【発信地点】労基法改正へ 期限は2年間

内藤 耕氏(ないとう・こう)
サービス産業革新推進機構
代表理事、工学博士

 「働き方」という名の下で、政府でさまざまな議論が進められ、労働基準法の改正案が最終的に連合と経団連で概ね合意された。これによって、今から2年後の2019年度からの運用を目指して国会で法改正が進められる運びとなった。

 報道によれば、これまでは労使で特別条項付きの36協定さえ締結すれば、実質的に残業時間が青天井だったのが、今回の法改正で残業時間に上限が罰則付きで定められることである。

 つまり、現在の36協定では、残業時間の上限は年360時間、月45時間だったのが、この法改正で労働時間の延長は特例で年720時間が上限となる。しかし、産業界側からの要望もあって、その延長が繁忙月に100時間未満まででき、これが2カ月から6カ月続くようであればそれは80時間になるが、45時間を超える残業は最大で6カ月という。 

 労働基準監督署が企業をチエックする仕組みも盛り込み、ここで定められた残業時間の上限を5年後に見直す。

 これまでその必要性が繰り返し指摘されてきた「勤務間インターバル制度」の導入への努力義務も新たに書き込まれる。1993年に勤務間インターバルが導入されたヨーロッパでは、終業時刻後から連続して最低11時間の休息を付与することが義務付けられ、とくに宿泊産業への影響が大きい。

 これとは別に、昨年度の法改正で、これまで50%以上と定められていた月60時間を超える時間外労働への割増賃金率について、中小企業への猶予措置を廃止することが既に決まっている。雇用形態の違いによる待遇差の解消も政府によって検討され、昨年末に同一労働同一賃金のガイドラインが公表されている。

 これらの法律改正に対応しようとすれば、企業は就業規則を改定しなければならない。働き方の具体的な方法は法律には定められていなく、あまり意識されることはないが、それは労働契約法第7条に「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」と書かれているからである。

 注意しなければならないのは、就業規則を変更しても、それは適用される企業内の働き方のルールが新しくなるだけである。実際に長時間労働を是正しようと思えば、現場作業を見直す労働生産性の改革を実現しなければならない。

 しかし、サービス産業にとって、作業自身が商品そのものであり、それを変更することは簡単なことではなく、今回の法改正でその実現までの期限が2年間と定められたことになる。

西・英語圏を狙う、乗合バスツアーに参入(JTBグループ)

今までにない日本全国を
周遊するツアーを展開

 JTBグループのEuropa Mundo Vacaciones S.L.(EMV、ルイス・ガルシア社長)は3月2日に東京都内で行った記者会見で、4月からJTBグローバルマーケティング&トラベル(JTBGMT、座間久徳社長)と連携し、スペイン語圏・英語圏の旅行者を対象に、日本での観光乗合型バスツアー事業に本格的に参入すると発表した。同事業においてJTBGMTは、日本でのランドオペレーターとして、同社が保有しているネットワークを生かし、安全・安心の旅を提供していく。

 今回日本で展開する、乗合型バスツアーは、欧米などでは「シート・イン・コーチ(SIC)」と呼ばれており、EMVは1997年から欧州36カ国で中南米・スペイン語圏22カ国の旅行者を対象に同事業を展開している。現在52の基本コースを設定しているが、EMVのバスツアーの特徴として、複数のコースの組み合わせや、観光バスの一部区間のみの乗車も可能なため、約800コースを展開している。日本での事業展開においてもこの特徴を生かし、全行程1人催行保証の個人旅行者向け商品として、今までにない日本全国を周遊するガイド付きバスツアーを提供していく。

 日本では北は北海道、南は九州まで22都道府県をめぐる(1)North Japan(東京―仙台―盛岡―函館―札幌―会津若松―東京)(2)Central Japan(東京―河口湖―名古屋―京都―松本―高崎―東京)(3)Osaka and Kyoto(大阪―高野山―京都―大阪)(4)South Japan Express(大阪―岡山―広島―松山―徳島―大阪)(5)Korea and Japan(韓国―下関―広島―福岡―韓国)――の5つの基本ルートを設定。同ルートの組み合わせと乗車区間の選定により、48コースのラインナップを取りそろえた。48コースの平均的な旅行日程は12日間と長めで、最長は22日間の日程になっている。バスは45席の一般的な観光バスを利用する。

