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“旅行が障がいに効果”、推進に向け議論を展開、ユニバーサルツーリズム

2013年6月1日
編集部

パネルディスカッションのようす

 観光庁は、高齢者や障がい者など誰もが気兼ねなく旅行ができる環境作りのため「ユニバーサルツーリズム」を推進している。「ユニバーサルツーリズム推進に向けた地域活動に関する検討会」を設置し、昨年11月と今年3月に検討会を実施。また、2月には東京・秋葉原で「ユニバーサルツーリズム シンポジウム」を開いた。シンポジウムは検討会メンバーの大学教授や医師など関係者が登壇し、旅行が障がい者にもたらす効果や現状、推進に向けた議論を展開した。
【飯塚 小牧】

 シンポジウムは、検討会メンバーの2人が講演。北星学園大学客員教授の秋山哲男氏は「ユニバーサルツーリズムの促進に向けて」と題し、ユニバーサルツーリズムの定義などを説明した。三軒茶屋リハビリテーションクリニック院長の長谷川幹氏は、長年、障がい者や高齢者とともに国内・海外旅行に出かけている経験から、旅行がもたらす効果を語った。80代のパーキンソン病の女性の例をあげ、「重度で仮面様顔貌(無表情)があり、全介助を必要としていたが、旅行をきっかけに耐久力がアップし、表情も豊かになった。教科書的にパーキンソン病は現状維持か悪化だが、それを覆した」と述べた。

 旅行に対するハードルは高いが、1歩目が出れば2歩目はすぐに出ることや、役割を与えることで自信につながることを紹介。「障がいがあってもできたという実感が必要。そのなかで旅は最も効果的だ」と語った。また、旅行関係者に配慮してほしいこととして、トイレ休憩は通常の2倍必要なことや、同行する家族が疲れてしまうことを避けるため、当事者と援助者は1対2以上必要なこと、嚥下障害への食事の配慮などを訴えた。

 講演後は秋山氏をコーディネーターにパネルディスカッションを実施。秋山氏は「ユニバーサルツーリズムは今後、どのような展開をするのかまだみえていない」とし、現状を把握するところから議論を開始した。

 旅行業の現状は、先進的な取り組みをしているANAセールスCS推進室ツアーアシストグループグループリーダーの田中穂積氏とクラブツーリズムテーマ旅行部バリアフリー旅行センター支店長の渕山知弘氏、昭和観光社代表取締役でバリアフリー旅行ネットワーク会長の平森良典氏の3人のパネリストが語った。

 そのなかで、田中氏は「ANAセールスの募集型企画旅行に参加してもらうには、何を手伝えばよいのか」という考え方から、3人の専属担当者が申込みの段階から相談を受けていることを紹介。約10年間の積み重ねで今では、12年度上半期の取扱件数で約670件、売上高約3億円まで成長しているという。「ノウハウと人手が必要なので、ホールセラーではなかなか難しいと思う。今は、日本旅行業協会(JATA)でバリアフリー旅行部会の会長を務め、旅行会社に向けた啓蒙活動を広げている」と述べた。

 また、NPOで活動する神戸ユニバーサルツーリズムセンター代表で日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワーク理事長の鞍本長利氏は、「介護する家族が旅先でもお風呂に入れなければならないと、もう二度と旅をしなくなる。また、最近は障がい者が1人で旅をすることも増えているので、支援するための着地のネットワークをつなげていく取り組みを進めている。ホテルや空港など一つひとつが対応できるだけではダメ。宿泊やサービス、医療福祉、行政、NPOなどすべての連携で作り上げていくことが必要」と語った。

 伊勢志摩バリアフリーツアーセンター理事長で日本バリアフリー観光推進機構理事長の中村元氏は、観光客を増やすためにバリアフリー観光の取り組みを始め、障がい者で組織した専門員による観光地の「バリア」調査などを行っている。「まちづくりでバリアフリー観光を行い、それによって地域が恩恵を受けるレベルまで持っていかなければ意味がない。今は、とても厳しい基準で『パーソナルバリアフリー基準』を設定し、全国に広げている。地域を育てるという視点が重要だ」と語った。

 一方、「観光はバリアを楽しむもの」とし、杖をついていても景色がよければ階段のある旅館を選ぶこともあることや、神社などの階段を上ることに意味がある場合は、専門のNPOが補助していることなどを紹介。「バリアを取ってしまうと、観光そのものを失くしてしまう。それは福祉の世界。福祉と観光は、融合はできても目的は違うもの」と強調した。

 最後は、今後ユニバーサルツーリズムを発展させるために必要なことを各自が発言。渕山氏は「我われのような旅行形態は土壌や仕組みがないと動き出せないと思う。今求められているのは、一般のツアーや地域をどうアレンジしたら、多くのお客様にきてもらえるかを考えること。できない理由を考えるのを止め、できることから考えれば新しい開発につながるのではないか」と呼び掛けた。

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