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雨の日の観光地 ― 演出はいくらでもある

2013年6月21日
編集部

 先日、九州のとある宿のご主人と雑談していると、「今は天気予報で雨が降ると分かると、宿泊予約を簡単にキャンセルするお客が増えている」という。

 現代においては、不快に感じるものを可能な限り排除する傾向が強まっている。田舎には当然存在する蚊や昆虫なども絶対に室内に入らないようにシャットアウトするし、エアコンや、空気清浄機なども日々進化し、快適でくつろぎのある空間をどこまでも追求する社会になった。この流れからいくと、梅雨は不快極まりない。旅行中の雨も消してしまいたい欲求に駆られる。さすがに雨雲を取り除くことはできないので、旅行自体を取り止めたり、延期したりするのだろう。

 もちろん、「せっかくの旅行が雨ならば台無しになる」と思う旅行者の心理は、誰もが充分に理解できる。期待に胸を膨らませて訪れた旅先で雨が降り続くと口惜しいものだ。でも、旅行から帰ってみると、旅先で見た雨の風景は強く記憶に残っている。なぜだろうか、「もう一度行きたい」と思わせる心の作用があるから、不思議だ。

 個人的な旅や、仕事上、出張先の観光地でたくさんの雨と出会ってきた。最初はやはり残念な気持ちになる。でも、温泉街の場合、雨の方が風情があることに気づく。そして旅好きの多くは、雨の日が持つ旅の魅力をちゃんと知っているのである。

 昔、パリの下町にあるボロ宿の二階の窓から、一日中暗い雨の日の石畳を眺めていたことが今も瞼に焼き付いている。また、台風直前の沖縄で、共同浴場「中乃湯」の開放された窓からから眺めた、濡れそぼつコザの町並みは忘れられない。大切な思い出だ。

 雨が多い日本である。観光地や宿はせっかく訪れてくれた旅人を失望させたまま帰してはもったいない。旅館なら、庭先に竹林を配したり、淡いランプを灯したりと、アイデアは尽きないはずだ。露天風呂に小さな庇をつければ雨に濡れず、裸で自然を体感できる。客室も設計会社が施した画一的な設えではなく、照明を変えたり、ぼんやりと窓の外を眺められるように、窓辺に雰囲気のある椅子やソファを置いてみたりと、演出はいくらでも考えられると思う。 

 「ぜひ雨の日に宿泊してほしい」という宿主も実は多い。それを見つけるのも一つの楽しみである。

(編集長・増田 剛) 

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