 JTBGMTの座間社長は、同事業では、観光バスの一部区間のみの乗車が可能であることについて「このスタイルが個人のお客様に定着していけば、2次交通としての役割も果たしていけるのではないかと感じている」と、想いを述べた。

金沢市に1200会員集結、国内活性化フォーラム開く(ANTA)

二階会長があいさつ

 全国旅行業協会(ANTA、二階俊博会長)は3月3日に、石川県金沢市で「第12回国内活性化フォーラムinいしかわ」を開いた。全国からANTA会員約1200人が集り、新たな観光素材の発掘や地域観光の活性化などに向け、結束・連携をはかった。

 二階会長は「昨今は自然災害の影響を受け、社会インフラ整備の必要が叫ばれている。地域の安心安全はもとより、観光振興に極めて重要な政策の柱だ。今後はまさに国民運動としてともに進めていきたい」と会員らに訴えた。

 開催地の石川県は昨年支部が50周年を迎え、一昨年は北陸新幹線が開通。同県支部長の北敏一地元実行委員長は「北陸新幹線が開通して3年目を迎え、正念場となる。ぜひ北陸地方にもう一度目を向けていただきたい」とあいさつした。

 基調講演には観光庁審議官の瓦林康人氏が登壇。着地型観光はインバウンドを地方に長く滞在させるために「非常に重要なツールだ」とした。

 政府は今通常国会で旅行業法の一部改正を提出した。地域限定の旅行業務取扱管理者の資格制度の創設や、旅行業務取扱管理者の複数営業所兼務が緩和される見通し。裾野を広げ新規参入、活性化をはかっていく。

 記念講演は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗元首相が行った。「2020年東京オリンピックの最大の狙いは、『復興日本』の発信だ」と強調。東日本大震災や熊本地震など、近年は自然災害で計り知れない打撃を受けた。一方で諸外国からボランティアや義援金など多くの支援があった。「世界の皆様に感謝しなければいけない。日本はおかげでここまで元気なったという姿を見せることが大事だ」と開催の意義を語った。

 このほか、明治維新鹿児島送客キャンペーンと「学生がつくる石川県の着地型旅行プランコンテスト」の表彰式が行われた。学生コンテストでは北陸学院大学短期大学部2年の林優里さんと善田麻珠子さんらの「金沢イケメン観光❤❤」が最優秀賞を受賞した。

 そのあと、國井一男副会長から北陸石川県送客キャンペーンが提案され可決した。12月末までに「3万人以上の送客を目標とする」と発表した。

 次回の国内活性化フォーラムは18年2月14日に高知県で開催予定。引継式では四国地方支部長連絡会議長の山中盛世氏が壇上に上がった。同県での開催は初めて。

 今年から再来年にかけ「志国高知幕末維新博」が開幕する。山中氏は「この節目の年に国内活性化フォーラムが、高知県で開かれるのは大変意義があり、ありがたいこと」と述べ、歓迎の意を示した。

着地型の方向性は?、有志が各地の事例を報告

「着地型観光」を議論

 全国旅行業協会(ANTA)会員の有志らが集まり、3月2日に石川県金沢市で「第3回着地型観光活性化会議事例報告会」を開いた。事例報告や課題共有・解決に向けた取り組み、今後の方向性などを議論した。九州産交ツーリズム社長の小髙直弘氏の講演も実施した。

 小髙氏は着地型観光の最大の問題が「流通が欠けていること」と述べ、顧客に情報を届けるためSNS(交流サイト)で発信を強めるなどの戦略が必要だと話した。一方、市場をみると、顧客は海外個人旅行(FIT)化や、観光知識の深いプロ化が進んでいる。今後は市場を正確に理解して「いかに直販の客を取り込めるかが重要だ」と強調した。

 商品に対しては、縦(収容人数)と横(実施期間)を掛けた面積(取扱人数)が、大きければ「息が長い魅力的な商品になる」と説明。流通させる条件には「1―2名から募集・催行できる商品」などを挙げた。

 小髙氏はインバウンドに関して「間違いなく伸びていく。これはチャンスだ」と述べた。さらに、大阪府立大学観光産業戦略研究所客室研究員の尾家建生氏は「インバウンドは観光に非常に高度な要求をしている。地域でこれに応える着地型観光商品を作り出し、発信していかないといけない」と見解を示した。

