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一つのアンチテーゼ ― ボロ宿に「本質」を問う(1/21付)

2012年1月21日
編集部

 学生時代や20代前半のころは、旅をしてもほとんどが無名のボロ宿に泊まる貧乏旅行だった。若かったし、お金もないし、ほとんどが薄汚い格好の1人旅なので、旅館にも入りづらい。有名旅館、高級旅館なんて存在は、敷居があまりに高すぎた。天守閣のような素晴らしい楼閣を眺めながら、取り囲む高い塀をぐるりと回って、どこか自分の身の丈にあった駅前旅館や落ちぶれた宿を探した。それは、海外旅行でも同じでガイドブック片手にボロ宿を探し歩いた。 この世界に入って、卓越した経営者や、先進的な取り組みをしている宿を訪れ、取材ができることに今でも信じられない気持でいる。さらに、このような仕事をしているせいで、有名旅館に宿泊させていただき、身の丈を越える厚遇を受けたことも何度かある。その洗練されたおもてなしや心遣いに感動し、宿の「本質」を見た気がした。

 私は昨年の秋から冬にかけて3カ月間で全国の秘湯宿を24軒めぐった。毎週末に2軒の割合だ。まだまだ旅を続けたいのだが、金銭的に限界がきた。

 しかし、なぜこんな無謀な旅を思い立って、実行してきたか。おそらく、宿というものの「本質」を、秘湯の宿という素朴さから、もう一度しっかりと考えてみたかったからだった。

 つげ義春は、全国のボロ宿を好んで巡り歩いた。かつて山梨県の鶴鉱泉を訪れた際には「ひどいボロ宿で感激した」と洩らすほどのボロ宿好きだ。そして、ボロ宿が好きなのは、何もつげ義春に限ったものではない。明治、大正、昭和の多くの作家も、実は安いボロ宿に泊まり執筆した。それが今となっては有名作家が宿泊した宿として格が上がった宿も意外と多い。

 昨年巡った宿のほとんどは日本秘湯を守る会の会員宿で、ある意味で“ブランド宿”である。どの宿も鄙びているが、主の心遣いはきめ細かいし、無造作に見えても、木々の一本一本まで計算されて植えられていたりもした。遠くまで来た甲斐もあったと感嘆したものだった。そして多くの滋養がそこにあった。

 有名旅館の優れた経営哲学や、秘湯宿の素朴な温かみは、間違いなく素晴らしい。そのうえで、私はアンチテーゼとして、現代の旅行者の視線から外れてしまった「落ちぶれたボロ宿」の視点に立ち、宿の「本質」を問い、新鮮に見えてくる世界を探したい。^t(編集長・増田 剛)

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