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初めて賃金問題にメス、添乗員の処遇改善を(TCSA)

2014年3月21日
編集部

 日本添乗サービス協会(TCSA)は2012年度から、厚生労働省労働基準局の「中小企業最低賃金引上支援対策補助金事業」を受け、添乗員の処遇や社会的地位の向上に取り組んでいる。添乗員の労働環境の改善は以前から抱える大きな問題だが、解決には困難を極めている。このため、今年度は同補助事業でガイドブック「ESなくしてCSなし」を作成。このなかでは初めて賃金の問題に大きく切り込み、「もはや『添乗員の賃金』の論点抜きでは立ち行かない」と危機的な現状を訴えた。
【飯塚 小牧】

“ESなくしてCSなし”

 TCSAは2月27日、東京都内で旅行会社や添乗員派遣会社を対象に「添乗シンポジウム」を開き、添乗員の生の声や仕事への意識を紹介。今年度作成したガイドブック「より良い添乗サービスを目指して ESなくしてCSなし」と添乗員育成のための「OJTマニュアル」の説明などを行った。

小倉千佳氏
小倉千佳氏

 同事業を担当した企業の研究調査やコンサルティング事業などを展開する「マネジメント・デザインズ」の主任研究員・小倉千佳氏はTCSAと仕事を始めて約10年になるというが、これまでに100人を超える添乗員に話を聞いてきた。「仕事上、さまざまな産業の方のお話を聞くが、添乗員のグループインタビューでまず感じたのは“負のオーラ”。『私は駒』『使い捨て』という言葉が飛び交い、仕事に従事するなかで、ここまで誇りや自信と相反することがあっていいのか、ととても衝撃を受けた」と率直に語った。

 自身が手掛けたガイドブック「ESなくしてCSなし」については、「ESとは従業員満足だが、一般的に自分の仕事や商品、会社に自信と誇りを持っている状態を指す。添乗員は添乗サービスを通じてお客様の満足度をいかに高めていくかという仕事で、いうまでもなく人を介して行われるサービス」と語り、添乗員の満足度を上げることが旅行者の満足度に直接つながることを訴えた。「添乗員の満足度を上げるには派遣元の会社と派遣先の旅行会社のサポートが非常に求められる」とし、「添乗そのものにやりがいを持つ、充実感を持つことが一つの重要な要素だが、その仕事に対する対価があるかがもう一つ大きなポイントになる」と強調した。

 満足度の向上に賃金を大きく取り上げたのは、人材ビジネス業である添乗サービスにとって人材を育成し、定着させるといった「人材の好循環サイクル」が重要なのに対し、現状は若手の人材不足が深刻になっていることもある。添乗員アンケートでは添乗員という職業に魅力を感じ長く継続していくのに必要なものとして、「日当の引き上げ」など処遇面の項目が圧倒的に多いのに対し、「教育の支援」といった自己成長に関する項目は少ない。小倉氏は「他産業ではありえない結果。添乗サービス業はこれを真摯に受け止め、大いに反省すべき」と述べた。

 ただ、派遣会社としても処遇の改善は重要な課題と認識している一方、旅行会社からの派遣料金が上がらない限り、改善は難しい。小倉氏は「添乗派遣会社は経営の質や経営効率を高め、派遣料金のなかから1円でも高い添乗員賃金を捻出する努力が必要」と前置きをしたうえで、旅行会社に対し「国内の日帰りの派遣料金は1300円だと聞いて、始めは時給だと思った。派遣料金は基本給をもらっている旅行会社社員の社内添乗の日当がベースになっているというが、それを派遣会社に適用するのは理解に苦しむ。ぜひ、派遣料金の抜本的な見直しを検討してほしい」と呼びかけた。

平田進也氏
平田進也氏

 シンポジウムでは、顧客満足度を上げるために旅行会社や添乗員に求められる取り組みについて日本旅行・おもしろ旅企画ヒラタ屋代表の平田進也氏が講演を行い、自身の経験から本音で熱い想いを語った。“ナニワのカリスマ添乗員”と呼ばれる平田氏は33年間、日本旅行に勤めるサラリーマンだが、ファンクラブの会員数は2万2千人、1人で年間約8億円を売り上げる。

 そのなかで、平田氏は現在の旅行会社や旅行商品について持論を展開。「私が何をするかというと『人をとことん喜ばせる』ということ。もてなしはサプライズ。第3次産業の旅行産業に携わっている皆さんは人のお世話が好きで、自分が喜ぶより人を喜ばせたいからこの仕事をしていると思う。そうでなければ旅行会社にいてもらっては困る」と切り出した。

 平田氏は現在、部長職にあるが、年間100日は添乗に出る。「旅行会社は企画から一貫して行うべき。企画者が添乗に出ない今の分業化では最も大切な部分が抜けている。それはお客様からの本当の『ありがとう』だ。自分の会社が現場と直結しているか考えてほしい。そうでない企業は潰れる。社内ではなくお客様と会議をしてほしい」とし、「価格破壊、激安に未来はない。旅行会社は“幸せ配達人”で三方よしの商売なのに、ホテル・旅館、観光施設を叩きあげて、これが旅行と呼べるのか。お客様が喜んだあとのお金であって、先にお金から取りにいくような商売ではダメ」と訴えた。

 また、平田氏のフェイスブックには、各社の添乗員からさまざまな悩みが毎日のように寄せられることを紹介し、添乗員の立場について言及した。アンケートを引用し、「『10年働いて手取り15万円。生きていけない』というのは切実。これに応えてあげないと。『これで納得しないなら仕事切るよ』というやり方は間違っている。確立された産業にするためには、ツアー料金を上げて適正な賃金を支払う仕組みをつくる必要がある」と強調。添乗員から無理な旅程の改善要望があっても、何年も同じツアーを作り続けることについては「現場の添乗員がかわいそう。これはお客様の声を聞いていないことになる」とした。さらに、旅行会社には添乗員への予備金を要求。「5千円でもいいので、誕生日のお客様にケーキを買うなど、皆が喜ぶことに自由に使えるお金を渡してほしい。それは10万円になって返ってくる」と語った。

 一方で、「低い日当だからそれなりの仕事しかしない」「マナーのない客のアンケートで人生を決められるのは悲しい」などのアンケートの声に対しては「これは添乗員の被害妄想。目の前のお客様にも失礼だ」と意見。「ここまで追い詰めたのは旅行会社の責任でもある」としたうえで、「(添乗員に)もっと大局をみてほしい」とアドバイスした。

 最後に、「旅という非日常を通じて人の心を癒すことが私の仕事だと思っている。添乗員とは素晴らしい。旅行会社は素晴らしい。このことを肝に銘じてこれかも頑張っていきましょう」と呼びかけた。

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