 事例報告では富山県福祉旅行センター(伏江努代表、富山県高岡市)が、国宝高岡山の瑞龍寺で行う着地型観光を紹介。写経や坐禅、精進料理が楽しめ、好評を得ている。近年はオンライン旅行会社(OTA)からの予約が「全体の約7割を占めている」と報告した。

 すマイル・ツアーズ(渡部郁郎所長、山形県酒田市)はオーナーが鮮魚会社(菅原鮮魚)を営む一方、着地型観光も行う珍しい旅行会社。「とびしま漁師体験」を企画している。日本海に浮かぶ「飛島」でさしあみ漁体験ができる。ただ昨年5年目を迎えたが、集客が芳しくない。「宣伝不足か内容なのか、自問自答している」と現状を振り返った。

 報告のなかでは「情報発信に課題がある」「収益を上げることが難しい」との意見が多かった。地域の旅行業者が経営の軸に据え、継続的に行うにはまだ難しい点があり、難しい局面にある。

 同会を主催しているツアー・ステーションの加藤広明代表は「我われで声を上げて現状を変えて行く必要がある」と語った。

民泊新法「大変うれしく思う」、エアビーアンドビーが声明

 エアビーアンドビー・ジャパン(田邉泰之代表)は3月10日に、「住宅宿泊事業法案」(民泊新法)が閣議決定されたのを受け、声明を発表した。

 「この度の閣議決定を大変うれしく思います。遊休資産である空き家、空き部屋の活用により、多くの新たな機会が生みだされます。地域社会に配慮し、持続可能なかたちで、ホームシェアを含む短期賃貸が日本全国で普及するよう、引き続き日本政府や関係者の皆様と協働させていただく所存です」と、新たな法案に対して一定の理解を示した。

 なお、現在日本に4万8000軒の部屋が登録されていると報告した。

震災復興を支援、新会長に桑島氏(知床グランドホテル北こぶし)

小林会長があいさつ
桑島繁行新会長

日旅連総会、熊本で開催

 日本旅行協定旅館連盟(小林喜平太会長)の第55回通常総会が3月2日、熊本市内のホテルで開催された。昨年4月に発生した熊本地震の復興支援として、熊本での総会開催となった。

 任期満了にともなう役員改選では、小林会長の後任に桑島繁行氏(知床グランドホテル北こぶし)を選出。新体制で新年度に臨むことになった。

 小林会長は震災後の日本旅行、日旅連などの支援に感謝を述べ「九州ふっこう割で、少しずつ戻りつつある」と報告。日本旅行の中期経営計画「アクティブ2016」については「4年目の成績として、宿泊券販売が右肩上がりになった」と評価した。

 日本旅行の堀坂明弘社長は、熊本地震について地元出身者としての思いを述べ、「観光による復興が力になる。被災した熊本城も見てほしい」と訴え、「九州域外からお客様に来てもらい、海外には安心安全を伝えることが大事」と強調した。

 新中期経営計画「バリューアップ2020」では「マーケットインの発想を押さえ、強みの創出と事業の価値向上を行う」と説明。4つの柱として(1)お客様の価値実現(2)地方創生(3)社員の価値向上(4)JR西日本をはじめとする株主の価値向上――を挙げ、地方創生推進本部や仕入・誘客推進センターなど社内推進体制を配置。「人材を各自治体、DMOに派遣し、行政と旅連と一緒に地方創生を実現したい」と意欲を示した。

 赤い風船45周年では「次の50年に向けてブランド価値を向上させ、上質な旅、アクティブシニア向け商品など、各施設の素晴らしいところを商品にしたい」と語った。

 新年度事業では、バリューアップ2020とリンクした「宿泊販売」拡大を重点に、(1)地域誘客事業(2)赤い風船WEB商品化(3)赤い風船WEB宿泊商品販売の拡大(4)インバウンド事業⑤災害地域への宿泊販売支援――を推進する。

 このほか、ワークショップの開催、台湾の観光物産博参加、赤い風船45周年企画協力に加え、国内旅行活性化、成長戦略、インバウンドなどの各委員会活動を盛り込んだ。

 総会終了後には、阿蘇市観光協会の稲吉淳一会長(阿蘇プラザホテル社長)が「熊本地震について」を講演。「人生にはまさかの坂が本当にある」と過去の水害、噴火と今回の地震体験から得た教訓を語り、「旅行会社や旅連などの支援が本当にありがたかった」と感謝を述べた。

