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旅客船事故 ― 安全性は長い歴史の中で一歩ずつ

2014年5月1日
編集部

 韓国で痛ましい旅客船事故が発生してしまった。

 離れ小島のひっそりとした宿を探し求める旅をしている私は近年、大小の旅客船に乗る機会が増えていたこともあり、事故の衝撃は大きかった。

 生まれた場所が港町だったので、「さんふらわあ号」をはじめ、「ペガサス号」など大型フェリーを間近に見ながら育った。学校のスケッチ大会では皆で港に行って、配られた画用紙いっぱいに「さんふらわあ号」を描いた記憶がある。大きな船が大好きだったし、誇りに感じた。夜、フェリーが出港するとき、船の汽笛が潮風に乗って聞こえたのは懐かしい。

 大人になってからも船好きは変わらず、あちこちの船に乗りまくっている。昨夏には、博多港から釜山港まで高速船で旅行をしたばかりでもあった。

 だが、振り返ってみると、これまでさまざまな船に乗ってきたが、救命胴衣が船のどこに格納されているのか確認したことはなかった。

 この春に離れ小島の宿に向かう送迎船に乗った。これは韓国の旅客船事故の直前のことだった。100人も乗れないような小さな送迎ボートであったが、下船するときに、ふと目に止まった貼り紙があった。

 正確な文言は覚えていないが、そこには「当船はお客様の生命を守りますので、非常時の際には必ず船長の指示に従ってください」と、決意表明のような力強い文字に出会った。私はこの文字に感動したのだ。おそらく会社の上層部が考案し、船に貼り紙をしたのだろう。しかし、何と自分たちの社員である船長を信頼した文面であろうか。

 今の時代、さまざまな訴訟が増えたこともあり、世の中のあらゆる文面はどこか逃げ道を作った物言いが多く、奥歯に物が挟まった表現が溢れるなか、「お客様の生命を守る」と言い切る潔さと、その貼り紙の文字の堂々たる大きさに私の足が止まったのだった。

 それから1カ月も経たずに、隣国で大惨事が起こってしまった。韓国ではフェリー事故を受け、修学旅行の全面禁止などの動きもある。また、船を利用した旅行のキャンセルも多く出ているようだ。

 日本では近年、クルーズ旅行に注目が集まっており、フェリーを利用した旅も見直されてきている。今回の事故を他国の出来事とは捉えずに、運航会社、そして私のような乗客も安全性に対して謙虚に再確認しなければならない。そうでなければ、修学旅行生をはじめ、多くの貴重な命が失われた犠牲者は報われない。そして、長い歴史のなかで、多くの犠牲のうえに一歩一歩、安全性が向上してきたことも忘れてはならない。

 一方、時を同じくして、日本のLCC(ロー・コスト・キャリア)で機長が集まらず、運航計画を大幅に見直さざるを得ないというニュースが流れた。

 前号でも働く者の「誇り」について記したが、社員に誇りを与えられない会社、それも人命を預かる会社に、私は目に見えぬ恐ろしさを感じてしまう。韓国の旅客船事故の船長が契約社員だったという報道もある。

 ちょうど2年前に、関越自動車道高速バス事故が発生し、安全な運行に向けて制度が変わった。今年もゴールデンウイークに突入するが、もう一度、乗客の安全性について再確認してほしい。

(編集長・増田 剛)

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