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「観光革命」地球規模の構造的変化(248) 国内外の不安定化と観光

2022年7月2日
編集部:木下 裕斗

2022年7月2日(土) 配信

 5月下旬に、スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム(WEF)」が2021年版の旅行・観光開発指数ランキングを公表し、日本は世界ナンバーワンと位置付けられた。WEFは07年以来2年ごとに「旅行・観光競争力指数レポート」を公表してきた。日本は09年の総合ランキングが25位であったが、その後に毎回評価が高まり、19年には4位に上昇した。

 WEFはパンデミック発生や気候変動、ウクライナショックなどに基づいて、21年版では指標の一部を改めて、全世界の117の国・地域を対象にして評価を行った。今回の総合ランキングのベスト10では第1位が日本で、以下、米国、スペイン、フランス、ドイツ、スイス、オーストラリア、英国、シンガポール、イタリア――の順で、日本は初めて世界ナンバーワンと位置付けられた。

 めでたい状況の中で6月10日に訪日外国人観光客の受け入れが再開した。コロナ禍の深刻化で入国禁止措置が講じられて以来、2年ぶりのことだ。苦境に喘いできた観光・旅行業界にとっては「待ちに待った再開」と言いたいところであるが、現実にはさまざまな制約条件付きの再開であり、手放しで喜べる状況ではない。

 先ずコロナ禍が完全に収束した訳ではないうえに、ウクライナショックによって世界の分断化・不安定化が急速に進んでいる。また米中覇権争いの影響で東アジア情勢も不安定化しており、台湾ショックの発生も危惧されている。

 さらにウクライナ侵攻に対するロシアへの経済制裁の強化によって、エネルギー供給や食糧供給の面で世界経済の不安定化が深刻化している。その影響で日本においても円安が進行し、諸物価の上昇によって庶民の暮らしが悪化しており、観光どころではない雰囲気が生じている。

 安倍政権・菅政権の下で観光の量的拡大を意図したインバウンド観光立国政策が大成功を収め、観光開発分野で世界ナンバーワンという評価を受けるに至った。しかしパンデミック、気候大変動、ウクライナショックの発生や、日本における少子高齢化に伴う地方の衰退や政治・経済の低迷などを踏まえると、早急に観光をめぐる国家デザインの大転換をはかる必要が生じている。

 この機会に日本の叡智を結集して、新しい観光立国政策の策定をはかるべきであろう。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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