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カブトムシをプレゼント ― 自然豊かな田舎旅館の夏の風物詩

2014年8月20日
編集部

 7月の終わり、末の息子と近所の小さなスーパーに行って、晩ごはんの買い物をしてレジに行くと、レジのおばちゃんが息子に「ボク、カブトムシいる?」と聞いた。息子は目を輝かせて頷くと、オスとメス1匹ずつの計2匹くれた。「ありがとう」とお礼を言ってレジを去ろうとすると、「ボク、お兄ちゃんいる?」と聞かれ、息子が頷くと、おばちゃんはもう2匹くれた。計4匹のカブトムシをもらって、私と息子は喜んでマンションに帰った。しかし、レジのおばちゃんは安堵の表情で「ああ、もらってくれて良かった」と言っていたのが、耳に残った。おそらくスーパーの特典としてカブトムシをプレゼントすることが決まったのだが、何人かの男の子や女の子に声を掛けたにも関わらず、思うようにカブトムシを欲しがる子供や親がいなかったのかもしれない。

 私が子供のころは、クワガタはたくさん捕れたが、カブトムシはなかなか捕れなかった。このため、デパートの屋上でカブトムシが売っているのを見つけると、「買って!」と何度もねだったものだが、今は外国に生息する巨大なカブトムシを目にすることはあるが、普通のカブトムシを販売する風景をあまり見なくなった。

 昨年も、その前の年も、同じマンションの住民から、うちの息子たちはカブトムシをもらって帰っていたし、公園で遊んでいると、通りすがりのおじさんがカブトムシをくれたことも2、3度あった。

 カブトムシは、少なくとも我が家に関しては、今も変わらぬ夏の風物詩である。

 8月の初め、深夜に強かに酔っ払って帰ると、マンションの玄関にカブトムシのオスがひっくり返っていた。赤ら顔で足の爪先で転がしてみると、まだ元気に生きていたのでそのまま家に持って帰った。その翌日の深夜、長男が部屋の網戸にカブトムシのメスが引っかかったといって、ベランダに持ってきた。カブトムシは仲間がいると、遠くから集まってくる習性があるのだろう。カブトムシを飼っていると、毎年どこか遠くから、うちのマンションのベランダに飛来してくる。東京近郊の住宅街だが、カブトムシが飛んで来てくれるのが、うれしい。

 私も休みの日には暇に飽かせてベランダでカブトムシを摘まみ出し、角を持って、小さな愛嬌のある目を見たり、腕に掴まらせたりして遊んでいる。

 今夏も、例えば石川県・和倉温泉の宿守屋寿苑では、世界農業遺産に認定された「能登の里山里海は自然の宝庫」を存分にPRしながら、ファミリープランの夏休み特典として「お子様にカブトムシプレゼント!!」(飼育カゴ付き)を実施している。小さな、素朴なプレゼントではあるが、私はこんな宿のプレゼントが好きだ。全国各地の多くの旅館・ホテルでも子供たちにカブトムシのプレゼント企画を行っているだろう。

 でも、カブトムシをもらって喜ぶ子供たちは減っているのかもしれない。それだからこそ「おぉ、すげぇ」などと興奮して大声を上げながらカブトムシを摘まんだり、覗き込む小さな子供たちの後ろ姿は愛らしい風景である。さまざまな季節感が失われつつある日本にあって、自然豊かな田舎の旅館が、夏休みの子供たちを迎えるにあたって「カブトムシをプレゼントする」気持ちは、正しい姿勢だと思う。

(編集長・増田 剛)

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