 新副会長は次の各氏。松岡利幸(ホテル阿寒湖荘)▽吉村譲(萩城三の丸北門屋敷)▽東郷和浩(ゆふいん山水館)▽白石武博(カヌチャベイホテル&ヴィラズ)

夜桜と温泉宴会を融合、“大人が楽しめる場に”(鬼怒川温泉)

鬼怒川温泉「夜桜お花見ふれあい大宴会」のようす

 栃木県・鬼怒川温泉のお花見スポット、護国神社・温泉神社周辺を会場に第5回「夜桜まつり」が開催される。期間は4月7―16日まで。由緒ある神社敷地内に咲き誇る桜に、期間中は毎日ライトアップが実施される。特別イベント日には、神楽殿での芸妓衆による踊りやお囃子の演奏、地元グルメやドリンク販売が行われる。

 4月8―15日には、鬼怒川温泉に今も息づく“温泉宴会文化”と、美しい夜桜といった自然との融合による野外での夜の大人の楽しみとして、「夜桜お花見ふれあい大宴会」を企画した。

 温泉宴会文化とは、宴会場で食事を楽しみながら酒を酌み交わし、皆との交流を楽しみ親睦を深める文化。エンターテインメントの主役は鬼怒川温泉芸妓で、場を艶やかに盛り上げる。

 参加料は5千円(宿泊プラン販売の場合)、窓口・一般・単品販売の場合は5400円。特製お花見弁当、升ドリンク2杯、お花見団子、絵馬のお土産が付き、お座席、社殿での文化体験ができるほか、和楽踊りも楽しめる。

特製お花見弁当

 当日のスケジュールは、午後7時から開会セレモニー、7時30分から鬼怒川温泉芸妓衆による春の踊り、8時から鬼怒川温泉芸妓衆とのふれあい(お酌、記念撮影)、8時20分からお座敷遊び(希望者)、8時45分から和楽踊り、8時55分お開き・帰館、9時30分完全消灯を予定している。
 問い合わせ=日光市観光協会鬼怒川・川治支部 電話:0288(77)3111。

旅館のニーズ「18%」 ― 一律のサービスを強要していないか

 3月1日に開かれた第2回観光産業革新検討会で、宿泊産業の生産性向上や、人材不足への対応などが話し合われた。

 このなかで、興味深い資料も配布された。「日本人の国内旅行における旅館ニーズ」に関して、今年2月に日経リサーチが調査したところ、最も利用することが多い宿泊施設では「ホテル」が75%と、全体の4分の3を占めた。2番目の「旅館」は18%という結果となった。

 ホテルに次いで2番目であるが、この18%という数字は微妙な感じである。残念ながら積極的に選ばれているという印象は薄い。旅館を選ばなかった理由については、「値段が高い(割高に感じる)から」が32・1%でトップ。「行きたい場所に予算に見合った(好みに合った)旅館がないから」が16・8%と続く。

 そして、注目すべきは「仲居さんが部屋に入ってくるのがイヤだから」が14・2%と、3番目に多い結果となったことだ。

 このほかにも、「和室や布団がイヤだから」(13・8%)や、「食事が選べない」(9・3%)、「朝食・夕食は不要だから」(7・0%)、「チェックアウト時間、食事の時間などの融通が利かないから」(6・7%)など、旅館ならではの特徴やシステムが「選ばない理由」の上位を占めている。おそらく、「旅館の都合を旅行者に強要している」部分が、窮屈に感じられるのだと思う。

 私は旅館が大好きなのだが、時折「サービスの強要」を感じることもある。

 スタッフが旅行者の荷物を持って客室でお茶を入れてくれることあるが、このサービスを望む層と、「無い方がいい」と感じる層に分かれるのではないか。私自身もフロントでルームキーをもらうと、あとは自分1人で客室に入りたいと思うタイプだ。スタッフが荷物を持って客室まで持っていくサービスを望むお客には、準備ができるまでロビーでお茶のサービスをしながらご案内すれば大変に喜ばれるだろう。いつも案内を求めるリピーターであっても「今日はいいよ、ロビーで少し寛いで、あとは自分で客室に行くから」という客もいるかもしれない。「お客様が望んだ場合には、対応できる用意がある」という柔軟なスタンスの方が旅行者にとっても、気が楽だ。

