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学生に人気の旅行業界 ― 旅人は事情を抱える生身の人間

2014年1月21日
編集部

 朝日学情ナビが2015年3月卒業・修了予定の全国の大学3年生・大学院1年生に聞いた(有効回答8291人)就職人気企業ランキングをこのほど発表した。上位は(1)JTBグループ(2)オリエンタルランド(3)全日本空輸(ANA)(4)資生堂(5)伊藤忠商事(6)三菱東京UFJ銀行(7)日本航空(JAL)(8)東日本旅客鉄道(JR東日本)(9)エイチ・アイ・エス(HIS)(10)三井住友銀行――となった。

 公務員の人気が高いなど、近年の就活状況は安定志向が強いと言われるなか、サービス業の旅行会社がトップ10に2社も入っている。また、観光産業と関わりの大きいオリエンタルランド、ANA、JAL、JR東日本も顔をそろえ、一見すると、観光関連企業の人気ランキングの様相だ。100位の中には、24位に近畿日本ツーリスト、56位に日本旅行、94位に阪急交通社もランクインされている。宿泊施設では唯一、99位に帝国ホテルが入った。

 安定志向というよりも、「やりがい」を優先させてか、はたまた親しみやすさからなのか、サービス業の人気が高いことを表している。観光産業、とりわけ旅行会社は根強い人気を持っている。私が学生だった20数年前も旅行会社の人気は高かった。しかし、そのころと今は大きく状況が異なる。

 大手旅行会社では「旅行経験がほとんどない学生が多く志望してくる」という話をよく耳にする。これはちょっと驚きだ。数十年前だったら、旅行会社に就職したいと考える学生は、「バカ」が付くほどの旅好きであったはずだ。HISの平林朗社長は高校卒業後、海外を放浪。その後HISにはアルバイトからスタートし、40歳という若さで社長に就任する異色の経歴の持ち主だが、創業者の澤田秀雄氏も若き日は海外放浪者であり、HISには「若き無謀な挑戦」というDNAが受け継がれているようだ。

 旅行会社には多かれ少なかれ、このような血が流れているという印象が強いのだが、今は時代が変わったということか。大学の観光学部の学生もあまり旅行をしないと聞く。

 「老人会の幹事をしていたときには、旅行会社や旅館から贈答品やダイレクトメールが送られてきたのですが、役職を終え、その後妻も亡くなり1人になったとき、かつてお世話になっていた旅館に泊まりに行ったのですが、対応が冷たくて……」。ご高齢のお客が東鳴子温泉「勘七湯」のご主人・高橋聖也さんに寂しそうに語ったというエピソードが印象的だった。

 宿から手厚くもてなされることもなく、「家に1人でいるよりも孤独な思いをした」という老人の気持ちを想像すると、切ない。団体客を取り仕切る幹事と、年老いた一人ぼっちの個人では、社会的な地位は違う。でも、まったく同じ人物である。 

 旅行会社の営業マンや大型旅館などの場合、1人客よりも、30人の団体客の方がありがたいに違いない。けれど、社会的な立場や地位によって、手のひら返しの対応をしてしまっては、やはり寂しい。旅人はそれぞれの事情を抱える生身の人間である。そしてさまざまな思いを胸にしまって旅をしている。

 旅行会社や宿泊施設に就職を志望する学生には、見知らぬ土地で旅人が感じる孤独な思いや、地域や宿で“人の温かみ”に接した経験がすごく大事な気がする。

(編集長・増田 剛)

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