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宿文化の継承 ― 宿に誇りを持つ若い世代が増えた

2014年10月1日
編集部

 長野県と岐阜県の県境にある御嶽山が噴火し、多数の死傷者が出た。突然の噴火だったため、秋の紅葉シーズンを迎えた登山を楽しむ観光客が犠牲となった。つい最近では、広島で大規模な土砂災害が発生した。自然と密接している山や海、川沿いに多い旅館や観光施設の方々には、くれぐれも用心してほしいと思う。もちろん、自然災害は、山間部や海辺だけでなく、都市部にも及ぶ。

 さて、先日、長年ずっと行きたかった山形県米沢市の山奥にある一軒宿・姥湯温泉桝形屋を訪れた。日本各地で「秘湯」と言われる温泉宿を訪ねたが、この姥湯温泉への道は、想像を絶するほどの過酷さだった。日本を2周するほど走った愛車で細い急峻な坂道を登り続け、途中狭いカーブで岩にぶつけ、へこませてしまったが、後悔はしていない。東日本大震災の直後、東北の地図を描いたステッカーを貼って、東北自動車道を風を切って疾走している車をたくさん見かけたが、私の車にはもう日本地図のステッカーを貼っても許されるのではないかと思っている。

 話を戻そう。

 通常なら誰も近づかないような断崖絶壁の場所で温泉を守り、宿を営む。そこで日本全国から訪れる宿泊客を受け入れる。その事実だけでも、私はこの一軒宿を17代も守り続けていることに敬意を表したのだった。その日、18代目となる遠藤哲也さんと宿で色々な話ができた。シンプルでありながら、温かみのある客室。ツヤを消した丈夫な柱など、宿のこだわりなども話した。桝形屋は日本秘湯を守る会に加盟している。今年40周年を迎える日本秘湯を守る会では、後継者問題が大きな課題となっている。しかし、これは、多くの旅館経営者の共通の悩みでもある。

 口には出さないが、「実は旅館を経営してみたい」と思う人は多い。私の尊敬する大先輩の旅行作家も山荘を経営する夢を抱いていたし、つい最近は意外な人物もそのような夢を持っていることを知った。また、実際に雑誌「自遊人」を発行する岩佐十良氏は新潟県南魚沼市で旅館「里山十帖」の経営を始めた。先日、お話する機会を得た。岩佐氏は「ぜひ取材に来てください」と笑顔で言われた。

 10月8日に京都で全旅連青年部の全国大会が開かれる。青年部は次世代の宿文化を担う者たちの集まりだ。青年部員は年々減少しているが、最近は青年部員の意識の変化を感じている。今から15年ほど前の青年部員は、まだ「遊び人」風情の若旦那が多かったという印象が残っている。そして、心のどこかに「宿を継ぐことが嫌だ」という空気が漂っていた。彼らに宿を継ぐ誇りのようなものは希薄だったような気がした。そんな時代だった。バブル経済が崩壊し、宿は膨大な借金を残し、地方は本格的な荒廃に向けて、坂を転がり始め、衰退へと加速していた。その後もしばらくの間、青年部の会合では、「旅館経営者として夢を持とう!」という言葉を多く聞いた。

 今は地方の状況は一層厳しいものとなったが、一方で宿の経営者としての誇りを感じる青年部員の割合は増えているような気がするのだ。時代の流れかもしれない。だとしても、それは悪い流れではない。宿文化というものを、もう一度若い世代が見直す時期が来たような気がする。

(編集長・増田 剛)

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