 一律のサービスは、ロボット的である。お客の表情や到着時間などを考慮しながら、「お部屋までお荷物をお持ちしましょうか?」と要望を聞く。このように旅行者ごとに対応するスタンスに変えた方が、人によるサービスの価値を「感謝」として感じてもらえる機会が増えるだろうし、チェックインのピーク時での対応も余裕が生まれる。外国人旅行者が旅館に宿泊する機会が増えているが、一方的なサービスの押しつけではなく、日本人の旅行者以上に、そのサービスが必要かどうかを確認した方が軋轢も少ないだろう。

 旅館のスタッフが客室に入ることを厭う傾向がこの数年、さらに強くなっているように感じる。一方で、スタッフが客室に入らなくても十分におもてなしを感じられる宿はたくさんある。客室のスタッフの姿は見えないが、すごく綺麗に清掃されているすがすがしい客室に宿の心を感じるものだ。

 案外、自分たちが良かれと思っていたことが、旅行者に煩わしく思われているかもしれない。

(編集長・増田 剛)

生産性課題は内部に、宿泊産業が抱える問題を検討(観光庁)

第2回検討会のようす

 観光庁は3月1日に東京都内で、第2回「観光産業革新検討会」を開いた。今回の検討テーマは(1)宿泊産業の生産性向上(2)人材不足への対応――の2点。宿泊業の生産性向上について同検討会の委員からは、「旅館業の生産性が低いのは、外部要因ではなく、各施設が抱える内部要因(サービスの質など)が影響している」などの意見が出された。

 事務局からの発表によると、日本人の国内旅行における旅館ニーズは低く、日経リサーチによる調査では、国内旅行での旅館の利用は、わずか18%にとどまっているという。旅館を選ばなかった理由では、「価格が高い」という理由が最も多く、理由の中には「仲居さんが部屋に入ってくるのが嫌だから」という意見も挙がっている。

 宿泊業が抱える最大の経営課題が、「従業員の確保」である。どの施設も接客部門や調理部門において、人材不足を感じているものの、(1)賃金が低い(2)不規則勤務である(3)休日が不規則である――などのイメージが先行し、人材確保に至らないのが現状だ。

 事務局が報告した、宿泊業が抱える諸問題について、EHS研究所代表の渡辺清一朗氏は「宿泊産業の生産性向上を考えたときに、インバウンドを旅館・ホテルが受け入れないと遅れているという考えをもっている人が非常に多い」と述べ、各施設の経営者が、自身の施設の経営戦略として本当にインバウンドの受け入れが必要なのか、今一度検討するべきであると語った。

 また、人材不足への対応について、座長を務める大妻女子大学教授の玉井和博氏は「人手が足りない、いい人材が欲しいといっている宿泊業界が、実際にどのような人材が欲しいのか、しっかりと明示していない」とし、宿泊業界が求める“いい人材”の定義を再度見直す必要があるとまとめた。

No.455 一戸町×エフネッツ×HPE Aruba、課題に挑戦、無線LAN活用

一戸町×エフネッツ×HPE Aruba
課題に挑戦、無線LAN活用

 岩手県・一戸町では現在、屋外でも無線LANサービスを無料で利用できる。災害対策やインバウンドの利便性向上、住民の生涯学習など、活用形態はさまざまだ。今回はソフト面だけでなく、ハード面でのIT活用にも注目。無線LAN機器を製造するHPE Arubaの今井太郎部長と同町に赴き、座談会を実施した。まちづくり課の來田忍主事らを囲み、製品設置を担った富士通ネットワークソリューションズの高橋真吾氏らとともに、導入理由やメリットなどをめぐって語り合った。定住促進や学習環境整備など、無線LANの可能性は広く、観光に留まらない。

【司会進行・構成=謝 谷楓】

 
 
 ――屋外無線LAN設置の理由について。

來田:災害時の情報収集や発信を万全にすべく検討するなかで、無線LANに注目するようになりました。屋外で無線LANに接続できれば、役場や学校といった避難所となる防災拠点での情報入手が一段と容易になるからです。
 東日本大震災の際、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じた情報の発着信が注目されました。屋外でも、無線LANを経由したインターネット接続ができれば、スマートフォン端末からの状況発信も、よりスピーディかつスムーズにできるはずです。
 町では、総務省が進める公衆無線LAN環境整備支援事業として、2014年から“観光・防災Wi―Fiステーション整備”を始めました。国による支援も、実現の後押しとなりました。現在無線LANアクセスポイント(AP)は全部で33カ所。うち7カ所は、“防災情報ステーション”と定め、APと電源装置が一体となった基地局となっています。

