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素泊まりと豪華な料理の中間に ― ちょっと贅沢な定食屋風の夕食を

2014年9月1日
編集部

 旅と恋愛は似ているのかもしれない。昔、イラストレーターのみうらじゅん氏が「女にモテる男と酒を飲んでも、ちっとも面白くない。モテない男の悪あがきや、失敗談を肴に飲むのがいいのだ」というような趣旨のことをコラムで書いていたのを覚えている。モテる男の成功談なんて、モテない男にとっては、羨ましいだけである。格好悪い部分が一切ない自慢話に尽きるので、モテない男たちは「いいなぁ、いいなぁ、オレもそんなイイ女と一生に一度でいいから付き合ってみたいなぁ」くらいしか相槌が打てない。

 一方、モテない男は、欠点が幾つもある女を妥協しながら選び、それでもその女のいい部分を一生懸命に探し出して「このくらいが自分とはちょうど釣り合うレベルだろう」と考え、あの手この手と思いを巡らし、策を練って告白するのだが「撃沈しちまった!」というような話は何度聞いても笑える話だ。男はこの手のエピソードを山ほど持っている方が、「男同士の飲み会」ではモテる。

 旅も似ている。富裕層なら、地域一番の高級ホテルや旅館の一番高い部屋を予約すれば、何の不足もなく満足感を得られる。仮に気分を損ねる対応があったとしても、ひと言注意すれば、宿側が平身低頭でお詫びにくる。しかし、それでは他人に話しても羨ましがらせるだけだ。自尊心はくすぶられるかもしれないが、エピソードとしては、弱い。話せば話すほど自慢話に聞こえるので、良識のある人間はあまり多くを語れない。

 旅でも面白いのが、ボロ宿に泊まった話や、「いわく付き」の部屋に泊まった奇妙な経験、辺鄙な場所にある一軒宿だが、「昔は相当に綺麗だったんだろうなぁ」と想像させる翳ある女将さんがいる宿など、完璧ではない、庶民レベルの宿の方が、エピソードが豊富である。

 財布の中身に余裕がないという境遇が前提にあるのだが、やはり旅にも「エピソードや思い出がたくさんほしい」という気持ちが働くのか、同じ料金なら、フロントでしか人との触れ合う機会のない一般的なビジネスホテルよりも、仲居さんが到着時にお茶を入れに来て世間話などをしたり、部屋まで食事を運んでくれる安い旅館や民宿を選んでしまう。色々「アラ」も見える。畳にお茶をこぼしたシミがあったり、襖の隅が破れたままであったり、ドアの閉まりがイマイチだったり、テーブルに煙草の焦げた跡があったり。欠点だらけの宿だが、「オレにはこのレベルの気安い宿が似合っている」と宿の至らなさを温かく許し悦に入る自分がいる。

 ただ、そんな気安い旅館にも一つだけ、お願いをしたいことがある。それは、泊食分離で素泊まりと、豪華な料理付きのプランに分かれているのはいいのだが、例えば1人で海辺の宿に泊まる場合、素泊まりでは味気ないし、舟盛り料理を1人で食べるのは、もっと味気ない。2千円くらいで、地元のお刺身などを味わえる「ちょっと贅沢な定食屋風の夕飯」のようなプランを設定してもらえると、出張序でのサラリーマンにも喜ばれると思う。山の湯治宿には、適量で、適正料金の家庭的な料理を美味しく出してくれる宿が多い。海辺の宿も「素泊まり5千円+美味しい家庭料理2千円」のようなプランを作ってほしい。そして宿との温かい思い出を多くの旅人に提供してほしいと思う。

(編集長・増田 剛)

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