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訪れたくなる宿 ― 包み隠さず誠実に(8/1付)

2012年8月1日
編集部

 先日、箱根に仕事があった折に、「強羅花壇」をちらっと見て行こうかと思い、ほんの一歩敷地に入ると、玄関付近のスタッフに気づかれ走って来られた。私は宿泊客でも何でもないただの通りがかりの人なので、「どうしよう」と思ったがそのまま逃げるのも怪し過ぎるので佇んでいた。「どうぞ、こちらへ」「いえ、あの、ちょっとどのような旅館なのか見てみたいと思っただけなので……」と帰ろうとすると、「どうぞ館内をご見学下さい」と案内された。宿泊棟やレストラン棟を眺め、お香の焚かれた涼しげな館内に入ると、洗練されたスタッフと擦れ違うたびに感動が続いた。「いつかは泊まりたい」と思いながら、館内を見歩き、売店でレターセットを買って帰った。

 静岡県・伊豆の船原温泉に「湯治場ほたる」がある。謳い文句は「サービス/それなりに三流、施設/お金をかけていません、二流、お湯/特上・豊富、一流」。なんだか面白そうだと思い、行って来たが、謳い文句とは少々違っていた。

 お湯は、お地蔵さんの石像がたくさん入っている広い湯船に源泉かけ流しという贅沢なものだった。渓流を眺めながらゆっくりと浸かった。お湯に関しては、間違いなく一流だった。施設は二流とあるが、館内は清潔で、無料マッサージコーナーもあり、不満に感じるものはなかった。そして、サービスは対応してくれたスタッフが皆、親しみやすく案内してくれ大満足だった。宿にとって「サービスは三流」とはなかなか謳い文句に書けないものである。しかし、旅行者の中には、サービスよりも料理や部屋の雰囲気、温泉、ロケーションに重きを置く人が必ずいる。そのときの私もそうだったが、あまりサービスに期待をしないで訪れた分だけ、余計にスタッフの笑顔が輝いて映った。宿も人と同じように、良い面も悪い面も包み隠さずに、最初から正直に出す誠実さが好結果を生むのかもしれない。

 山形県・瀬見温泉の喜至楼は歴史的な建物として有名。同館のホームページには「全館内は建物も古く、他の旅館・ホテル様の設備には到底かないません。設備や内装等でもご満足頂けないとは思いますが、宜しければ日常と変わった時の流れをお感じに、お越し頂けましたら幸いです」とある。こんな風に書かれると、人は訪れたくなるものだ。

(編集長・増田 剛) 

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