 ――観光面での活用について。

來田:SNSへの投稿など、訪日外国人旅行者をはじめとした来訪者の利便性向上に役立っています。
 ワカサギ釣りや御所野縄文公園(博物館)など、町には国内外から注目されている施設や観光資源があります。
 菜魚湖(大志田ダム、同町奥中山地区)でのワカサギ釣りは、動画配信サイトを通じ世界に拡散されました。インバウンドの増加を果たせたのです。湖では、中国語(簡体字)の案内標識も設置しています。
 御所野縄文公園(博物館)の遺跡は、世界遺産登録に向け活動を続ける“北海道・北東北の縄文遺跡群”の構成資産の1つでもあります。インターネットに接続できる環境整備が、目標達成に寄与できれば良いです。

 ――設置のメリットについて。

來田:地域の情報が、しっかりと観光客に伝わることを大切にしています。屋外での快適なインターネット接続によって、来訪者らは、どこでも、情報を調べることができるようになりました。満足度向上につながっています。
 動態データ(人の流れ)の分析もできるようになりました。
 2016年、“希望郷いわて国体”開催時には、選手ら250人ほどを受け入れました。その際、人の流れを確認すると、竹細工体験のできる施設への移動が多いことが分かりました。データを通じなければ、分からなかった事実です。
 町は、三沢(青森県)の米軍基地に近く、米軍関係者やビジネス目的など、来訪者の目的も多様です。
 蓄積した情報を活用し、分析をすることで需要を把握し、さらなるサービス向上を目指します。

 ――セキュリティ面はどうでしょうか。

今井:無線LAN通信のセキュリティは2種類、暗号化と認証があります。
 暗号化すれば、無線LANの電波を傍受されても、通信内容を見られることを防ぐことが可能です。認証では、成功した端末のみネットワークへの接続を許可するため、セキュリティを高めることが可能です。
 暗号と認証は、どちらか一方のみ設定しているお客様が多いのですが、用途によっては暗号化と認証を同時に行うことが重要です。また、認証方法を使い分けることもできます。さらに我われの製品ではアクセス制限もかけられます。

來田:町のAPでは、用途ごとに異なる電波を出しています。観光・日常向けと、町民の生涯学習用、災害発生時用の3つです。例えば、生涯学習用では、利用の都度にパスワードを付与し、セキュリティ対策をはかっています。
 今後は、子供たちの教育への活用も視野に入れています。

 ――設置作業について。

來田:規模の大きい施設を中心に、設置計画を立案しました。無線機器を持ち歩き、設置場所を選定するということもありました。高利得指向性アンテナの場所探しには、とても苦労しました。基地局からの受診が厳しい地域で受信可能な場所を見つけたのは、散歩途中の職員でした。

高橋:景観への配慮も重視しました。町や建物の景観を損なわないよう、來田さんはじめ、役場の方々とともに、現場調査を続けました。

來田:APだけでなく、配線も見せたくないという思いがありました。設置の際には、電波の強弱との兼ね合いにも気を配ってもらいました。
 エフネッツの皆さんとはときに意見をぶつけながら、文字通り“二人三脚”で設置作業を進めてきました。

高橋:1カ所の設置に半日かけるなど、丁寧な作業を心がけました。景観を守るため、APに塗装するといった工夫も行いました。塗装する色も一律ではなく、場所に適した色を検討しながら、サンプルを取り寄せるなど、試行錯誤を繰り返しました。

今井:HPE Arubaでは、景観とのバランスを配慮したカバーも、オプションとして用意しています。塗料の付着による故障防止にも役立ちます。…

全参加者
一戸町
来田 忍 主事(総務部まちづくり課)
平 幸祐 主事
小寺 学 主事(産業部産業課)

富士通ネットワークソリューションズ(エフネッツ)
佐竹 正行 部長
小谷 洋正 所長
小林 正幸 課長補佐
岩渕 和弘 氏
高橋 真吾 氏

日本ヒューレット・パッカードネットワーク事業統括本部(HPE Aruba)
今井 太郎 部長

旅行新聞新社
謝 谷楓
(司会進行)
(順不同)

 

※ 詳細は本紙1663号または3月16日以降日経テレコン21でお読みいただけます。