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旅館の食事 ― 食事処でお客の表情を見ているか

2015年2月1日
編集部

 同じ趣味を持つグループが年に一度、どこかに泊まりがけで行くとしたら、温泉旅館がぴったりだと思う。みんなで大きな露天風呂に入り、浴衣に着替えて、宴会場で豪華な料理を前に、お酒を飲みながら語り合い、それでも話足りなければ、部屋に戻って和室に敷き詰められた布団の上で、また酒を飲みながら過ごすというのがいい。

 このようなシチュエーションでは、料理があまりにも美味しすぎると、話すことよりも、味わうことが優先されるので、お手頃の料金で、ほどほど美味しく、見栄えのする料理が並ぶのが望ましい。

 釣りや、単車、自転車、登山、ゴルフ、スキーなど同じ趣味を持っていれば、あまり親しくなかった者同士でもすぐに打ち解け、熱い話になっていく。

 しかし、趣味のグループにぴったりの料理であっても、別の客層の場合、そのような料理が必ずしもしっくりくるわけではないのである。

 家族向けの大型旅館、海辺の民宿や秘湯の宿、小規模の高級旅館など、さまざまな旅館に泊まり、食事もしてきた。そして、一人で泊まることもあれば、夫婦で行く場合や家族、仕事の同僚、知らない人など色々な人と旅館に泊まったが、旅館での滞在中に一番気になるのが、食事の雰囲気である。

 何が気になるかといえば、楽しい旅館の食事であるはずなのに、ほとんどのテーブルで宿泊客同士の会話が弾んでいない光景をよく目にすることである。

 老夫婦のテーブルでは、向かい合っているのに、食事が始まってから終わるまでほとんど会話を交わさずに食事を終え、席を立って行くシーンを何度も目にした。家族旅行でありながら会話が弾まないテーブル。若いカップルなのに、重い空気で食事中に無言の2人も見てきた。

 「これは、なぜだろう」といつも思ってきた。

 多くの旅館経営者は、「お客様が笑顔になれる宿になりたい」と語る。しかし、現実には、とくに食事の時間に会話はほとんどなく、笑顔もそれに合わせて表れない。

 おそらく、旅館料理の中に、会話の発端となる糸口が一切見つからないのだろう。同じ趣味のグループなら、料理は脇役に沈み込んだ方がいいケースもあるが、家族や夫婦、恋人同士で会話が弾まないのは、その料理に「人の心を動かす力」がまったくないか、あるいは、会話をしたくなる空間演出を考えていないことはないか。もしかしたら、仲居さんが無意識のうちにお客が話すタイミングを失くしたり、寸断したりしている可能性もある。旅館経営者自らが食事会場に立つ宿もあるが、実際はほとんどいない。たとえば、テーブルの配置や、テーブルに小さなキャンドルライトを灯すとか、照明の加減など雰囲気作りを考えているか。ホテルのレストランなどはすごく参考になると思う。また、旅館で出された料理に対しては、残念なことに、何も言葉や感想が出てこないこともある。見た目も、素材もまったく興味を引かない、食べた後の感想もなにも生まない料理が出ることも、多々ある。

 料理人は自分の料理がいかにお客の会話を引き出すかも考えながら作らなければならないし、経営者はただ味見をするだけでなく、食事処でお客がどのような表情で料理を食べているかをしっかりと見なければならない。

(編集長・増田 剛)

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