」という理由で断られたことも多々あります。

 しかし、今では経営上、必要だとして休館日を取り入れる旅館が増え、電話応対も以前に比べ、柔らかく丁寧になりました。時代とともに旅館も少しずつ変化してきているように感じます。

 ――200人の女将さんを取材してきたなかで、女将さんのおもてなしに対するきめ細やかさなど、改めて感心させられたことを教えてください。

 取材で初めて涙を流したのは、この「女将のこえ」なので、一番記憶に残っています。人生で最も体調が悪かった日でした。その日は朝暗いうちから家を出る日帰り出張で、伊豆方面の女将さんへの取材を4件立て続けに入れていました。車の運転も不安でしたが、4人の女将さんが待っていてくれるのですから、絶対に行かねばと、気力を振り絞って出かけました。

 朝から何も食べられない、何も飲めない状態で迎えたその日最後の取材が、伊豆長岡温泉「招福の宿 ゑびすや」さんでした。取材が無事に終わり、帰り支度をしていたときです。女将さんが「これなら車で食べやすいから」と棒寿司を持たせてくれました。女将さんは「どこを回られたんですか」など、私へのさりげない質問を通じて、「朝からこのスケジュールだったら、この人は何も食べていないはずだ」と感じとり、密かに出前をお願いしてくれていたのです。

 女将さんの優しさと、さりげない心づかいに感激し、帰りに立ち寄ったドライブインで棒寿司のふたを開けました。匂いを嗅いだ途端に空腹を覚え、お寿司を口に入れると、大粒の涙がボロボロとこぼれてきたのを、今でも覚えています。

 会話の中から相手の状態を感じとり、さりげない心づかいができる女将さんの心に触れた出来事でした。

 また、たびたび訪ねている雲仙宮崎旅館では、女将さんの清く正しく美しい思いに感銘を受け、ご迷惑なことにロビーで泣き続けた思い出もあります。

 有り難いことに、年を経るごとに親しくさせていただける方が増え、ここで紹介しきれず申し訳なく思うくらいです。

 ――多くの女将さんと接するなかでアドバイスしたいことは。

 (1)休む(2)学ぶ(3)見せる――の3点です。

 まず1番目に「休む」を挙げました。とくに女将さんが労働力の1つの場合は、休めないという意見があるのはごもっともです。ただ、心と体が資本なのでどうか大切にしてほしい。それに、休みを取って外の世界で感性を磨くことは、1つの仕事だとも思います。

 「私自身はなかなか外に出られないけれど、お客様が各地からいろいろな情報を持ってきてくださる」と言われる方がよくいらっしゃいます。確かに、お客様から話を聞けるのは素晴らしいことだと思います。

 しかし、景色を写真で見るのと、その場所を訪れて風を感じるのは異なるように、誰かの話で情報を得るのと、自ら体験することは価値がまったく違います。旅館は感性を売る仕事です。その感性を磨き続けるためにも女将さんが休みを取れるといいなと思います。これには何といっても周りの理解が必要ですね。

 また近年、旅館の働き手がますます減っています。原因の1つは「休めない」からです。旅館で働くことが、休みが少なく苦しいことにならないよう、業界の存続のためにも、一般企業に劣らない休日を取れる体制づくりが待たれます。

 2つ目は「学ぶ」です。…

 

※ 詳細は本紙1679号または8月4日以降日経テレコン21でお読みいただけます。