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視線 ― 客や旅人は監視の目から離れたい

2016年11月21日
編集部

 洋服屋で服を選んでいると、店員が来て話しかける店がある。大体そういう店は、店内が閑散としている。こちらが探す余裕も与えてもらえず、店に入って10秒もしないうちに、「何をお探しでしょうか?」と近寄ってくる。モゴモゴと口を濁していると、後をついて来て、視線まで追いかけて、「ジャケットですか?」「コートですか?」などと聞いてくる。

 仮に「ジャケット」などと答えると、店が「売りたい」ものを持ってくる。大抵の場合、持ってくる品物がこっちの欲しいものとかけ離れており、居心地の悪さを感じる。

 先日、擦り減ったクルマのタイヤを変えようとカー用品店に行った。「オンボロ車なので安いタイヤで!」と言っているのに、結構高いタイヤを勧めてきた。他の店に行こうとすると、「安いタイヤがあった」と言い出した。結局、客が欲しいモノよりも、自分たちが売りたい商品を買わせようとする。これがちょっとでも伝わってしまうと、客は店に対して不信感を覚えることになる。

 私はオートバイが好きなので、暇な時にはバイク店に行って、ずらっと並ぶオートバイを眺めている。幸い近所に大型バイク店が3店舗あるので、その日に気が向いた店に行く。1軒はいくらオートバイを眺めても、スタッフは誰ひとり声をかけて来ない。でも客が質問すると、懇切丁寧説明してくれる。もう1軒も放置してくれる。店内にベンチまで置いている。ツーリング中のライダーも利用できる清潔なトイレも設置している。私はこの店でオートバイを買った。もう1軒は、「何かお探しでしょうか。おっしゃっていただければ、すぐにバイクをお出ししますよ」と毎回声をかけてくる。「すみません、オートバイが好きなので、ちょっと見させてもらっています」と答えるのだが、毎回同じやりとりを繰り返す。結局、3番目の店には足が向かなくなってしまった。悪い店ではないのだが、なんとなく居づらさを感じてしまうのだ。色々な小さな備品も、放置してくれる店で結果的にたくさん買っている。

 店の方針として、客が入店した瞬間に、声をかけることが決まっているのかもしれない。けれど、洋服やオートバイなどは、「しばらく眺めていたい」という心理がある。客は自分が選ぶ商品と向き合い、「夢に浸る時間」が必要である。その貴重な“陶酔の時間”に、脇から店員が野暮なセールストークを囁かれても、煩わしさしか感じないものだ。

 客から視線を外し、言葉を加えない時間を与えることは、すごく大事なことなのである。

 旅館も客室係が部屋に入り、宿泊客とさまざまな会話を交わす機会がある。しかし、他人と話すのが煩わしいと感じる客もいれば、たまたま人と話すのが苦痛な時だってある。宿の方針で、客との会話から色々な情報を引き出すように言われることもあるかもしれない。旅人も勝手なものだが、どこかで「放っておいてほしい」との願望もある。人からの監視の目から離れたいために、旅に出たところもあるのだ。

 一流と言われるホテルやレストランのスタッフは、客への視線を感じさせない。まったく見ていないかといえば、そうではない。客がスタッフを求めたときに、ちゃんと視線が合うものなのだ。

(編集長・増田 剛)

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