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客室とパブリックスペース ― 旅館はもっと快適な空間になれる

2015年4月1日
編集部

 旅館とホテルの違いは何か。まず、ホテルでは客室は完全なるプライベート空間だが、旅館の場合、客室係が部屋に入り、さまざまなお世話をすることが多い。もう一つ、私が感じる両者の大きな違いは、パブリックスペースの在り方である。

 ホテルの場合、玄関やロビーは、外の街とつながっており、ビジネスマンがスーツと革靴を履いて、ロビーでコーヒーを飲んだり、誰かと商談をしたりする。高級ホテルになるほど、どこかピリリとした心地よい緊張感がある。一方、旅館もロビーなどは外からつながっているが、玄関で靴を脱ぐ宿もあり、外の世界から一歩足を踏み入れると、薄い膜で護られている感じを受ける。旅館のロビーには浴衣姿でこれから大浴場に行こうとはしゃぎながら歩くグループ客や、風呂上がりで、少しはだけた浴衣姿で涼みながら、地元紙やスポーツ紙を広げる老人がいたりする。全体的にのんびりとしており、こちらのユルさも心地よい。外海を航海していた船がおだやかな湾内に帰港する感覚に似ている。

 客室も大きな違いがある。ホテルは基本的にワンルームにベッドがあり、机、椅子またはソファが置かれ、入り口近くに浴室を配置するスタイルが多いが、旅館は3―4人を想定しているので、「こんなにたくさんの部屋はいらないのに」と思うほど、ゆったりとしている客室もある。私は贅沢な“空間の無駄遣い”こそ、旅館の醍醐味だと思っている。

 ホテルのサービススタイルは、ほぼ完成されている。フロントで鍵を渡されると、あとは快適なベッドと清潔な空間で誰にも邪魔されず自分の時間を楽しむことができる。名門ホテルなら、美味しいレストランも館内にあるし、何か必要があれば電話でフロントに頼めば満足のいくサービスを受けることができる。サービスのスタイルは、もうこれ以上進化することはないのではないかと思うほど、完成形に近い印象を受ける。一方、旅館の“おもてなし”のスタイルは、まだまだ試行錯誤が続き、新しいタイプの旅館が生まれる可能性を秘めている。

 旅館が抱える最も大きな悩みとしては、客室係が部屋に何度も入っていくべきか、ホテルのように求められるまで放っておくかという部分ではないか。

 神奈川県・箱根強羅温泉の「強羅花扇 円かの杜」では、客室係が一番手前の客室でさまざまなサービスを提供する。基本的に奥のベッドルームや、宿泊客がくつろぐ部屋には入らないようにレイアウトされている。宿泊客のプライベート空間を確保しながら、旅館は独自のおもてなしを発揮できる。これも宿泊客が心地よさを感じる新たな関係性だと思う。

 群馬県・水上温泉の「蛍雪の宿 尚文」では、パブリックスペースにはスタッフを置かない。誰かの目があると、人は完全にリラックスできないからという理由だ。フロントのベルを鳴らせば、スタッフが奥から出てくる。宿泊客はロビーで、宿のスタッフの視線を気にせず無料で据え置かれているお酒を飲んだり、本を読んだり、自由に過ごせる。実際、そのように過ごしてみると、すごく心地よかった。これも一つの旅館のスタイルだ。

 現代性とリンクしながら知恵を出せば、旅館はもっと快適な空間になれる可能性を秘めている。

(編集長・増田 剛)

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